第202話 東京の夜は美しい
「今日は楽しかったです! 皆さん、田舎者の私に東京を案内してくれてありがとうございます!」
「いやいや、良いってことよ。もともと僕の用事があってそれのついでだったし。それにチカを案内しながら僕達も楽しんでたしね」
サンシャイン水族館の見物を終えた四人は、サンシャインシティでショッピングを楽しんだ。日が沈むまで、色々な物を買えて心の底から満足することができた。
「それにしても、このビルは本当に大きいですね。あの上からはどんな景色が見えるのでしょうか?」
「気になる? それなら最上階に上ってみちゃおうか!」
「え、のぼれるんですか!?」
「うん、サンシャイン64は一番上が展望台エリアになっていてね。一般人でも行くことができるんだ。僕も小さい頃に一度だけ上ったことがある」
「懐かしい、私と一緒に行ったのよね。良い景色だったわね」
「せっかくだから私も行ってみたいです!」
「私も行きたいよん!」
「それじゃあ綺麗な景色を目に焼き付けて、東京の思い出にしにいこうか!」
四人はサンシャイン64の館内へと足を進めた。
「長いですね〜。人生でこんなにエレベーターに長時間乗ったのって初めてです!」
四人は展望台のある最上階に向かうため、エレベーターに乗っている。六十四ものフロアを上がるため、かかる時間は当然膨大になる。
「僕的には階段で上っても良かったんだけどね」
「あなた頭おかしいんじゃないの!? 人間が六十四階まで階段で行けるわけないじゃない!」
アニメショップの八階でバテていたユリからすれば、六十四階など想像もつかないほど過酷な世界だ。
「そんなきつくもないよ。僕はちょっと前に、サンシャイン64よりも高い東京タワーの頂上まで階段で上れたよ」
「バケモンね…… あなた人間じゃないわ……」
ユリはリョウコの身体能力にドン引きする。しかし、実は階段による東京タワーの登頂はそこまで困難ではない。東京タワーの階段は誰でも利用することができ、小学生程の年齢でも登頂に成功した者は多い。
「でもさ、ユリ。こういう大きい建物を階段で上る経験、一度はしておいた方が良いよ」
「また気合とか根性とかそういう話? 聞き飽きたわ」
「違う違う。根性論とかじゃなくてもっと現実的な話で。例えば将来、ユリがめちゃめちゃ高い階のオフィスで働くことになるとするじゃん。その時、もしエレベーターが故障してたらどうするの? 階段を使うしかないでしょ?」
「そ、そうね……」
思っていたよりまともなことは言われ、ユリは虚を突かれる。
「だから階段を上ることに慣れた方が良いよ。今度特訓する?」
「か、考えておくわ……」
ユリは適当にはぐらかす。
そんなやりとりをしているうちに、エレベーターの「ピンポン」というベルの音が鳴り、扉が開いた。
「やっと着きました〜!」
四人はサンシャイン64の最上階、展望フロアに到着した。
「いやぁ〜、長かったわねぇ……」
「長過ぎて、もしエレベーターがぶっ壊れて急降下したらどうしようとか妄想してたよん!」
「お、リアルタワーオブテラーだね! 偶像の呪いでエレベーターが死の箱へ!」
「シートベルトも無いから皆、死んじゃうよん!」
「ちょっと、怖い話しないでちょうだい! 帰りのエレベーターでずっと震えてなきゃいけなくなるでしょ!」
ユリは意外と小心者で、怖い話を聞くとしばらくの間、それを忘れられなくなる。この日から一週間くらいは一人でエレベーターに乗れなくなるだろう。
「どんな景色が見れるのか、ワクワクが止まりませんね!」
「よし、それじゃあ行ってみようか」
四人は外の景色が見える場所まで移動した。
彼女達の目には、夜の東京の景色が飛び込んでくる。真っ暗な空、そこで輝くビル群の光。この光の数だけ人が生活していると思うと、見えてくるドラマがある。山や川などの自然の風景も悪くはないが、人工的な物からしか感じられない物もあるのだ。
「っ……」
初めて見る光景を、チカは何と表現すべきかわからず息を飲む。綺麗、美しい、そんなありきたりの言葉では言い表せないような感情が湧き上がる。そして、目が潤んできた。
「え、泣いちゃった!? でも、そうなる気持ちもわかるわ。こんなしっかりと夜景を見たのはきつぶりかしら」
「前に僕達がここに来た時は昼間だったからね。やっぱり東京の景色は昼よりも夜だね!」
「あれは東京タワー! あっちはスカイツリー! 東京の有名な建物が一望できるよん!」
「都会の景色っていうのも良いものね……」
夜景を眺め、それぞれが感傷に浸る。
「急に泣いてしまってごめんなさい。ついつい気持ちが昂ってしまって」
「良いのよ。私も一瞬涙出そうになったし」
「今までの人生でこんなに素晴らしい景色は初めてです! 皆さん、最高のプレゼントをありがとうございます! 今日の日のことは一生忘れません!」
「一生って、大げさよ」
「いえ、本当に一生忘れません!」
「僕達はこれから、もっともっとたくさん思い出を作っていくよ。それを全部忘れられずにいられるかな?」
「はい、もちろんです!」
「よし、よく言った! 僕達のメモリーは永遠だぜ!」
それから四人は心ゆくまで東京の夜景を楽しむと、自分達の町へと帰っていった。




