表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/31

【6】悪霊令嬢、戸惑う

 驚きが強かったのか彼の表情には常に存在していた私への嫌悪は浮かんでいない。

 そういえば神出鬼没なストーカー女の印象が強いリコリスだが、このようにルシウスに触れることはなかった。

 良くも悪くも観察者タイプだったのだろう。前世の記憶が戻った今ならわかる。

 悪役令嬢リコリスと婚約者であるルシウスの関係は迷惑ファンとアイドルそのものだったのだと。

  決して自分が恋人になりたいわけではないのだ。

 だけど彼に恋人が出来ることは許せない。彼のことは全部把握したい。だから親の権力を使って強引に婚約した。

 しかしこんな愛情表現、向けられる側にとっては不気味で厄介な物でしかないだろう。

 蜘蛛が自分の巣に気に入りの蝶を捕え続けるようなものだ。相手のプライベートや尊厳を無視している。

 だからルシウスの私を見つめる瞳に常に嫌悪と怯えが浮かんでいたのも仕方がない。

 今近くで見上げる彼の顔も美形なことは変わらないが目の下にうっすら隈ができていて顔色も悪い。

 逃げたくても親の決めた婚約だから破棄できない。そして黒魔術の得意なリコリスに常に監視されている生活。

 婚約をしたのは十歳の時で、それから長年リコリスに偏執的な感情を向けられ続けてきている。

 彼の精神に限界が来ていても仕方がない。

 だからこそヒロインとの関係を強く責める気にはなれないのだ。


「リコリス、お前……」

「……ごめんなさい、ルシウス。私のせいでずっと大変だったよね」

「え……?」


 驚いたような声に自らの失敗を悟る。

 しまった。リコリスのことを客観視し過ぎてプレイヤー時代に完全に口調が戻ってしまっていた。

 前世のゲームキャラと同じつもりで彼の事を呼び捨てにしまった。これは不味い。

 ヒロインと女生徒たちに割って入った時はそれなりに上手く悪役令嬢として振舞えていたのに失敗してしまった。

 彼との突然の遭遇と急接近で予想よりも混乱していたのかもしれない。

 どう言い訳しようと戸惑う私の肩をルシウスは強く掴んだ。まるで電撃を受けたように体が硬直する。

 私も、そしてリコリスの体も人との接触に慣れていないのだ。しかもこんな美形の異性から触れられるなんて。 

 前世で恋人どころか家族や会社関係、そして店員以外の異性とろくに話したことのない私には喜びより恐怖が勝った。


「ひえっ」

「リコリス……もしかして、昔の君に戻ったのか?!」

「……は?」

「俺のこと今ルシウスって呼んだだろ、それに目つきだっていつもの禍々しいものじゃない……昔の花のような君に戻ったんだな!」


 間抜けに口を開けた私を捕らえたまま、先程まで青白かった頬を紅潮させて婚約者が叫ぶ。

 花のような君に戻った? 何のことだ。前世もリコリスに転生した後も私はずっと陰属性だ。

 寧ろ今の彼の顔面こそ明るく光り輝いている。私が本当に悪霊ならその笑顔が眩すぎて消滅してしまいそうだ。

 それ程にルシウスは喜んでいる。しかしその理由がこちらには全く見えてこない。

 私の戸惑いは減るどころか増えていくばかりだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ