【23】悪霊令嬢、警告される
闇精霊は光属性が大嫌いらしい。
更に言うなら他の属性のことも好きではないし同じ闇精霊でも打ち解けたりしないという話だった。
私はそれをハイドラから聞いて、心底面倒くさいタイプだなと改めて思った。
闇属性の魔力を持つ人間には比較して好意的だが、それは子分もしくは遊び道具だと考えているのが理由とのことだ。
滅茶苦茶ろくでもない存在だなと再確認した。
「でも他の精霊たちが断るような願いも叶えてくれるからアングラな人気はあるよ」
ハイリスクハイリターンって奴。そうハイドラは笑う。縋る人間の足元を見るということか。
差別や偏見ではなくストレートに邪悪な種族じゃないか。私は笑えなかった。
ゲーム内でルシウスと恋愛状態になる為には光属性と戦闘パラメータの高さが必要になる。
ヒロインがハッピーエンドを迎えるには更に高い数値が要求されるらしい。
ルシウスの婚約者でありルートのボス的存在、闇魔法の使い手であるリコリスに対抗する為だ。
逆に言えばリコリスはそんなヒロインに勝たなければいけないのである。
光属性は闇属性に優位で特効も入るのだから本当酷い。
でも私はプレイ中一度もルシウスルートでハッピーエンドを迎えたことはなかった。
それが悪霊令嬢が必死に努力した結果だと考えるとルシウスとヒロインが結ばれるのは酷く残酷なルートだと陰鬱になった。
「でも今のリコリスはアイツに興味ないんだよね?」
「興味というか、恋愛感情はないわね。寧ろ苦手に感じているわ」
「じゃあ他の奴らが戻ってこなくても別にいいか。闇妖精だから仕方ないけど皆薄情すぎ」
契約者が大怪我したなら庇護するべきだし、手遅れなら苦しまないよう殺してやるべきなのに。
そう笑顔で言われても同意できない。
話しやすい雰囲気だから打ち解けてしまったが、自分はこの男に殺されかけたばかりだったなと再認識する。
しかしそれも私を偽者だと思ったからだと考えれば、恐ろしいなりに筋は通っているだろう。
それにハイドラは私が気を失っている間色々世話を焼いてくれていた。
「私の体を保健室に運んでくれたことには感謝しているわ」
「こうやって教室から荷物を持ってきたことも褒めてほしいな、姉貴」
なんてね。その言葉と同時に起用にウィンクしてくる。アイドルとかが向いていそうだ。
生徒たちは偏見と嫌悪で、教師たちはそれに加えて知識と勘でリコリスの体に触れることを忌避した。
だからハイドラが自分をリコリスの弟だと周囲に認識させ私を保健室に運んだらしい。
養護教諭が不在だったのは、私を突き飛ばした後のルシウスの顔色が悪かったので女生徒が教室に連れて行ったとのことだ。
人気の男子生徒と嫌われ者の悪霊令嬢、好感度が違いすぎるとはいえ何だかなと思う。
早退の準備をハイドラがしている間に私は保健室で覚醒。そして職員室を目指してヒロインやルシウスとバッタリと言うわけだ。
そういえばルシウスは何故廊下に居たのだろう。
彼が人気生徒で相手はストーカー婚約者とはいえ暴力行為には変わりはない。
即警察を呼ばなくても生徒指導室辺りに隔離してもいいのでは。私はハイドラにその辺りを尋ねた。
「気分が悪いから吐いてくるって教室を出たらしいけど、オレは逃げようとしたんじゃないかなって」
「もしそうなら百年の恋も冷めるわ」
「そうそう、あんな奴捨てちゃいなよ。でもオレには絶対惚れないでね」
「……わかってるわよ」
親切にしたからって勘違いするなでしょ。私はなるべく素っ気ない声で返す。
自分のことが好きだから優しいのだと思い込んで、相手に迷惑をかけたり酷い振られ方をする。
そんな体験談はネットに幾らでも転がっていた。
だがハイドラはそうではないと私の唇に人差し指で触れる。
「オレはリコリスのこと好きだよ。今のアンタもね。でもリコリスが俺に振り向いた瞬間どうでもよくなるし捨てちゃうから」
これからも一生懸命尽くすし優しくするけど気を付けてね。
そう蠱惑的な笑みで言われて、私は眼前の男をろくでもない存在選手権の金メダリストに認定した。




