おっぱい女との邂逅
同日、時刻は深夜4時阿久津無区は廃墟にて敵集団との抗争の後一人で誰もいない静寂な公園のブランコに座っていた。
「・・・・。」
どうやら敵であるおっぱい女のおっぱいを揉んだだけではフラれた痛みは解消されないのだろう。
静かな公園は阿久津の心に寄り添うようにその静寂さを保っていた。
「なぁ、あんた・・・。」
不意にかけられた声に阿久津は地面に下ろしていた視線を気だるそうに上げた。視線を上げた直後、阿久津はとっさに臨戦態勢をとる。
「おいおい、違うって。戦う気は無いから。」
手を前にしてぶんぶんと振りながら否定をする少女の声。阿久津はその見覚えのある金髪と自身が唯一感触を知っているおっぱいを持つ女・・・。そう、先ほど廃墟で戦っていたおっぱい女である。
「そんな言葉信じられるわけないだろ。俺たちは敵同士だ・・・。」
流石の事態に普段無口の阿久津も重く口を開ける。
「うわっ喋った・・・、あんたって喋れたんだね。」
酷い言い草に阿久津は失恋の悲しみも相まって一瞬高跳び自殺を考える。
「いや、本当にここには偶然通りかかっただけ。家近くだし。」
「そんなこと俺に言って良いのか?俺はお前が所属している組織の敵だぞ。」
「いや、あんた誰にも言わないでしょ。あんた、私を敵だって言うわりに私を殺す気ないでしょ?」
「・・・。」
おっぱい女の考えはあっていた。阿久津は初めてこの女と手を合わせた時からこの女を殺すつもりは無かった。それは阿久津が善人だからではない。事実、阿久津は組織からの命令で数人をこの世から消している。
「なんで私を殺す気無いのか知んないけどさ、正直あんたが今まで本気を出していたら私が今も生きてることは無いってわかってるし。」
「・・・あぁ、確かに俺はお前を殺すつもりは無い。だが、そんな事を確認するためにわざわざ話しかけてきたのか?」
「そんなことって・・・、結構重要なことだと思うけど・・・。まぁ、それだけじゃないよ。」
「まだ、何かあるのか・・・?」
阿久津は解答を促したがおっぱい女は顔を赤らめもじもじしながら言いにくそうにしている。そして、この態度を見て阿久津は気づいてしまった。いや、正確には的外れな考えなのだが・・・。
(この女・・・、俺の事好きなんじゃね?)
なぜ、昨日フラれたばかりでそんな考えに至るのだろうか。頭が沸いているとしか思えなかった。
阿久津の胸中では俺の強さに惚れたんだろといった推察をしている。最早、阿久津の中では惚れたという結論以外出ていなかった。
少し気分が浮きながら得意げな顔をしている阿久津の前で、もじもじしていたおっぱい女の重い口が開いた。
「あのさ・・・。最近気づいたんだけど・・・、なんで戦闘中ちょくちょく私の胸を触んの・・・。」
「・・・!」
阿久津にとってその発言は青天の霹靂だった。彼はさりげなくおっぱいを触る技術に関しては自信があったのだ。
ペットボトルのラベルを素早く剥がすという特技と同じくらい得意なことだと思っていた。
「いつから、気づいた・・・。」
「いやまぁ・・・、先月戦った時からおかしいなって思っててそれで・・・。」
「・・・。」
沈黙だった。元々静寂だった公園内はより一層その静寂さを増強していた。それもそうだろう。
片やセクハラの加害者、片やセクハラの被害者だ。この両人の間で言葉が活発になるのは裁判中だけだ。
「てか・・・。なんで毎回おっぱい触ってたの・・・。」
「・・・触りたかったからだ。」
開き直りやがった。こうなってはもう後に引きさがることなど出来ない。
そもそも、セクハラをする動機など己の下らない情欲を満たすためだけだ。
「・・・あんた最低だね。」
「いや、逆に考えるんだ。まだ触られていた方がましだったと。」
「はぁ、それどんな言い訳よ。」
「お前にその暴力的なおっぱいが無ければ、俺はお前と初めて戦闘した時に殺していた。」
「・・・え。」
「逆におっぱいを触られているだけで済んでいると考えれば命を取られるよりましだという考えに至らないか?」
いや暴力的なのはどう考えても阿久津の論理だろう。
確かに殺しはしていないがセクハラという犯罪行為をしているのでどっちみちクズには変わらない。
こんな主張ではおっぱい女を納得させることは到底出来るはずがない。
「確かに!」
あほだった。上手くセクハラ男に丸め込まれているおっぱい女の図がそこにはあった。
恐らく、おっぱいにしか栄養が行っていないため思考する能力が著しく低下しているのだろう。
「そう考えたら、あんたってめっちゃいい人じゃん!」
「・・・だろう。」
(この女・・・あほほどあほだぞ・・・。)
流石に阿久津も自身が言ってる論理に正当性が無いことはハッキリ分かっていたようである。
しかし、おっぱい女があまりにも頭に栄養が行っていないため難なく言いくるめられたことにその論理を展開した本人である阿久津さえも釈然としない気持ちでいた。
「てゆうか、あんた話してみると以外とおもろいじゃん。」
「・・・そうか。」
ちょっと嬉しい阿久津である。
「ねぇあんた名前なんて言うの?」
「ばかが・・・俺たちはあくまで敵同士だぞ?本名なんて言うわけないだろう。」
「えぇ~別にいいじゃん。うちら談合するんだしさ。」
「談合?」
おっぱい女が提案した物は阿久津にとって頭を傾げる提案だった。
「今後も私の胸を触らすことを許してあげるから、あんたは私の事を殺さないってこと。」
「・・・その内容を仮に飲むとしても、一つ問題がある。」
「なに?なんか聞きたいことあったら言ってよ。」
「その内容だけだとお前は俺を殺してもいいという事になるが・・・。」
「うん、それはそうだよ。」
さらっと言われた一言に阿久津は眉間に皺を寄せる。そりゃそうだ。
おっぱい女は私を殺してはだめだけど私はあなたを殺すといったものだからだ。
いくらおっぱいを触れるといってもこの提案を飲むバカはいないだろう。
「流石にそんな提案受けれるはずがないだろう・・・それは足元見すぎだ。」
おっぱいに飢えている阿久津も物事を冷静に考えられる理性はあるようだ。
そもそも阿久津は許可がなくてもこの先おっぱい女と会うたびにおっぱいを勝手に触っていたことだろう。
「じゃ、じゃあこの先こうやって二人きりで会ってちょっと胸触らしてあげてもいいよ・・・。」
「よし、談合成立だ。」
この男もバカだった。いっそ清々しいが自分がどんな決断をしたのか分かっているのだろうか。
いや、すでに阿久津の頭の中は目の前に揺蕩うおっぱいのことで埋まっているため何も考えられないのだ。
「じゃあ、そういうことで談合成立ね。じゃあとりあえず連絡先交換しよっ。」
「・・・分かった。」
「・・・む、胸を個人的に触らすっていうルールにしちゃったし、その時の待ち合わせに使うだけだからね。それ以外でメッセ送ってこないでよ。」
「・・・。」
阿久津の耳にはおっぱい女の声は聞こえていなかった。
女子と連絡先を交換するというシチュエーションに軽く興奮していたからだ。
「ねぇ、聞いてる?」
「あ、あぁ了解した。」
少しどもりながらも返事をして、その日は直ぐに解散となった。
家に帰った阿久津は狭いワンルームの座椅子に座りながら連絡先の名簿を見て・・・。
「これが、女子の連絡先か・・・。」
初めて手にした女子の連絡先に頬をひくつかせる阿久津であった。