阿久津無区という男
ある商業作家の作品がおもろしくて書いてみようと思いました。
一応ラブコメですがコメディ成分多めです。
高校二年生阿久津無区は今、校舎裏にて一世一代の大勝負に挑もうとしていた。
「僕と付き合ってください。」
そう告白である。
「ごめんなさい。」
撃沈である。何の躊躇いもない一言である。
彼の気持ちの籠った言葉は一蹴され....。
「....じゃあもう行くから。」
後には頭を下げたままの少年の姿が空しく残ったという。
時が少しだけ進み彼の自室にて阿久津無区はなんとも言えぬような表情をしてかれこれ三十分くらい彼の住居である三階建ての安いアパートから何の変哲もない夜空を眺めていた。
「....。」
彼の胸中にはどのような感情が渦巻いているのだろうか。なんにしてもその感情は彼にとって最悪に等しいものだろう。
ブウブウブウ....。
ふと彼の携帯が鳴った。彼は無視を決め込もうとしていたが十分経っても携帯のバイブ音が空しく部屋に響く。
彼はため息を吐きながら通話ボタンを押した。相手は彼の上司にあたる人物である。
「遅いぞ。早く出ろ。」
低く荒々しい粗暴な声が彼の鼓膜に届く。
「腹痛でうんちにいってました。」
うんちは彼の常套手段である。
「今日深夜二時に相手の組織と密会を行う。護衛としてお前も来い。」
それだけ言うと、彼の上司である男は通話を切った。
「....。」
部屋にはまた重苦しい空気と静寂が残る。彼はいそいそと支度を始めた。
場所は変わり、廃墟と化したビルの中に重苦しい二つの集団が向き合っていた。一方の中には先ほどフられたばかりの哀れな学生も混じっている。
「これが例のブツだ。確認しろ。」
背丈は180cmを優に超え、低く荒々しい声をした男(阿久津無区の上司)が何かが詰まったアタッシュケースを放り投げる。
「...では確認させて頂きます。」
対面にいる細身の男が打って変わって慇懃な態度で部下に中身を確認させる。
今日女にフられた彼と言えば、早く終わらないかと欠伸を噛み殺していた。
細身の男の集団が確認を終えると、阿久津無区のいる集団へ何かが入ったアタッシュケースを差し出していた。
「...ハハっ。確かに貰ったぜ。」
中身を見た阿久津の上司はニヤニヤとしながら粗暴に言う。
「...では今日はもう解散としましょうか。」
細身の男のその言葉を皮切りに二つの集団は背を向いて去ろうとしていた。
「今です!やっておしまいなさい!」
細身の男の声が廃墟内に響く。
「そう来ると思ったぜ!野郎ども殺るぞ!」
それを見越していたのか阿久津の上司は拳銃を引き抜きながら彼の部下達に合図をする。その部下の中にはもちろん先ほどフられたばかりの少年も混ざっている。
直ぐにドンパチが始まり、廃墟内にはけたたましい銃声が鳴り響く。次々と人が倒れてゆき、とても法治国家とは思えない絵面である。
そんな中、件の少年は右手に小さなナイフを握りながら廃墟内を縦横無尽に動き回っていた。
彼の動きはとても常人の動きとは思えないスピードで次々と相手方の集団内に入り込み、右手に握ったナイフで切り裂いていく。
「早くその少年を殺すのです!」
細身の男が怒号を挙げながら部下に指示するが、一向に阿久津の動きは止まらない。
時には凄まじいスピードで銃弾を避け、時には敵の懐に潜り込み同士討ちを誘い込んだりする。
そんな彼の攻防によって元々いた相手方の人数はだいぶ数を減らしていた。
そろそろ終わらそうかと彼が考えていた時、さっと阿久津の前に影が躍り出る。
背丈は阿久津と同程度でしなやかな身のこなしで阿久津の攻撃を受け流す。
「遅いですよ!何やってたんですか!!」
細身の男の受け、その新手の敵は....。
「ごめんごめん、少し寝坊してた。」
声は低いが明らかに女性を感じさせる声でそう返したのだった。
それから時間は経ち、辺りは立っている者よりも倒れている者が多い中で二つの影がせめぎ合っていた。
一方は今日(厳密に言えば昨日)フられたばかりの阿久津無区であり、もう一方は新手の敵(女性)である。
女はポニーテールにした金髪の髪を揺らしながら件の彼と渡り合っている。彼も先ほどまでは余裕があったが眉間に皺を寄せながら攻防を続けていた。
「...っちあんたやっぱ強いね。」
攻防が中断され睨みあっている状態で彼女はそう呟く。
「お前も前より強くなってる....。」
ここまで口を開かなかった彼も相手の女に称賛の言葉を送った。
「あんたに褒められるってうれしいね。」
女はニヤっと白い八重歯を見せながらそう語った。
「....。」
何も語らなかった彼であるが内心は少しうれしいのである。同年代くらいの女性と接したことが極端に少ない彼は場違いな喜々とした感情をその心に宿していた。
「じゃあ....。そろそろ始めるよ!」
女はそう言うと、阿久津に向かって駆け出す。彼は彼で眉間に皺を寄せながら、攻撃を向かいうつ。
今更であるが彼女の攻撃方法は素手である。普通ならありえないが彼女は阿久津のナイフによる攻撃を彼女自身の肌で防いでいる。
「おらおら!どうした!まだまだあたしを楽しませてよ!」
女は阿久津の動きを一切見逃さないように目を光らせ、的確な攻撃を浴びせていく。一方の阿久津は眉間に皺を寄せてある一点に集中していた。
やはり素手が武器である彼女の手だろうか、それとも足の動きを見て蹴り技を警戒しているのだろうか。
答えは....、彼女の溢れんばかりに揺れるおっぱいである。
敵である彼女は立派なおっぱいを持っているのにも関わらず、素早い動きをするのでそれはもうぶるんぶるんと揺れるのである。
阿久津本人は知らないがこれでも彼女はさらしを巻いてるのである。さらしを解いた時が彼女の本当の実力が見えるのであろう。
「....。」
しかし、彼女も手練れなので阿久津も黙って見ている訳にはいかない。おっぱい女の攻撃を押し返すようにこれまた的確な攻撃を加えていく。
「くっ....!」
その攻撃を受け、今まで押せ押せ状態だったおっぱい女の攻撃が徐々にひるんでいく。外野から見ても阿久津の方がおっぱいの大きい彼女よりも実力があるのは分かるだろう。
実際に阿久津はこの攻防の中で彼女を戦闘不能にさせるような攻撃をするチャンスがあった。しかし彼は一向にそれをしない。
それどころか彼は右手に持っているナイフではなく、何も持っていない左手で攻撃をしているのである。
素手で戦う彼女に敬意を払って彼も素手で戦っているのだろうか。
阿久津は彼女の生足から放たれる蹴り技を左手で防ぎ、彼女の胸に掌底を叩き込む。彼の手には彼女の柔らかな肉の感触が伝わる。
そう、彼はあたかも戦闘をしているように見えておっぱい女に対してセクハラ行為をしていたのである。
その証拠に今まで無表情だった彼だが今は少し口角が上がっているのが確認できる。
彼はこのまま長々とセクハラを続けるつもりだったが....。
「もういい!帰るぞ阿久津!」
彼の上司の荒々しい声が阿久津の鼓膜に響いた。彼は少し名残惜しそうにおっぱい女との攻防を止め、上司の元へバックステップで戻っていく。
今まで倒れていた阿久津以外の部下達も銃弾を身に受けているのにも関わらず、のそのそと立ち上がり始める。
阿久津達の集団はそのままこの廃墟から撤収していった。
後には細身の男の集団と阿久津の背中を少し頬を赤らめながら見ているおっぱい女の姿だけが残った。