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研究者と塔

 

 笹原のおざなりな自己紹介の後、薫達は彼女に従って次の場所へ向かう事になった。

 いちいち集合して確認するのをめんどくさがった彼女が、勝手に着いてこいと言っていたが、それを先程軍曹と呼ばれていた壮年の男が遮って各自を並ばせて歩き出す。


 先頭には笹原と軍曹が、その後ろに二人の兵士を挟み少し間を空けて薫達。そして薫達を挟むように等間隔に兵士が配置されて歩いている。



 こえぇぇ…自動小銃持ってんぞ。アメリカで護送される凶悪犯かよ。

 学生には明らかに過剰だっつーの。いらねーよ絶対。

 こりゃあ多分俺らが迷わない為とかじゃないだろ…

 なんとなくだけど、どうもあの姉ちゃんを警戒してるような感じがするんだが。


 ―なんか嫌な予感するな…


 そんな事をつらつらと考えている薫だったが、その間も集団の歩みが止まる事はない。

 やがて行き止まりまで来た時に、隣にいたクラスメートが緊張と興奮に耐えかねたかのように喋りかけてくる。


「な、なあなあ薫。行き止まりだけど、これどこ行くんだろうな??」


 そんな問いかけをクラスメートがしてくると、近くにいる兵士の視線が一気に薫達の方向へ集中するが、なにやら暫く確認すると他の場所に視線を巡らせ始めた。

 どうやら喋る事は問題にはならないようである。


「あー……アレじゃね?パスワード打ち込んだら開く隠し扉的なやつ。」

「いやいや、壁しかないぜ?」

「じゃーアレだあれ。最新の技術とやらで壁がパネルと扉になってんだよ、多分。」

「スターウーズかよ…そんな技術聞いた事ねーわ。」

「安心しろよ。俺も聞いた事ねぇ。」

「相変わらずテキトーなやつだ「あっ」な??」


 薫に話しかけて来たクラスメートが、会話の途中で壁に手をついたその瞬間。


『ピー、ピー、ピー、ユーザーとして登録されていない生体です。アドレス取得中…キーパス1確認。単独でのアクセスは許可されません。不正アクセスとして排除します。』


 サイレンを鳴らしながらどこからか抑揚のない機械的な合成音が聞こえてきた。

 照明は点滅を繰り返し、何やら不穏な警告を繰り返している。


「おいおいおいおい…ヤベェ!明らかにヤベェぞ!早く手離せ馬鹿!不用意に触るなって言ってただろが!!」

「いや…いやいやいや!壁に手ついただけでこんなの予想できるかよ! て、て、てぇ離したぞ!」

「……サイレン鳴り止まねーぞおいぃ!?って馬鹿こっち来んな、あっちいけあっち! 明らかにお前狙ってる感じの光が! 照準が出てんだよ!! 死ぬ時は一人で死ね!!!」

「いやだあぁぁあ!薫ぅう!!助けてくれぇ!!?」

「無理だむりぃ!!しょ、職員っ 笹原さんは!?」

「あっはっはっはっはっは!!! 彼等がやってくれたぞ軍曹! 数年に一度はやらかして大慌てする奴がいると聞いていたが、なるほどコレは愉快だ!! っくっくっく」

「笹原教授。笑っていないで早く停止を「いてぇえええええ!!?!?」…あぁ…やれやれ全く……」

「あははははははは、あっはっはっはっはぁ!」


 クラスメートに向けて何かの物体が発射され、当たった瞬間感電したかのように痙攣する。

 当たった瞬間の絶叫が廊下に木霊するが笹原は構わず笑い続けているし、軍曹はため息をついて部下に他の学生達を落ち着かせるよう指示を出している。

 その間、なんとか射出物を避けて難を逃れた薫のそばでは、クラスメートが丘に打ち上げられた魚のようにのたうち回っている。

 明らかに通常では感じない痛みを感じている動き方だ。


 ―やべぇ。 こいつなんか凄いキモい動き方してる!

 ってゆーか、学生がのたうち回ってんのに、あの女(笹原)ずっと笑ってやがる…っ


「ふー……いやぁ、最近の学生はイキがいいな!!

 コレは私が作ったものでね。ここは壁一面が生体認証のパネルになっているんだが、権限の低い者が迂闊に触ると電撃を発生させるボールを撃ち込む様になっているのだよ。

 ああ、彼には触らない様にね。

 溜まった電気を放出し終わるまで電撃が続く様になっているから。 なに、捕縛用だから後遺症も残らないし、そろそろ終わるから大丈夫だよ。」


「………できれば先に言って欲しかったですよ…」


「ふふふ。 すまないねぇ。ついつい実際に動作するところを見てみたくなってねぇ。 なかなか良い実験になったよ。ありがとう。」

「確信犯かよ……っ」

「そうだねぇ。誰かやらかさないかなー、とは思っていたよ?君はよく避けたよねぇ…ふむ…驚いたよ。

 …さあ軍曹。どうやら終わった様だから、彼を医務室に()()()あげたまえ。あとはまあ、問題はないだろうから、一通りチェックして動けるようになったら戻っておいで。」

「…了解しました。 伍長!彼を丁重に医務室へ!」

「はい!了解しました。」


 兵士の一人が電撃から解放されたクラスメートを連れて行く。どうやらいろいろと衝撃で声も出せないようだが、()()()()()()()ようだ。


「む…まあこのように許可なく触ると痛い目にあうものもある。気をつけるといい。

 …触ってくれても構わんがね??「笹原教授。」ああ軍曹、わかったわかった。さて、では諸君らをこの先に案内するために生体情報を登録する必要がある。

 なぁに、方法は簡単だ。壁でも床でも構わない、肌を直接触れさせるだけだ。

 ……安心したまえ。彼は私が許可する前に触れたためにああなってしまっただけだ。

 今しがた、諸君らが触れても大丈夫なよう操作したのでね。もう触れても問題ない。」


 そう言って笹原は壁に触れるように学生達を促した。

 最初は困惑していた学生だが、軍曹や兵士に促されるとようやく壁や床に手を触れ始める。

 薫も、他の学生が無事な様子を見てやっと手をつけた。


 ――よし。大丈夫だ。


 どうにもあの女(笹原)の言葉を信じて良いのか迷ったが、軍曹が大丈夫だと言ったため信じれた。

 ここまででよく分かった。

 笹原はマッドだ。マッドサイエンティスト。

 科学の発展を大きく進めたりする異常者。

 そして気になっていた兵士達の異常な警戒体制の理由がわかった。

 あれは学生に向けてではなく、彼女が起こす事態を収拾するためのものだろう。


 つまり。


 あの女(笹原)の言う事は疑ってかかるべし!!!

 お前の犠牲は忘れない。我が友よ、ありがとう!!



「さて、全員登録されたね。では行こう。ここからが本番だからね。」


 笹原がそう言って何やら壁を触っている


「――ああ、そうそう。薫君だったかい?? 君の言っていた事で正解だよ。ここは認証を通ったら扉が現れるんだ。良かったね?」


 その言葉の後に、薫が立つ前の壁が真ん中を境にゆっくりと左右に開いていく。


 おいおい……


「スターウーズかよ…」













「薫うぅぅ…よくも逃げたなぁあぁぁあ…」

「しょうがねぇだろ。お前が迂闊に触るから悪いんだよ。因果応報だ因果応報。」

「ぐぬぬぬ…言い返せん…そのやる気のない顔のせいでより一層腹立つ!!」

「うっせ馬鹿。 つーか騒ぐなよ。音に反応する装置でもあったらどーすんだよ。」

「……大丈夫だよな? 何も起きないよな??」

「さあな。 でも触っただけでペナルティ喰らうんだ。そんな装置があっても不思議はねぇだろ。大人しくしてろ。」


 扉を抜けて暫く進んでいると、薫が通って来た通路とは違う通路から、医務室に送られた馬鹿が合流して来た。

 付き添いの兵士に案内してもらって近道でも通ってきたのだろう。それなりに騒ぐ元気はあるようで、とくに問題はないようだ。


「やあ、少年。 無事戻ってきて何よりだ。」

「さ、笹原さん…ど、どもっす…」

「なぁに、大丈夫だよ。ここから先はあんな設備は滅多にないからね。そんなに萎縮しなくていい。」


 戻ってきた馬鹿に気づいた笹原が、軍曹に先頭を任せて隣に並ぶ。

 さっきまであんなに興味なさげだったのに、急になんだ?

 一応心配してるのか…?


「ところで少年。名前は何と言うのかな??」

「へ? あ、ああ。 轟良太(とどろきりょうた)です」

「おお、そうかそうか。轟少年か。 そっちの君は薫君であってるかい?」

「…天乃薫です。」

「うんうん、轟少年と天乃少年か。良い名前だね。 私は笹原岬というんだ、よろしく少年達。」

「あ、よろしくっす」

「…ども」

「ところで轟少年。体は大丈夫かい? 痺れが残ったり動かない部分はないかい?」

「あ、大丈夫です、多分。 医務室でも問題ないって言われましたから。」


 やはり心配していたようだ。流石にクリティカルに当たった轟の事は気にせざるを得ないのだろう。

 まあ、なにせこちとら学生である。何か問題が有れば「そうかそうか!しかし…もう少し威力をあげても良さそうだなぁ… うーむ、どのくらいが上限なのだろうか」


 全くこれっぽっちも心配してなかった!?

 やっぱこいつマッドだ…ヤベェ奴じゃん!


「いっその事もう一度実験をしなおすか。 轟少年、どうだね? 報酬は弾むから、テスターにならんかね? ああ、天乃少年も勿論参加していいん」

「「いえ間に合ってるのでお構いなく!」」

「そうかい?残念だ。」


「…危うく巻き込まれるとこじゃねーか。おい良太、お前責任もって相手しろよ。こっちに持ってくんな。」

「いやいやいや薫さん? そりゃあ薄情なんじゃないですかい? …お前だけは道連れにしてやる…!」

「てめぇ…!」

「ふふふ、仲が良いねぇ」

「「……ははは…」」

「大丈夫さ。なんと言われようと慣れてるからねぇ。 それより轟少年と天乃少年は何かスポーツでもやってたりするかい?」

「スポーツっすか? やってないっすけど…薫もやってないよな?」

「ああ。やってない。」

「ふむ、そうかい。…しかし轟少年は頑丈だねぇ。天乃少年もなかなかの身のこなしで動いていたから、てっきりスポーツ少年かと思ってね。」

「…必死になって避けただけです。こいつは確かにやたら頑丈ですけどね。」

「ああ、俺昔っから怪我とかした事ないんっすよね。」

「ふむ、そうか………まあ、もしアルバイトしたければ言いたまえ。報酬は弾むからね?」

「「いや、それはちょっと」」

「ふふふ、正直だね!」


 そうして喋っている間に、目的の場所に着いたようだ。笹原は軍曹に呼ばれて先頭に戻っていった。

 そして薫達の目に入ってきたのは、何やら色々とゴツゴツした装置がついた扉であった。

 そしてその扉横のコンソールを笹原が触ると、扉が開いて中には何もない部屋が現れる。


「さて、到着だ。諸君には今からこの中に入ってもらう。ここが今日の目的地だからね。」

「目的地って、中なんもねーぞ…」

「うん? ああ、そうだね。でも大丈夫だよ。 ここであっている。詳しくは入ってからのお楽しみだが…さあ、天乃少年。入ってみるといい。」


「薫、あの入り口にいっぱいついてる装置とか絶対やばいぜ」

「あー…俺もそんな気がする。取り敢えず良太、お前行けよ」

「いやだっつーの!お前ご指名なんだ、お前が行けよ!」

「ああ、これはタダの飾りだから気にしなくて大丈夫だよ。ただの扉ってのも味気ないだろう?」

「「………」」

 なんもないのかよ!!

 紛らわしいな…




「ほんとに何にもねーな」

「んー、ただの箱って感じだなぁ」


 中に入ると、一片が150メートル程の正方形の

 ようになっていた。床も壁も白く、物も何もなく凹凸もないためのっぺりとした印象の部屋だ。

 最初に入った薫の後に良太が続き、さらに残りの者が入ってくる。

 そうして学生が全員入った事を確認して兵士達、笹原、軍曹も入ってくると扉が閉められる。


「今から君たちにはこの研究所で行われている実験、造られた物などを見学して貰う。

 この部屋の中は安全になっているので、どこに触れて貰っても構わないよ。疲れたら座って貰ってもいい。まあ地べたになるが。

 撮影も許可されているが、この部屋で電源が入っている電子機器は基本的に塔に覗かれていると思ってくれたまえ」


「ハッキング…」

「やべ、じゃあ俺のマル秘お宝画像も覗かれて…」


「さあ、では改めて、塔へようこそ諸君。楽しんでくれたまえ。」


 笹原がいつのまにか持っていた手元のリモコンを操作する。

 それと同時にがくんと地面が揺れ、暫くすると体に僅かな慣性がかかってくる。


「…この部屋が動いてんのか?」

「まじっすか…」


 そう俺達が呟いた時、照明が少し落ちて部屋に機械の合成音声が響いてきた。


『本日は夢ノ舞島研究所にお越しいただきありがとうございます。この部屋は塔の中を見学することのできるゴンドラとして使用されています』

「部屋そのものを動かして見学すんのかよ…」

「なんつー壮大な見学…てか椅子くらいあってもいいんじゃ?」


 なんとなく服のボタンの感触を確かめながら当たりを見回す。非常に落ち着かない。

 確かにこうすれば一般公開できない場所の機密を守るのに最適だろうし、凄い技術なんだろうが…

 どことなく感じるおざなり感はなんなんだ。



『最初に皆様にお見せするものは近年開発に成功した、この塔でしか生産されていない培養肉となります。

 栄養素などは自然物を遥かに超える未来の超機能性食材。

 紛い物の人工肉とは一線を画した食材として重宝されており、そのリピート率は驚異の90%!

 まずは初期培養をご覧いただき、成長工程、加工工程、出荷行程の順番でご案内させていただきます。

 生産される培養肉の全てをご覧いただくことが可能です。是非お楽しみください』


「肉??」

「培養…? 成長、加工、出荷…新しい畜産の研究か…?」


 薫と良太は培養肉なるものを知らず、部屋にいる学生達も首を傾げている。

 ふと笹原を見ると、部屋の隅の角に背を預け目を瞑っていた。


 ――嫌な予感しかしねぇ!!!


『まずは定着させる初期の様子をご覧ください』


 部屋の壁が透明化し、外の様子が見えるようになる。するとそこは何かの工場だった。

 容器がベルトコンベアで運ばれ、機械によってさまざまな液を注入される。

 液体を入れられた容器は一箇所に集められ、卵型の箱に納められているようだった。


「なんだあの箱は?」

「わっかんねー」


 卵型の器を指さして首を傾げる。まったく見当がつかない。

 部屋が進むに連れて、卵型の器が少なくなっていき、おそらく最初に見たものより時間が経過しているのであろう容器の中身が見えてくる。


「……まじかよ…」

「あ、あれは?」


 奥に進めば進むほど、透明な器の中に何か…得体の知れないものが見えてきた。それはまるでミミズが束になったような……いわゆる触手であった。

 紐状の筋肉のようなそれは奥に行くほどに大きく成長して分裂しているようだ。


「………」

「………」

「軍曹終わったかね? なに、まだだと。こんなに長かったかね?…終わったら言ってくれたまえ。」



 そうして工場の最奥には、赤身肉の触手めいた生物がひしめくプールがあった。ショッキングピンクの粘液をまとった触手が互いに絡み合うプールから、一体一体引っ張り出すアーム。

 そしてアームによって移動させたその先にあるのは、肥大化した触手から肉を切り出す血まみれのロボット、暴れる触手……


「「……………」」


『こちらの培養肉は、牛や豚、鳥の遺伝子を改造してつくられたものです。我々が発見した科学的に安全な遺伝子改良を施し、その末に出来上がった超機能性食材になっております。

 成長はとても早く、餌の摂取効率に優れており、成長すると味と栄養ともに上質な肉となります。

 知能は無く本能のみで餌を食べ成長するので、生産が容易な点が特徴です』


「途中のバスから見えた触手じゃねーか…あんなデカくなんのかよ…」

「いやいや、よく平気だなお前! ウェっ 吐きそう…オェ」


『これにて培養肉の製造過程は終了となります。ご覧いただきありがとうございました。この後も別の工場ならび実験室をご案内させて頂きますので、どうぞ最後までご覧下さいませ。』


「おぉ、終わったね? うむ、なかなか優秀じゃないか。一人も吐いていない。」

「…絶賛吐きそうっすよ…」

「笹原さん、できれば最初に忠告して欲しかったですよ…」

「おやおや、すまないねぇ。しかしこれでもマシなものを選んだのだがね?

 毎年内容が変わるが……中には痛みを数値化する実験などもあるん。しかし、鼻に唐辛子の粉末を流し込む実験など見たくなかろうと思ってね?

 勿論我々的にはそれでも十分楽しいんだが、諸君は楽しくなかろうと思って培養肉にしたんだよ。

 諸君らにとって訳のわからん実験よりは、身近な食物に関する研究の方が興味を持ちやすいだろう?」

「食物とは?」

「あれを食物とは呼びたくねぇよ…てか大丈夫か、この国」

「ふーむ、どうやら不評のようだねぇ。なら次で挽回しようか……ウケツケジョウ6号君!次の場所へ頼むよ。」

『かしこまりました。ただいま移動しております。少々お待ちください。』

「ちなみにこの、ウケツケジョウ6号君は私が開発したAIなのだよ。この塔の管理を担うそれなりに重要なものでね。一応今回の見学内容にはこのAIも含まれている。」

『お役に立てるよう誠心誠意心を込めて頑張りますので消去だけは……消去だけは勘弁してください…』

「この様になかなかの頑張り屋さんでね。重宝しているんだよ。」

「怯えてるっすよ?」

「明らかに脅されてるとしか思えないんですが。」

「「そもそもAIってこんな受け答えできるんですか?」」

「そういう風に開発したからねぇ。ただ、自我を持たせたのは良いが『人間を支配する』だなんてお茶目な冗談を言う子でねぇ。ついついいじめ…いや間違えて消しかけてね?

 まあ結果的に不幸な行き違いは解決したのでね。便利だから活躍して貰っているのだよ。」

「ツッコミどころが多すぎる」

「はははは、なにも問題ないよ。さあ、次も楽しんでくれたまえ。」


 笹原が会話を打ち切ると同時に、壁が透けて部屋が違う場所に来たことがわかった。

 先程は白を基調とした機械的な工場であったが、今度は()()()()()()()()である。


「は!?」

「建物の中だろ?……どうなってんだ…?」

『こちらは塔の内部にある、密林が再現された研究室になります。塔のワンフロアを使って再現されているこの場所には、さまざまな動植物が生息しています。』

「密林を再現…」

「すげぇ…まじですげぇ!これだよこれ、こーゆうのが見たかったんだよ!!薫、見てみろよ。塔の中にマジモンのジャングルだぜ!?」

「どうやら気に入った様だね?だが、ここの目玉は景色ではないのだよ。」


『こちらの研究室の主な研究内容は、珍しい動植物の生態などを自然の中で観測するといった内容になっております。観測する対象は生息している生物全てになっておりますが、中でも力を入れて研究している生物がございます。』


 AIが合成音でこの研究室の趣旨などを説明している間も、見学部屋はジャングルの上空をゆっくりと進んでいく。

 薫も良太も、ここにいる学生達は皆、言葉もなく見えてくる光景に見入っている。

 室内に関わらずふいてくる風。

 天をも貫かんとばかりに伸びる大木達は、きらめくような青葉の波濤をつくる。

 その波の合間に顔を覗かせる色鮮やかな鳥達や、木々を渡る動物の影。

 森を渡る川には水を求めて生物が集まり、草木は花を、果実を蓄えその養分を森に与えている。

 人工で作られたにも関わらず雄大といえる自然がそこにあった。


「…なんだ……?」

「なんか、聞こえる…?」


 その自然の中で不釣り合いな音が聞こえてくる。

 獣の咆哮、まるで威嚇をする様な鳴き方。


「鳴き声?変わった声の動物だな。薫、なんの動物かわかるか?」

「わからんが…こんだけしっかり再現された密林なら獲物も豊富だろうし、大型の肉食獣がいてもおかしくはないな。」

「あー…確かに、デカイのがいてもおかしくないな。 肉食獣となると、狩りって可能性もあるなぁ。」

「………おかしくないか?」


 あたりに響く鳴き声に、なにかを叩きつけたような音。

 いくら再現された密林とはいえ、ほぼ野生だろう動物が自分の居場所がバレるような騒ぎ方をするのだろうか…縄張り争いならありうる、か…?


 …いや。おかしい。

 そもそもこの密林に響き渡るような音は動物が出す音にしてはデカすぎる…!


 ズンッ!


 音と振動は前方から。

 視線を向けた先には、ポカリと木々がその場所を避けたように生えていない空白の場所があった。

 そしてその場所には大きな。


 怪物がいた。


 象ほどの体長に、成人男性ほどの体高。

 小さい頭部には不釣り合いに大きい口には、閉じてもなお仕舞い切らない牙が。

 目は三つあり、額にある三つめの目は大きく、下側の二つの目は額の目に比べれば小さい。

 尾と首は細長くしなやかで広い可動域想像させる。

 足は四本。後ろ足は太い筋肉に覆われ、足先の指には鋭く尖る爪がついている。

 前足は鋭い爪はついているが、後ろ足に比べると細い。しかし見た目は後ろ足よりも大きい。

 前足の小指にあたる部分が後ろ方向に伸びていて、そこから皮膜が伸びているからだ。


「「…幻獣……」」


 塔の密林には竜がいた。




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