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始まりの日

 


 現生人類が誕生してから約16万年ほどの時を経て、地球の人口は70億人まで増えている。

 かつてここまで繁栄を謳歌した生物が我々人類の他に存在しただろうか。


 なぜ人類がここまで増え、地球を蝕む程になったのだろう。

 地球に存在した、数多の生物をものともせぬような強靭な肉体を持っていたのか。


 例えば爪。何者であろうと引き裂く鋼の爪を持っていたか。

 例えば牙。全てを砕く強い顎と牙を持っていたか。

 例えば脚。どの生物よりも速く駆ける脚を持っていたのか。


 ―否。人は弱い。

 爪は薄く、肉食獣のような武器にはなり得ない。

 顎は獲物を逃さぬよう拘束する力はなく。

 牙は雑食に適した形であり、致命傷を与えない。

 脚はむしろ、狩をする生物と比べ遅い。

 その他の捕食生物に比べ、肉体的能力は劣っていただろう。


 ―ではどうやって人は生き延びたのだろうか。


 肉体にさして強力な武器を持たぬ人類がどうやって狩をして、どうやって捕食者の脅威を打ち払ったのか。


 ―答えは知識である。

 肉体に足りぬものを補う為に石を使い、木を使い、火を使った。

 より強くより簡単に生存できるよう考えた知識を継承し、さらに研鑽する。

 この繰り返しにより人類は増え、富み、繁栄を享受していったのだ。


 やがて人が増え、より生きやすく繁栄しやすい場所をめぐり人が争うようになっても。

 この人類の能力はさらに変わることなく。

 より強く、より多く、より簡単に。

 効率的に人を減らす武器をつくる為に。


 石を使った斧や槍、獣の毛皮で作った服。

 銅や鉄の鎧に身を固めた歩兵や、馬を駆る騎兵の登場。

 石飛礫や矢に代わり、銃弾飛び交う争い。

 銃弾と共に砲弾が飛び交う戦争へ。

 陸地では騎兵に代わり戦車が。海では戦艦。空では戦闘機が飛び交う戦争。

 時代を経るごとに高度化して多くの人や様々な資源が投入される戦争。

 後に人類を疲弊させた世界大戦と呼ばれることになる戦争が、その当時最新の技術と知識を結集し昇華させた。


 ―そうして知識は、技術は、人を蝕み始めたのだ。




その日、アメリカ陸軍のアルファ小隊は前線の市街地にて偵察任務に当たっていた。

 鍛え抜かれた肉体に最新の装備を纏った彼らは自身の目にて異常がないかを確認している。

航空レーダーによる探知もあるが絶対ではなく、各々がもつ無線機で無線通信手や小隊員と言葉を交わしながら、異常がないことを確認していく。



『指揮所。こちらアルファ1、異常なし』

『指揮所。こちらアルファ2、同じく異常なし』


 目視で異常はない。見えるのは空に浮かんでいる雲や木々、廃墟となった市街地ぐらいだ。その雲も、それほど雲量があるわけではなく太陽が彼らを照らしている。

―偵察は順調だ。


『こちら指揮所、了解。

先日まで日本軍が占領していた場所だ。退去した事は確認されているが理由など不可解な事もある。罠である可能性を踏まえて行動せよ。』

『アルファ1了解。』

『アルファ2了解。』


『…こちら指揮所。アルファ3、定時報告せよ。』


 だが、定期的に報告を行っていたアルファ3からの報告が遅れる。


『こちら指揮所。アルファ3? どうした?』


 不意に訪れた沈黙。それを不思議に思った通信手が、疑問の声を投げかけた。


「…ジャックのやつ、小便でもしてやがるのか?」

「いやいや。大きいほうかもしれませんぜ??」

「そいつは最高だな!…ジャックの野郎、またサボってやがったらケツ穴一つ増やしてやるぜ。」

「まあジャックですからねぇ…俺は民家を物色してても驚きゃあしませんぜ。」

「賭けるか??サボりに100だ。」

「同じくですわ。賭けになりませんよ。」

「っち…『こちらアルファ1。アルファ3、応答せよ。………ジャック!クソしてねえで報告しろ!!』」


『……ザッザザ…バ、バカな……ザ…』



 小隊長からの催促を受けて、少しの沈黙の後に無理矢理絞り出すような声が無線から響く。呆然としたような、感情のないのっぺりした声だ。それを聞いた無線手と小隊員は何事かと緊張の色を強くする。


『こちら指揮所。どうした? 何があった?』


 敵部隊でも発見したのか。確かに敵軍の不可解な退去の後だ。あり得る。通信手は頭の中でアルファ3が言うであろう言葉を予測した。


『……こちら……アルファ3……人だ……人が、空に…』


 しかし、その言葉を聞いた通信手は思わず額に手を当て、頭痛でも堪えるように沈黙する。


「おいおい……まさかドラッグでもやってるんじゃないだろうな…」


 無線越しに告げられた不明瞭な言葉に、無線手から呆れたような声がでる。


『こちら指揮所。アルファ3、報告はきっちり頼む。人が居たのか?何人だ?住民か、敵か。』


無線の先で起こっている出来事を把握する為、詳細な報告をさせる。それが無線手の仕事でもあった。

果たして、望んだ報告は返ってくる。

―理解のし難い報告ではあったが。


『こちらアルファ3! 人が…人が宙に浮いている!!』


しかし、その言葉を聞いた通信手はまたも額に手を当て、頭痛でも堪えるように沈黙する。


人が空に浮かぶなどあり得ない。緊張から大型の鳥を人と見間違えたのか、それとも酒に酔っているのか、あるいはクスリでもやっていなければ、そんな言葉が出てくるはずもない。


(しかし、敵軍の新兵器という事もあるか…?)


 ―いや。きっと、アルファ3は疲れているのだろう。この任務が終わったら、酒の一杯でも飲ませて女を抱かせて労ってやるべきかと、通信手は苦笑しながら思い―――。


『こちらアルファ2!!敵だ!撃ってきたぞ!!発砲する!!』

『くそっ撃て!撃て!!』


 ―――届いた言葉に驚愕する。


『なんだコイツは!?』

『速いっ!』

『アルファ1が被弾した!なんだこの攻撃は!?』


 次々に、無線から驚愕の声が響いてくる。無線の通信手は咄嗟にレーダーの観測を行っていた者に視線を向けるが、慌てたように首を振られるだけだ。


『レーダーには反応がない! 一体何が起きている!? 詳細に報告せよ!』

『こちらアルファ4! 人型の―――っ!?』

『くっ! 背後に回り込まれた! なんだこの――っ!?』


 無線越しの声がいっそうの緊迫感を帯び、次いで、“何か”が爆発するような音を最期にアルファ4の無線が途切れる。


『アルファ4? アルファ4!?』


 ここまでくれば、本当に“何か”が起こっているのだろうと察するに余りある。無線でアルファ4に対して呼びかけるが、返ってくる言葉はない。


『こちらアルファ2! 人型の飛行物体と交戦中! なんだコイツは…男……一人だ!…日本軍の新兵器か!?』

『人型!? ゼロ戦ではないのか!?』

『市街地だぞ!空じゃないんだ!ゼロ戦じゃない! 本当に人間が――』


 その言葉を最後に、通信が途絶えた。

それが何を意味するのかを通信手は悟り、一瞬の沈黙のあと混乱から激高した。


『アルファ2!? クソッタレ! 一体なんだというんだ!?』


 近年日本軍が実戦投入してきた零式艦上戦闘機ゼロファイターでもない。そも偵察は市街地で行われた。レーダーには航空機など映っていない。

ならば、一体何がアルファ小隊を襲っているというのか。


『こ、こちらアルファ3! 人だ! 人が空を飛んで―――』

『アルファ3!? くそっ! こちらアルファ5! アルファ3もやられた! 現在人間サイズの敵性物体と交戦中! ありえない軌道で動く!武装は……』

『武装はなんだ!? 機関銃か!?』

『違う! 銃器じゃない! むしろこっちが教えてほしいぐらいだ! 武装しているようには見えない!?』


 銃器ではない。その悲鳴染みた言葉を聞いた通信手は、余計に混乱しながら無線に向かって口を開く。


『だったら何を使っているんだ!?』

『わからない! 腕と脚を振ったら爆発したり切り裂かれたりする!』


 なんだそれは。通信手はそう怒鳴りたいのを必死になって堪えつつ、上官に救援の部隊を出すよう、アルファ5を撤退させるよう上申。すぐさま許可が下り、飛びつく勢いで無線へ声を飛ばす。


『撤退命令だアルファ5! すぐにその場から離脱しろ!』

『撤退!? 無理だ! 逃げ切れない―――』


 遮るようにしてノイズ音が無線機から漏れ、通信手は呆然としたように膝を折る。


「一体、何とが……」



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