4.
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で、前回から更に1カ月。またまたライル様に壁ドンされてたり……。あ~あ~あ。
「ライラからもう少し離れろって俺は言ったよな? 了承したよな?」
「言ったわね。了承したわよ?」
ここまでは前回と同じね。
「じゃぁ、なぜ、ライラは令嬢達とばかり一緒に居る?」
「私が離れた分、ライラが他の令嬢たちと話す機会が増えただけでしょ。それに、女には女の付き合いが有るのよ?」
「今まではこんなに無かっただろ。貴女の入れ知恵じゃないのか?」
「約束通り、私は彼女に入れ知恵なんてしてないわ。令嬢達の意志よ。」
ライラは有力な侯爵家の令嬢なんだから、私が離れた隙に交流を深めたい令嬢なんていくらでも居ることくらい、ライル様だってわかってないわけじゃないハズなんだけどね。
「令嬢達を唆したのか?」
「そんなことしてないわ。(貴方の要望について私は少し愚痴をこぼしたことは有ったかもしれないけど。)」
あらぬ疑惑をかけられて、事実を伝える。
ライラには、ライルとのこういう遣り取りは全て話してある。だから、基本的に、私の愚痴を知ってライラに話しかけてくる令嬢たちを彼女が拒んでないだけの話。いや、もしかしたら、彼女たちが話しかけやすいように、サロンなどの女性の出入りの多い場所に居るようにしてたかも……。
「わかった。やはり俺と婚約しろ。」
「嫌よ。私は嘘は言ってないし約束も違えてないんだから。」
さっきの返事の後半は口の中で呟いただけだからライル様には聞こえてはいない。
それなのに、また、婚約要求って……。
「ライルのことを抜きにしても、貴女の賢さは貴重だ。」
「そんなの関係無いわ。」
「貴女との会話は腹立つことも多いが楽しい。普通に出会ったものとしてやり直さないか?」
「お断り。私の中では貴方は敵認定のままだから。」
なんか雲行きがあやしい?
そりゃぁ、王弟殿下の令息にポンポン言い返すのなんて私くらいかもしれないけど、私はさっさと切り上げて彼から離れたいだけだし……。
ライル様が賢いのはわかってるから、言質をとられないような返答を心がけてるけど、もしかして、それも彼の興味を引いてる? でも言質取られるほうがマズいから、ここは緩めるわけにはいかないのよね。
「惜しいが仕方ない。令嬢たちは俺が抑える。貴女は1カ月だけライラから離れろ。」
「1か月して変わらなければラウル王子にライラを諦めさせるのに協力してもらうわよ?」
私の拒否に、やっと妥協案を出してきたけど、どうやって令嬢たちを抑えるつもりかしらね?
せっかくの機会だからと、期限を提示してみる。ついでに交換条件も……。
だってね、過保護も大概にしろって気にもなるじゃない? ちょくちょく壁ドンされて、どこかのブラコンみたいなこと言われて……それに、そろそろ色々と潮時なのよね。
「わかった。邪魔が減っても落とせないならラウルがヘタレなんだろうさ。」
「……貴方らしい言い分だこと。」
「俺がここまでやるのはラウルの為だし、俺にここまで言わせた女性は母と貴女だけだ。」
「じゃぁ、お互いに不干渉で静観ってことで……。」
「一時休戦だな。」
ライル様がラウル殿下を大切なのは、私がライラを大切なのと同じだろう。
『俺にここまで言わせた女性は母と貴女だけ』と言っていたが、私がここまで率直に言うのも相手がライル様だからこそだ。お互いにそれがわかるからこその最後の猶予だった。
それはともかく、ライル様のお母様って、強くて美しくて私の憧れだから、彼女と並べて言われるのは嬉しいかも……。
しかし、今回もこの体勢、更にあの内容。いよいよもって誤魔化しが厳しくなってきた。
ライル様が、ラウル殿下の想いを叶えたいという気持ちは感じている。だからといって、捨て身になるような事柄ではないし、彼の思惑に私を勝手に巻き込むなと言いたい。
私には結婚願望は無いんだから、かつての婚約解消も内心で喜んだくらいなんだから。ラウル殿下の恋の為にライル様と婚約する気は無いと言ってるでしょ。今のところは、ラウル殿下の恋が破れることがライラの為だし……。
ラウル殿下、もしライル様と婚約せざるを得なくなったら、貴方を(内心で)恨んでいいですか?
今回の約束の『1カ月』、おそらくライラの今後を決める期間になると思う。当然ながらラウル殿下は確実に影響を受けるし、もしかすると彼らと同じ歳のライル様にも……。
私自身は、引き続き『ライル様から逃げ回る』ことが課題なのは変わらないと思う。あぁ、でも、ライラ関係に動きが有れば、ライル様による絡みからは解放されるかな。
なんとなく漠然と、そんなふうに予想していた。
すべてが、あくまでも『予想』にすぎなかったんだ、と実感するのはまもなく……。