番外編3『甘かった考え』
***(ライル視点)***
俺の従妹のライラと、彼女の従妹のシエラ、2組同時の婚約式。
シエラの相手は、俺の実の弟であるレイドだ。
王族として、親族として、出席しながらも思いは複雑だ。
ライラは、ラウルと俺の同じ年の幼馴染みで婚約者候補だった。
「結婚相手は条件が合って従順なら、それでいい。」
それなりに仲良かったのに、ラウルと俺への態度が変わったのは、多分あの言葉から……。
俺たちと距離を置き、態度も素っ気け無くなった。あの場に俺も居たのに気付いてたんだろう。
ラウルとしては、自分に王子としての立場を言い聞かせ、ライラへの想いにブレーキを掛けていただけのセリフだが、彼女としては気分は悪かっただろうことくらい推測できる。
ただ、ラウルも俺も、婚約者候補なのは変わらないから大したことはないだろうと多寡をくくっていたんだ。
「私の隣で見劣りしないからライラが一番かな』
さらに態度が変わったのは、婚約者候補筆頭になった一因であるラウルの一言を知ったからだろう。
上手く想いを伝えられないどころか距離が開く一方なのを何とかしたくて、外堀の1つを埋める程度のつもりだったはずが、本人に知られたから思い切り逆効果。
あのセリフ、彼の本音に置き換えるなら『私の隣に立つのはライラしか居ない』だったろうに……。
だが、実は、俺はライラの気持ちは分からなくもない。俺自身も、血筋と立場と見た目からの評価に本来の姿を潰されないようにと頑張ってきたから……。だからこそ、ライラが勘違いしたのも推測できる。
かといって、ラウルの本音を俺からライラに話すわけにもいかないだろう? ライラとラウル、どちらのためにも、想いを伝えるのはラウル本人からでなくては……。
どちらのキッカケもわかってないラウルは、根気良く口説いてるが効果は無い。ラウルに2つのキッカケを伝えようかと迷うも、自身と重なるライラの心境は話しづらい。
そうこうするうちに事態は悪化して、シエラまでラウルの邪魔をする。シエラは俺を苦手としているようなので、見掛けるたびに声を掛け引き離す。
色々な思惑が入り乱れた結果、周りも彼女達に味方する気配が有る。
これでは、ラウルが不利すぎる。
そこで、まずはシエラを何とかしようと考えた。
重度の本好きの上、第3王子との婚約解消で彼女の周りには男の気配が無い。
「わかったら、手を引くか、婚約か、選ぶんだな。」
「……わかったわ。手を引くわ。でも見守ったり相談に乗るくらいはいいでしょう?」
それなら自分に落としてやろうと思ったら、思惑がバレたようでキッパリ拒絶された。さすが、噂以上に賢い。好奇心が刺激された。
しかし、甘く見た結果、視線がより冷たくなった。ラウル、すまん。
次に正面切って交渉する。
「ライラに入れ知恵したり余分なことを言うなと、俺が言ったのを了承したよな?」
「余分なことは言ってないわよ? 慰めて、励まして、力付けただけ。」
交渉の網目をくぐってくる、予想以上の反応。ちょっと脅しをチラつかせても怯まない、いい度胸だ。ますます興味が引かれる。
王族としての教育も受けてる俺とほぼ対等に話す令嬢は珍しい。それも俺より年下とくれば皆無ではないだろうか。
結局、交渉は成立しても視線の冷たさは増した。
彼女への尽きない興味を抑え込み、1か月間だけ、なんとかライラから引き離すことに成功。使える情報はすべて使い、弟も巻き込んで作った猶予。これが限界だ。
これ以上やるとライラもシエラも完全に表舞台から身を引くだろう。俺達との関係も断絶するかもしれない。ラウルにもそう伝え、なりふり構う余裕は無いぞと喝を入れる。
しかし、事態は予想の斜め上に進む。
たまたま我が国を訪問した隣国のカイル殿下とライラが意気投合、出会って数日で婚約してしまった。王としては歓迎すべき縁談に、ライラがラウルの婚約候補から外れることが決まる。
母親達の視線が生ぬるい。
ラウルと俺への令嬢たちの視線が強くなった気がする。
そこに持ってきて、さらに、シエラの婚約まで報告される。
最初の1報は弟のレイドから、『婚約者が出来た』と。
相手の名前を見て固まった。レイドの相手がシエラ?!
シエラより1つ年下で、まだ未成年で、浮いた話の1つも無かったアイツが、シエラと婚約?!
思いがけず大きな衝撃に驚く。俺が引き合わせたようなものだと気付いて衝撃が倍増した。自覚以上に彼女を気に入ってたらしい。これではラウルのことを言えない。
考えてみれば、環境も趣味もレイドとシエラは好みが似ている。こうなる可能性が完全にゼロではなかったのだと気付き、いまさらながら愕然とする。
なぜ、あの地をシエラの逗留先に選んだ時に思い至らなかったのか……。レイドを軽んじてたとかではない。ただ、レイドがシエラより年下であり " 未成年 " なので油断しただけ。レイドがシエラと同じ年か年上だったなら、俺も少しは警戒しただろう。
母親達に視線で『ヘタレ』と言われそうだ。俺の母は口に出して言ってくるかも……。
令嬢達やその親族がラウルと俺を見る目が確実に力を増している。気をつけなくては捕まる。
予想外は続く。カイル殿下とレイドの対応の速さと、母親達の盛り上がり方。女達のトップに結束されては、男が切り崩すのは難しい。周りが援護してるから、王族としての立場もあって、打つ手ば無い。お手上げだ。
そして、今日。ライラ&カイル殿下、シエラ&レイドの合同結婚式で、ラウルと2人、なんとか表面を取り繕う。
俺の傷は浅いとはいえ、弟の妻としてのシエラとの付き合いが一生続く……何とかしてみせる。何とかする方法なんてわからない、今は考える余裕も無い、いざとなったら同性である父親に聞いてみるか……。
ラウルは、キツいだろうが立ち直るしかない。彼は直系の王族、既に新たな婚約者の選定は始まっているはず。今回の2組合同の結婚式の準備で最終決定が延びているだけだろう。
色々甘かったのを痛感する。ライラの件、ラウルの件、シエラの件、俺自身の件……。
まだまだ考えが浅いから、こういう事態になる、こういう事態を想定できない。このままではマズい、自分のためにも、ラウルのためにも、周りや国のためにも……。
幸い、立場上、多方面で経験豊富な大人たちには事欠かないんだ、学ばせてもらわなくては……。
とりあえず、家族としてレイドに、『親族として』ライラとシエラに、祝福を……。
***(番外編3 完)***




