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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
学校医の裏の顔
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04 攻略対象

 保健医のフリード・アルガス。彼はセイラの攻略対象ということだけあって、当然王位継承権を持つ人物だ。

現国王の弟の子であり、オズナ王子に兄弟がいないため、彼が王位継承権第二位である。


 しかしながら、皆が皆オズナ王子が国王になるであろうと考えているため、本人には王位に就こうなどという考えがなく、わりと自由にしている人物である。

むしろ王位が運よく回ってきたとしても、下の二人の弟を溺愛しているため、本人としてもどちらかに譲るつもりであるようだ。



「フリード様とは、昔から仲が良くないのよ……」


「知っている。彼はあなたに、弟を取られたと思っている」


「そうなのよ。一番下の弟、テオ君という名前なんですけれど、私よりひとつ年下なのもあって、よく一緒に遊んでいましたの。

 それで、嫉妬なのかなんなのかわかりませんけれど、目の敵にされてますのよ」


「テオも来年入学してきてからは、攻略対象になる」


「あー……、なんといいますか……。あなたは王位継承権を持っているなら、見境なしなのかしら?」


「そういうゲームだから」


「そうですの……」



 そう切り捨てられると反論のしようはない。けれど、釈然としない思いはあった。

フリードはともかくテオ君は、オズナ王子が旅立ってからの、寒々とした私の幼い日々に彩りを与えてくれた、大切ないとこなのだから。



「あぁ……。昔のことを思い出そうとすると『テオ、お兄ちゃんと遊ぼう』なんてしきりに言っている、フリード様の姿が脳裏にチラつきますわ……」


「そう。フリードを攻略するには、テオに手を出してはいけない。

 だから彼が入学してくる前に、事を済ませておきたい」


「なるほどね。あなたも誰にちょっかいをかけるかの段取りは、ちゃんと考えていますのね」


「全キャラ攻略は、ゲーマーとしての前提」


「イマイチ理解できませんけれど、理解しても無駄だと私の勘が叫んでますわ」


「大丈夫、まかせて」


「頼りにしてますわよ」



 そうした作戦会議とも説明会とも取れぬ会話をしていれば、保健室の扉が見えてくる。しかしその様相は、少々思っていたものとは違っていた。

扉の前に立てば、なにやら中からはやわらかな、弦楽器の音が流れてくるのだ。

癒し効果を求めて、ヒーリングミュージックの演奏でも始めたのだろうか……。


 ともかく不思議な感覚だと思いつつも、授業中に倒れた生徒ということになっている私は、ぐったりとセイラの肩に寄りかかり、その扉をくぐったのだった。



「失礼します……」


「おや、これはセイラ君。あと……」



 体調が悪いですよという雰囲気を醸し出すように、ゆっくりと顔を上げる。しかし部屋の中を見た瞬間、そんな演技も飛びそうになってしまった。



「私は……、なぜ音楽室に……」



 保健室だったはずの部屋は、竪琴や笛、オルガン、打楽器まで揃った、もはや演奏者を待つ舞台の様相だったのだ。

その隣には、カーテンで仕切られたベッドが見えることから、かろうじでここが保健室だったことがうかがえる。


 オズナ王子に学園案内をしたときは、あえて避けて中に入らなかったため見ていないが、確か夏休み前までは普通の保健室だったような記憶があるのだが……。



「やはりエリヌスか……。いったいどうしたんだい?」


「体育の授業中に、彼女が倒れたんです」


「おやおや、そうなのかい。それは災難だったね。連れてくるのも大変だっただろう」



 災難だというのは、セイラに向けての言葉であり、絶対に私に向けてではない。けれど、そのあたりをぼかす表現をするのは、貴族らしいというかなんというか……。

というよりも、演技だからかまいませんけど、急病人を放っておいて呑気に話しているのは、保険医としていかがかと思うのですけれど!?



「あの、彼女を寝かせてあげたいのですが……」


「ああ、そうだね。その辺のベッドに放り込んでおきなよ」


「はい……」



 露骨……、露骨すぎますわっ!!

と、言ってやりたいところをぐっと堪える。だってこんなの、今に始まったことじゃないもの。


 昔、テオと会うために彼の屋敷に行った時も、彼は間違えて私用のお茶菓子を食べてしまったなんてことがあったのだ。

そんなの間違えるはずもないし、使用人が用意しているところをつまみ食いするなんて、普通ならありえないだろう。

あー……、彼は自由人すぎて「普通」の定義に当てはまらないのは置いておくとしての話。


 ともかく、嫌がらせに私のおやつを奪ったという前科がある。非常に子供じみた、馬鹿げた嫌がらせだ。

そんな事をする彼だから、こういう扱いをされるのも予見できていた。だから動じることはない。



「エリヌス様、こちらへどうぞ」


「ええ、ご苦労様」


「ありがとうございます……」



 あっ、違った! ここは悪役令嬢として、つっけどんな反応をするところだった!

はあ、変なこと思い出してるから、こんな凡ミスするのよね……。フリードの子供じみた嫌がらせが、意外と効いているのかしら……。


 そういえば、結局おやつはテオの分を二人で分けたから、余計にフリードってば機嫌を悪くしてたっけ……。

そんな事を思いだながら、私は保健室の天井を見つめていた。

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