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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
学校医の裏の顔
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02 不服な二人組



「なぜ私が、このような平民風情とっ!」



 教師が二人一組を誰とも組めていない残った生徒がいないか呼びかければ、静かに手を上げたのはセイラただ一人だった。それを知った瞬間、私は声を張り上げた。


 ここで接点があるような素振りなど、絶対に見せるわけにはいかないのだ。そして何より、悪役令嬢として私は振る舞わなければならない。

ならば強く拒絶し、相容れない相手だと演出せねばなるまい。



「そう言われてもなぁ……。一人余ったならともかく、今回は割り切れる人数だ。

 なにより、一人だけなら私ととも言えるが、二人ともと組むなんてできないんだが……」


「でしたら結構! 本日は欠席とさせて……」



 その言葉を残し、ふいっと顔を背け、立ち去ろうとしたその時、ぎゅっと体操着の裾を掴まれた。

何事かと思い振り返れば、その犯人は上目遣いでこちらを見ているセイラだった。



「あの……。お願いします……」


「っ……!」



 その様子に、一瞬動きが固まってしまう。

どういうことなの? これはつまり、私に組めということなのかしら?

けれど、一緒に居るところを見せつけるような真似をすれば、今後の行動に影響が出かねない。それは、彼だって分かっているはずだ。

もしくは、こうやって懇願しているのを突っぱねることで、悪役令嬢という役目を果たせというの?


 わからない。どっちを求めているかなんて、ゲームでの私の行動を知らない今の私には、到底わかりっこない。

ぐるぐると思考を巡らせる。もう二度と、失敗したくない。

私の行動ひとつが、誰かの運命をも狂わせかねないのだから。


 暑さを忘れさせるほどの冷たい汗が、首筋を流れた。

こういう時に起こす行動はひとつ。先延ばしだ。

たとえそれが、ほんの一瞬時間を稼ぐだけであっても。



「気安く触らないで頂戴! 穢らわしい!」


「ご……、ごめんなさい……。その……。私と、ペアを組んでいただけませんか……」



 オドオドとしながらも、ひどく平坦な声。

いつもの湿っぽい口調とは違う、人形が喋っているかのような、別方向の気持ち悪さがあった。


 けれどその言葉の中には、私へのヒントが隠されている。

引き下がるだけではなく、組んでほしいとわざわざ言葉にしたのだ。

それはつまり、指令としての私への指示だ。



「こう言ってるんだ。エリヌス、そう意地張らずに。な?」


「…………。仕方ありませんわね。教員のメンツを潰すわけにもいきませんもの」


「ははは、そりゃ助かる」



 フォローに入った教師だが、これを利用しない手はない。

私の決定の責任を彼女に押し付けてしまえば、私は仕方なくペアを組んだと印象付けられるだろう。



「これで全員組めたな! では、準備運動を始めるぞー!」



 そんな私の思惑など知らない彼女は、授業を始めた。

内容は大したことはない、二人一組で準備運動をしたあと、今日の授業であるソフトボールを行うというもの。いたって普通の体育の授業だろう。


 そうして準備運動をしている最中、聞こえるか聞こえないくらいの声が耳に届いた。



「返事はしなくていい。これからの予定を伝える」



 やはり、ペアになるよう誘導したのには、意味があったらしい。

ただひたすらに無視続け、私はその先を聞いた。



「その前にひとつ。ヴァイスはいないな?

 いるならあくびを。いないならくしゃみを」


「…………。クシュン!」


「では続きだ。このあと、キャッチボールがある。

 その時、暑さにやられて倒れたふりをしてくれ。理由はあとで話す」



 まったく、面倒な注文を……。

倒れろと言われてそう簡単に体調が悪くなるわけがない。もちろん、フリでいいとは分かっているのだけど。

しかし、フリとはいえ倒れるのは……。その後を考えると、あまり乗り気ではないのだけど、仕方ありませんね。



「あと、キャッチボールは嫌がらせの暴投で」



 これまた面倒な注文を! 外せと言われて外すのは、逆に難しいんですのよ!? そう言ってやりたかった。

しかしこれは、悪役令嬢とやらの得意分野である、嫌がらせの一環だ。しないわけにはいかないだろう。



「では、そのままの組み合わせでキャッチボールをするぞ」



 彼の言った通り授業は進む。二人で向かい合い、ボールを手に取った。

私のスキルは必中。必ず狙ったところに当たるというもの。そして注文は暴投……。

まったく、必中の私に取れないボールを投げろとは無茶なものね。


 取れないように、取れないように……? うーん……。

どこを狙うというよりも、取れなきゃなんでもいいと思って投げればいいのかしら?


 どこを狙うということはせず、取れない場所に行けと、あまり意識することなくボールを放り投げた。

そうすれば、ボールはセイラのグローブの先をかすめ、大きくグラウンドの端へと転がってゆく。

意外。というよりも違和感?

今まで狙ったところに飛ぶ経験しかないので、見事に外すというのは、ちょっと新鮮でもあった。


 とりあえずこれで、ひとつめの注文は完了でいいわ。

あとは、か弱い乙女のたしなみ。日差しにやられる御令嬢ごっこと洒落込みましょう。

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