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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
忍び寄る魔の手
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09膨らみゆく想い

 王子の学園案内、そしてセイラとの接触から数日。

エイダは主人のいない部屋で一人、未来が記述された本を読んでいた。



『君と僕は利害が一致している』



 彼の言葉を思い出す。

利害の一致、それはすなわち、この本の通りの王女が処刑される未来を回避すること。

そして何よりも、エイダの大切な人であるエリヌスが、幸せな生涯を送ること。



『彼女が王妃としてオズナ王子と結ばれた場合?

 それは残念ながら、ゲームにも小説にもないんだ。なぜって、主人公が選んだ相手が王になるからさ。

 そして御令嬢は、王妃という地位を求めている。落ちぶれたオズナ王子と結ばれる未来はないんだ。

 そして誰が王になろうとも、御令嬢は王妃をイジメていた張本人。

 王になる人物次第だけど、一番マシなので自ら国を出る。最悪は……、言うまでもないね?

 まあ、悪役令嬢のお決まりというヤツさ』



 あの夜語られた彼の言葉を思い出すほどに、こんな理不尽があってよいのかと、エイダは怒りを募らせた。

幾度となく読んだ本もまた、女王となってなお、処刑という結末から逃れられなかった物語である。

つまり、何をしようとも、どの選択肢を取ろうとも、最悪の結末から逃れられないことを示していたのだ。



『最悪の結末を逃れる方法? それは、彼女を女王にすること。

 そして、女王としての責を負われないように、今から邪魔な貴族たちを消しておく。

 これでヴァイス率いる革命派は大義名分を失うはずさ』



 民衆は、この国の腐敗によって今にも爆発しそうになっている。

今にも燃え上がらんとしている燃料に、かの情報屋は火をつけて回るのだ。

そして自身が唯一の逃げ場であると、女王に囁く……。



『助けてやった恩を被せれば、絶対に逆らえないようになると思ったんだろうね』



 身勝手で、自己中心的で、そして邪悪な方法。

自身以外の選択肢を消し、自らを選ばせる。厚顔無恥な手段をとりながら、自身の手は汚さない。

怒りで背筋に冷たささえ感じるほどであるが、あの情報屋がやりそうなことだと、うすら笑いさえ込み上げてくる。



『彼のやることが分かっているなら、彼自身ではなく、彼の手駒を消せばいい。ね? 簡単でしょ?』



 この国から腐敗の原因を消すこと、それは遠回りではあるが、最も効果的な方法だと彼は説く。

けれどエイダにしてみれば、もっと手早く事を終わらせる方法があるように思えたのだ。



『彼を消す……、か……。まあ、確実だね。

 けれど王位継承問題は、彼がかき乱してくれないと、御令嬢にクラウンが回ってこないのさ。

 ゲームにも小説にもない結末、王妃という未来であっても……。おそらく最悪の結末になるだろうね。

 なぜならオズナ王子の執政では、腐敗は一段と進み、革命をもたらしてしまうからね。それはどの子でも同じだけど』



 周囲の悪意に呑まれるがまま、次期国王は必ず、今までのツケを払うこととなる。

それは川の水が必ず海へと出るように、小説と同じ結末が王位を誰が継いでも、同じように訪れるということだ。

その中で唯一、国を想い、自らの死を潔く受け入れたのが、エリヌスなのだと言う。



『僕は、彼女が女王になるのが一番いいと思っているんだ。

 たとえ革命が起きずとも、彼女ならこの国を良いものにできる。そう信じているよ』



 その言葉は、そのままエイダの想いと同じであった。

小説に書かれた女王は、清廉潔癖ではない。けれど、誰よりも国を想い、自らの手を汚すこととなっても、輝ける未来へと人民を導こうと奮闘していたのだ。


 それは今のエリヌスとて同じこと。

必要ならば人を殺めることも辞さない……。悪魔との取引だとしても、喜んで受けるだろう。

恐ろしいほどにまっすぐな姿を、エイダはずっと隣で見ていたのだ。

だからこそ守らねばならない。だからこそ、その想いを共に実現しなければならない。

心に秘めた想いは日々膨らむも、本人には悟られぬよう、日々粛々と役目を全うしてきたのだ。



「エイダさん。間も無くお嬢様がお帰りになられます」


「はい」



 扉越しのメイド長の言葉に、すっと席を立ち、本を棚に戻す。

彼女の熱く秘めたる想いは、夏の暑さと共に首筋を流れた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 相変わらずではあるが、セイラさんもエイダさんも中々優秀ですね! そしてお嬢様に想いメイドさんというのはやっぱ凄く尊いです〜 ご飯3杯はいけるw
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