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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
第一王子と夏休み
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23見えない人を見る方法

 ヴァイスを一緒に探して回った、飴屋の娘エイダ。

けれど彼女には、目の前に居る目的の人物を認識することはできなかった。



「誰とと言われましても……」


「お前こそ誰だよ」


「飴屋の子ですわ。一緒に探すのを手伝っていただきましたの」


「え? あ、名前ですか? エイダです。

 あの、それで、探しにいかなくていいんですか?」



 エイダの様子は、オロオロとし始めて落ち着かない。

それもそうだ、私が突然独り言を話し始めたなら、何事かと怖がって当然だろう。

でも、私も私で、どう説明していいのか分からず困っていた。



「あー。多分コイツ、近すぎて影響出てるな」


「近すぎる? どういうことですの?」


「俺って、本当に見えていないわけじゃなさそうなんだ。

 実際は見えているけど、居るのが分からない感じ?

 だから俺が無理やり相手に近づくと、こんなふうに怖がるんだよ」


「そうですの……」



 その話を理解できたわけじゃない。けれど、納得はできた。

人ごみの中、彼の周りだけ皆が避けたのも、彼の開ける扉を誰もが不思議がらないのも、そのせいなのだ。

存在するけれど、認識できないもの。彼の能力とは、そういうものだったのだ。

ならば、もしかすると彼を強制的に認識させる方法があるかもしれない。そう考えたのだ。



「それならいっそ……、こうですわ!」


「きゃあっ!?」



 私と手を繋いで逃げられないエイダの手を、ヴァイスへと押し当てる。

突然のことに驚く二人。けれど、それは二人にとって思わぬ結果となる。



「えっ!? 何この子、いつからここに!?」


「は!? 嘘だろ!? お前、俺のこと見えてんのか?」


「あら、勘でやってみましたけど、うまくいきましたわね!」


「勘って……」



 ヴァイスからはため息、エイダは未だ混乱の最中といった様子。

そこに得意げな私と、三者三様の反応だった。



「でもこれで、エイダさんにもあなたのことが見えるんですから、いいじゃないですの」


「…………。まー、確かに。

 これで、一応俺のことを相手に見えるようにする方法もわかったもんな。けどさ……」



 ふいっと手の代わりに顎でエイダを見ろと言うヴァイス。

横を向けば、青い顔して震える少女の横顔があった。



「どうされましたの!?」


「いえ、あの……。気分が……」


「体調がすぐれないのね!? どこか休める場所へ移動しましょう」


「はい……」



 突然のことに、慌てながらも近くのベンチを探す。

だが、祭りの人の多い時に、空いている場所なんてあるはずがなかった。



「どこもかしこも、人がいっぱいですわ」



 先に座る人を羨ましく眺めながらも、次を探そうとする私に、ヴァイスは無言で見てろといった様子で、得意げにベンチへと近づく。

すると、なにか用事を思い出したかのように、すっと座っていた人たちは立ち上がり、逃げるように人混みへと消えた。これもまた、彼の異常性だ。



「な、便利だろ?」


「あまり良い気分ではありませんが、今はそれどころじゃありませんわ。

 さ、こちらで横になってくださいまし」


「うぅ……」



 ベンチへとエイダを寝かせようとするも、ふるふると首を振り、座るだけにとどめる。

どうやら、やはり落ち着かないようだ。



「あの、なんというか……。体調が悪いというわけではなくて……。

 その、見てはいけないものを見てしまったような感覚で……」


「つまり、俺を見てしまったからそうなったんだな?」


「今もここにいちゃいけないって感じがして、今すぐに帰りたく……」


「ん? あれ? また俺が見えなくなってないか?」



 会話の違和感にヴァイスは気付く。

思った以上に彼の能力は面倒だと、この時思い知ったのだ。



「はあ……。もう一度ですわね」


「へ? なんのことですか?」


「はい、タッチですわよ!」


「ひゃっ!? まだいたんですか!?」



 ぺしっとヴァイスへと無理やり手を伸ばさせると、再びエイダは叫んだ。

まったく、つくづく便利な能力ながら、不便な能力だ。



「へへへ、俺が見えるってことは、お前はもうすぐ死ぬ!」


「ひえっ!」


「こら、脅かさないの!

 エイダさん、彼が私の探していた、お友達のヴァイスですの。

 少々特殊な方でして、他の人には見えていないそうですわ。

 多分、彼のスキルだとは思うのですけど……」


「えっ……。あ、そういうことですか……。

 あの、私はエイダです。よろしくお願いします」



 顔を青ざめさせながらも、エイダは深々とお辞儀をした。

まるで、できる限り彼を視線に入れたくないがゆえに、地面を見ていようとするように。

そして、ゆっくりと頭を上げた時……。



「あれ? ヴァイスさんはどこへ?」


「…………。目の前に居ますわ」


「もしかしてこれって、一回目をそらすとまた見えなくなるやつか?」


「どうやら、そうみたいですわね」



 二人で小さくため息を漏らしながら、再び私はエイダの手をヴァイスへと押し当てるのだった。

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