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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
ヴァイスも知らないセカイ
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05バッドエンドのその先

 窓から差し込む朝日に目を覚ます。なにやら変な夢だったと思い、背伸びをしながら考えた。

そういえば、ヴァイス以外に友人と呼べるような間柄の人物は居ない。

公爵令嬢という生まれが相手を怯ませるせいで、見えない遠慮というものがどうやったって生まれてしまうのだ。


 だから、きっと浮かれていたんだろう。

浮かれてしまって、友人と呼べる人物が、変な夢に出てきたんだろう。

そう思ったし、そう思いたかった。


 けれど、枕元のランプの隣にある本は、昨夜の出来事が夢ではなかったと告げていた。



「おはようございます、お嬢様」



 ノックと共に、エイダの声が部屋に届く。

私はさっと本を本棚へと隠し、扉を開いた。

この本は、他の人に見られてはいけない。

途中まで読んだ内容を思い出し、そう判断したのだ。



「おはよう、エイダ」


「すでにお目覚めでしたか。なにか、気がかりがございましたか?」


「いえ、自然と目が覚めてしまっただけですわ」


「左様にございますか。では、朝の準備を……」



 いつも通り身支度を進めるが、彼女は違和感に気づいているだろう。

なんとなく、そんな予感がしていた。




 ◆ ◇ ◆ 




 窓の外には、赤い点が列をなしていた。

まるで街全体が怒りの炎を纏ったように、月明かりさえ燃やし尽くさんと揺らめいている。


 煌々と灯る松明を手に、民衆は城の前まで詰め寄っていた。彼らの望むもの、それは女王の首。

悪しき王政に終止符を打たんと、人々は立ち上がったのだ。

私は一人、闇を焼き尽くす炎の光を、城の中から眺めるだけ。



『よっ、エリーちゃん。こんなトコでなにしてんだ?』


『あら、ヴァイス。久しぶりね。あれから、7年ほどかしら』


『そんなに経つのか。お前の戴冠式以来だ』



 背後から現れた彼は、あの頃と変わらなかった。

きっと、誰も何も変わっていないのだ。私は、何も変えられなかったのだ。



『おー、あいつらも熱心なもんだ。寝ずに抗議運動なんてな。

 悪徳貴族が追放されたこの国の、何が不満なのやら』


『自由を知らなかったなら、自由を求めたりしないわ。

 彼らは知ってしまったの。だから、女王からの解放を……。本当の自由を願ったのよ』


『ほーん。エリヌス女王様は達観していらっしゃる』



 心底どうでもよさそうに、ヴァイスは言葉を漏らした。

女王に即位し行ったこの国の改革。それは、民衆をつけ上がらせる結果となる。

それを知っていたから、今までの王は貴族たちの悪行を見逃していたのだ。

自らに矛先が向かわぬようにと……。



『それで、どうするつもりだ?

 向こうさんは、明日を期限に指定してきたんだろ?』


『ええ。明日までに私を差し出さなければ、実力行使に出るそうね』


『まるで他人事だな。引き渡されれば、行き先は断頭台だぞ?』


『知っているわ』


『まったく、王位継承権のある上6人を追放した先にあるのが、断頭台とはな……。

 まさに骨折り損ってやつじゃねえか』


『あなたには、そう見えているのね』


『…………』



 骨折り損なのは、彼にとってだけだ。

私は何もしていない。彼の策略が空振りに終わり、結果として私が女王になっただけ。

その先に国の改革と、革命が続いていたに過ぎない。



『…………。俺なら……。俺ならお前を助けられる。

 一緒に国を出よう。そして、誰にも見つからず、隠れて静かに暮らそう』


『…………』


『俺は、そのためにここに来た。お前を助けるために。

 もう選択肢はふたつしかない。俺の手を取り、共にゆくか……。断頭台か……』



 差し出された手は、少し震えているように見えた。

彼は、嘘をつくことはない。たとえ情報屋としての言葉でなくとも、絶対にだ。

だからこそ、この手を取れば助かる。そのことを疑うはずはない。

けれど……。



『お断りします』


『なっ……!? なんでだよっ!!』


『あなたには分からないでしょうけどね、これが女王としての務めなのよ』


『お前……! 自分の命より、女王としての務めが大事なのかよ!!』


『ええ。最後の女王となり、この国の未来の礎となる。

 私個人の命よりも、その責務はずっと大きいものなのよ』


『だからって……!!』



 月明かりに照らされた彼の顔は、ポーカーフェイスを保てず、くしゃくしゃになっていた。

ハンカチで涙を拭ってやり、やさしく口付けを交わす。



『ヴァイス、ありがとう。あなたには感謝しているわ』


『なんでっ……』


『あなたが追放された貴族たちと、民衆を扇動しなければ、この国が変わることはなかった。

 いつまでも王が居座り、いずれまた腐敗したでしょう』


『お前……。俺がやったって分かってて……』


『当然でしょう? あなたの動き、私が見逃したことなんてあったかしら』


『ねえな……』


『だから気にすることないわ。分かっていて、あなたの作戦に乗ったんだから』


『…………』



 彼は、私が手を取り共に逃げることを選ぶはずだと確信していた。

その目論見が外れた今、彼の計画は全て破綻したのだ。

それでも彼は諦めない。最後の悪あがきを見せるのだ。



『お前は……、この国の行く末を見たくはないのか?』


『見なくても分かるわ。きっと良いものになるってね』


『なんでそんなこと言えんだよ!!』


『私の最も信用する人たち。彼女らに託したもの……』



 二人の間に、思い沈黙が流れる。

彼の顔は、悲しみと、悔しさに歪んでいた。

それは、私が最期に頼った者が自身でないことへの憤り。

もしくは、そのように事態を動かしてしまったことへの後悔か……。



『そうか……。結局お前も、俺のことを見てはくれていなかったんだな……』



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― 新着の感想 ―
[良い点] 突然のジャンプ、私は混乱していますが、好奇心が強いです。 彼のすべての仕事が彼に彼が望むものを与えることができないとき、私はワイス様がとてもガタガタと壊れているのを見るのが好きです。 エリ…
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