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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
ヴァイスも知らないセカイ
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03お弁当交換会

 私の直感が告げるヴァイスの裏の思惑は、意外とかわいらしいものだった。

好きな人とお昼を一緒にしたいけど、でも二人っきりはちょっと気まずい。

そんな時ちょうどよく、共通の知り合いである私を使おうという魂胆だろう。

ちょっと違和感はあるけど、それ以外の理由が思いつかないもの。きっとそうよ。



「さっきからニヤついててうぜえ……」


「あら、仏頂面のほうが良かったかしら?」


「いや、そうじゃねえけど……」



 それにしたって、恥ずかしいからって二人で私を挟むように座るのは、ヴァイスも奥手が過ぎるんじゃないかしら?

まあでも、こういうのは焦っちゃうと失敗するものらしいし、私は余計な口出しなんてせず、影ながらの応援に徹しましょう。



「ま、エリーちゃんの勘違いは放っておくとして……。

 とりあえずさっさと昼飯食っちまおう。時間もなくなるしな」


「まったく……、先が思いやられるわね。

 まあいいわ。エイダ、準備を」


「はい、ただいま」



 短い返事と共に、エイダは両手に抱えていた荷物を開く。

そこには、色とりどりの野菜を使ったサラダや、目に鮮やかな黄色いキッシュ、そして小さく切られ、美しい断面をこちらに見せるサンドイッチの入った、ランチボックスが入っている。



「うわあ……。とっても綺麗なお弁当ですね……」


「ええ。私が目でも楽しめるようにと、シェフが工夫を凝らしてくださいますの」


「コイツ、昔は食が細くて心配されてたからな。

 ちょっとでも食わせようと、試行錯誤した結果がこれだ」


「余計なことをいう口には、その辺の石でも詰めて差し上げましょうか?」


「おまっ……。俺は嘘は言ってないぞ!?」


「ふふっ……」



 ミー先輩は、なにが可笑しいのかかわいらしく笑う。

やってしまった……。いつもの感覚でいたけれど、ここはヴァイスに合わせてあげるべきだったわね……。


 ともかく、話を変えましょう。

私の話をしていたら、二人の邪魔にしかならないもの。



「お二人のお弁当は何かしら?

 考えてみれば、ヴァイスがどういうものを食べてるかなんて、あまり見てこなかったですわね」


「あぁ、大抵エリーちゃんの家で勝手につまみ食いしてるしな。

 ウチは公爵様みたいに、そんないいもんじゃないさ」



 ヴァイスの持っていたカバンから出てきたのは、パンと青リンゴがひとつずつ。

そして、飲み物が入った蓋付きのカップだけだった。



「えっ……。それだけ?」


「これだけ。腹を満たすには十分だろ?」


「あなた、まがりなりにも準男爵なんですから、もう少し見栄えをですね……」


「俺のことに気づけるヤツなんていねえからいいんだよ。

 それに、食い過ぎて動けないなんてことになれば、仕事に支障が出るしな」


「ですが……」


「で、ミーセンパイはどんなのだ?」


「えっと……」



 恥ずかしそうに彼女がカバンから出したのは、茶色い紙袋。

その中には、チーズサンドがひとつ入っていた。



「お恥ずかしながら……」


「あなたたち……」


「待て待て、これが普通だからな!?

 むしろエリーちゃんが異常なんだぞ!?」


「そんなはずは……」



 助けを求めるよう、メイドであるエイダに視線をやる。

貴族と平民の双方の生活を知る彼女なら、どちらが「普通」かを判断できると思ったのだ。

けれど、エイダはさっと目を逸らした。



「…………」


「まーうん……。そんなもんさ」


「あのっ! お昼が簡単なだけですから!

 ちゃんと夜は食べてますから、心配しないで下さいね!?」



 憐れみのヴァイスと、焦りのミー先輩。

それに返す言葉は、残念ながら持ち合わせていなかった。無駄に豪華な昼食はあるのにね……。



「そうですわ! 交換いたしましょう!」


「は?」


「あなたたち! せっかくお昼を一緒にするんですもの、お互いのお弁当は気になるでしょう!?」


「え……。でも、そんなの悪いですよ……」


「なに言ってますの! お二人の普段食べてるものを食べる、またとないチャンスですわ!

 さっ、是非ともこのキッシュを食べてみてくださいな!」


「ちょっ!? エリーちゃん!?」


「お嬢様、食中毒などの危険性が……」


「これは決定事項です!」



 エイダの止める声を無視して、私は二人とお弁当の交換会を強行した。

だって、この中で私だけ妙に豪華な昼食を食べるのは、逆に居た堪れないんですもの。


 エイダも止めはしたけれど、止められないと分かれば食器を取り出し、それぞれに取り分けるのだから、本気で止めるつもりはなかったらしい。


 そして、私の目の前に四分の一のチーズサンドがやってきたのだった。

ひとくち口にすれば、明らかにいつも食べているパンとは違った。

硬く、口の中の水分を全て奪う乾燥したそれは、何か別のものを食べてしまったと感じるほどだ。



「あの……、やっぱりお口に合いませんよね……?」


「いっ、いえ……。そんなことありませんわ」


「おいおい、無理すんなって」


「いえ、でも……」


「あのっ! 勘違いしないで下さいね!?

 これは、働き先でもらった売れ残りのパンで、平民だからパンがおかしいってわけじゃないんです!

 ただ少し古いってだけなんですから!」


「うーん……。そんなの公爵令嬢に食べさせたってのは、それはそれで問題になりそうな……」


「いえ、食べたいと言ったのは私ですもの……。

 でも、ミー先輩はパン屋さんで働いてらっしゃるのね。知らなかったわ」


「あっ……。それは……」



 少し目を泳がせ、先輩の視線はぐるりと宙を舞った。

一体何が、彼女の視線を漂わせたのだろうか。



「あの、お節介だとはわかっているんですが……」



 その前置きを挟み、ミー先輩は踏み込んだ話を始めた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 食事やお弁当が人々の性格について多くを明らかにすることができるのはおかしいです。 私はワイス様がいかにシンプルであるか、そして彼の複雑な情報検索と順守が彼にあまり人生を持たないことをどのよ…
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