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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
ミー先輩は調査員
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08放課後アルバイト



『俺とエリーちゃんのコト、教えて欲しそうな顔してんな?

 ま、手伝いの頑張り次第によっちゃ、タダで教えてやんよ』



 昼休みのヴァイスの言葉を思い返しながら、私はパン屋の厨房を掃除していた。

セイラさんのお父さんであり、私の雇い主であるカノさんは、週末だけでいいと言ってくれてたんだけど、放課後も働きたいといえば受け入れてくれた。

おかげで、それなりに色々な話を仕入れられたので、十分進展があったと思う。

その中から、ヴァイスのお目にとまる話があればいいのだけど……。


 そんな考えを巡らせながら、作業台を拭き上げていれば、背後から声が聞こえる。

振り向けば、紙袋を片手に笑顔のカノさんが立っていた。



「お疲れさん。店はもう閉めたから、あとは俺がやるよ。

 セイラが帰ってきたら、送ってもらってくれ。

 あと、これはお土産だ。売れ残りで悪いが、家族と食べてくれ」


「ありがとうございます。助かります」



 袋の中には、パンのミミや、少々形がいびつなもの、そして見た目は普通のパンが入っている。

売れ残りというのは、形のいいものだけで、他は元々売り物ではないのだろう。

まあ、形の悪いものでも普通は売ってしまうはずなので、これはあえて並べずに、私ようにとっておいてくれたんだと思うけどね。



「それにしても、セイラさんは大丈夫でしょうか?

 配達とはいえ、少し遅いような……」


「ま、心配いらねえさ。アイツは昔っから人よりトロいんでな。時間がかかるのはいつものことだ。

 それに、見た通り無愛想だろ? 店に立たせるわけにもいかず、配達させてる方がいくぶんマシなんだよ」


「無愛想……。それはさすがに言い過ぎなんじゃ……」


「だからよ、ミーちゃんみたいな友達がいるなんて、信じられなかったさ。

 アイツと仲良くしてくれて、ありがとな。これからも頼むわ」


「いえ、そんな……」



 あぁ……、良心が痛む……。

まさか当日会って、そのまま家に押しかけて、友達宣言を一方的にして、その上その日のうちに働くことを決めたなんて、口が裂けても言えないわ……。

今にして思えば、あの日の私は明らかに異常だった。

あれもこれも、全部ヴァイスのせいよ。そうよ、そういうことにしておこう。



「でっ、でも……。そろそろ暗くなってきますし、女の子一人で出歩くには、危なくないですか?」



 羞恥心と罪悪感で押しつぶされそうで、話を変えたかったのもあり、私は心にもないことを口走る。

心配してないわけじゃないけど、ダシに使ったのは事実だ。

なんだか、どんどん性格が悪くなっていると自分で感じる……。



「その辺は大丈夫だ。なんたって、あのトロさのクセに、ケンカはめっぽう強いんだ。

 前も男三人に絡まれたんだが、あっつうまにダウンさせちまったんだよなぁ……。

 俺が出る幕なくて、あっけに取られたもんさ。いつの間に、あんな格闘術を身につけたのやら……」


「全然想像できないですね……」



 ふと、ヴァイスの話を思い出す。

そういえば、セイラさんがエリヌス様と出会った時、彼女はパチンコの練習をしてたと言ってたはずだ。

自身のスキルが戦闘向きの可能性を考えて、色々試していたらしい。

なので、その過程で体術を試してみて、スキルを見つけたなら辻褄が合う……。


 うらやましいな……。スキルが見つかって。

そりゃ私は、体術のスキルなんて欲しくはないけど、それでも見つけられたなら、学費の心配をしなくていいんだもの。

しかも家はパン屋。商人の中では、食いっぱぐれない職業だ。

なんたって、売れ残りのパンを食べれば、飢えることはないんだもん。



「いいなぁ……」


「ん? なにがだ?」


「あっ、いえ。護身術は身につけていた方が、何かと安心だなと思って」


「ははは、そんじゃミーちゃんも、セイラに習ってみるか?

 何を隠そう、俺もちょっとばかし教えてもらってんだ。

 なんたってな、見たこともない技を使うもんで、驚かされてばかりさ」


「うーん、考えておきます」



 藪蛇というやつね。護身用とはいえ、戦う術を習うつもりはない。

なにより、色々とやることを抱え込みすぎて、パンクしそうなんだもん。



「ただいま……」



 そんな話をしていると、セイラさんが店の扉を開けて入ってきた。

父親ですら無愛想という彼女にふさわしく、帰宅の声もとても小さい。そして無表情。



「おう! おかえり!」



 そんな娘でも、にこやかに迎え入れるカノさんを見ると、二人が親子であることが不思議に思えるほどだ。

もしかするとセイラさんは、すでに亡くなっているという、お母さんに似ているのかもしれないけれど。



「セイラ、帰ってきて早々悪いが、ミーちゃんを送ってやってくれ」


「わかった……」



 小さくうなずくセイラさんは、文句ひとつ言わない。

無愛想だとしても、いい子であることには変わらないのよね。

そんな失礼なことを考えながら、私は帰り支度をする。


 そういえば、なんで体術系のスキルがあるのに、エリヌス様に対して抵抗しないのかしら。

やっぱり貴族、それも公爵相手に万一があれば、お父さんにも迷惑がかかると思ってるのかな……。

矢継ぎ早に頼み事をされても応じるし、とっても我慢強い子なのかもしれないな。

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