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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
ミー先輩は調査員
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06壁に耳あり

 多分、私は無駄に饒舌だったと思う。

今日初めて話した相手と二人きり、それも相手の家に上がり込んでのことだ。

今までの私だったら、絶対になかった状況。

というよりも、情報屋ヴァイスの口車に乗せられなければ、今後も絶対になかったはず。


 けれど噂の収集を手伝うと言ったからには、違和感があったとしてもやらなきゃね……。

それに、エリヌス様と今目の前に居る、物静かなセイラさんとの仲を取り持つためにも、ここが踏ん張りどころよ。



「ホント、突然ごめんね。ってこれ、何回目かしら」


「いえ……。友達もいないので、嬉しいかも……。です」


「あっ、かしこまらなくていいのよ?

 学年は上だけど、私も平民だから、立場として上ってわけでもないし。

 それに、私も友達は少ないのよね。ほら、貴族の人とは、話にくいじゃない?」


「そう……、ですね……」


「興味はあるんだけどね。どんな生活してるのかとか、色々。

 でも、なに話していいかもわかんないじゃない?

 だから、結局特待生同士でグループ作ってる感じがあるのよね。

 一年生はどう? やっぱり似たような感じ?」


「かもしれません……」


「やっぱりそうよねー。あっ、このラスクおいしいわ」



 矢継ぎ早に喋りすぎて、顎が疲れてくる。

沈黙を怖がっているかのようで、私自身でもなんかおかしくなってくるわ。

でも、話の休憩がてらかじったパンのミミは、さっくりと揚げられていて、本当においしかった。

サンドイッチの副産物とは思えぬおやつに、少しばかりパン屋の娘というものを羨ましく思った瞬間だ。



「家がパン屋さんって羨ましいな」


「そうですか?」


「うん。だって、毎日こんなにおいしいパンが食べられるんでしょ?

 ウチは、馬車の御者でね。それも、貴族付きのだったらよかったんだけど、街道の相乗り馬車なのよ。

 だから父さんはほとんど家に居ないし、前も盗賊に出くわしたせいで……。

 ってごめんね、暗い話しちゃって」


「いえ……。あの、お父さんは無事だったんですか?」


「あぁ、ごめんごめん。無事だし、怪我一つなかったわ。

 ま、金目のもの全部盗られちゃって、運の悪いことに、馬まで盗られたのよ。

 だから新しい馬を買うのに借金してね……。

 ま、それは解決したんだけど、学園通ってていいのかなー、私も働いた方がいいよなー、なんて思っちゃうわ」


「苦労されてるんですね……」


「平民なんて、多少の差はあっても同じようなもんじゃない?

 ただ、ちょっと寂しいなってのはあるのよね……。

 だから、お店にお父さんが居るのが羨ましくなっちゃった。ごめんね」


「いえ……。私も……、恵まれていると思います……」



 素直にそう言えるこの子は、とても素直だと思う。

やっぱりヴァイスの話は、嘘でなかったとしても、少々情報が盛られていたのかもしれない。

まあ、彼を疑ったところで仕方ないのだけどね。


 それに、ヴァイスの手伝いには、ちゃんと報酬が出るらしい。

なので、多少家にお金を入れられるはずだ。

そういう点では、私も十分恵まれていると思う。運よく、彼との接点を持てたのだから。

そのきっかけが、目の前の子の不幸でなければ、素直に喜べたのだろうけれど……。


 っと、感慨に浸っている場合ではなかった。

その「手伝い」も進めなければ、ここに来た意味がないのだ。

喋りながらも考えていた作戦を、私は実行に移すことにした。



「ねえ、いきなりだし、図々しいのは分かっているんだけど……。ひとつお願いできないかな?」


「お願い……、ですか?」


「うん。あのね、お店を手伝わせてもらえないかなって……。

 さっきの事もあって、授業が終わったあととか、休みの日は私も働きたいの。

 それで、少しでもお金を入れて、楽させてあげたいなって……」


「うーん……。お父さんに……、聞いてみる……」



 少し悩んだ素振りを見せたものの、セイラさんはすぐに店の方へと歩いてゆく。

私もあとを追い、扉の向こうの店舗スペースへと、顔をひょっこりのぞかせた。

そこでは、多くの買い物客を忙しそうに相手する、おじさんの後ろ姿があった。

明らかに話しかけられる雰囲気ではないし、機械的に客を捌く様子は、世間話をできる雰囲気でもない。


 これは想定外だ。これでは、手伝いに入ったとして、噂話を集めるどころではないかもしれない。

しかし、一度言ったことを取り消すのもまた、忙しそうだからやめたと思われそうで嫌だな……。

そんな葛藤の中、一瞬客足が途切れる。

そのタイミングを狙って、セイラさんは話をつけてくれるのだった。



「手伝い? そりゃありがたいが、たいした給金出せないぞ? それでもいいのか?」


「はい! 少しでも家にお金を入れたいんです!」


「そうか……。まったく、セイラはいい友達を持ったな!

 それじゃ、次の休みの日からでも手伝ってもらえるか?」


「いえいえ! 今からでも手伝います! なんなりと指示してください!」


「おっ、やる気は十分だな! それじゃ、遠慮なく手伝ってもらおうか!」



 そのあとは、ずっと店の手伝いをしていた。

セイラさんにやり方を聞きながら、店の片付けをしては、お客さんたちの話に耳を傾けるのだ。

けれど、そう簡単に噂話なんて耳に入ってくるはずもない。

今日のところは、セイラさんのおじさんにもらったパンと、お給金だけが成果だった。

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