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悪役令嬢は凄腕スナイパー  作者: 島 一守
ミー先輩は調査員
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05ミーの突撃隣の晩御飯



「ねえ、もしよかったら、ちょっと付き合ってくれない?」


「えっ……」



 突然の話に、セイラさんは戸惑っていた。

そりゃそうよね、初めて会った人に、いきなりこんなこと言われたら、普通は驚くだろう。

けれど、無理矢理でもなんでも、私は彼女との距離を詰めておきたかった。

もしかすると、エリヌス様との仲を修繕できるかもしれない。

たとえそれがお節介だったとしても、私には見て見ぬ振りはできなかった。



「せっかくこうして外で会えたんだから、お話ししたいなって」


「あの……、おつかいじゃなかったんですか……?」


「私はおつかいじゃないよ? ちょっと気分転換に、散歩しようかなって。

 で、客引きにあって困ってたの。買いたいものも別にないしね」


「そうだったんですか……」



 色々と無理がある気がするけど、ここは押し通そう。

二人で居れば、客引きも多少かわしやすくなるだろうしね。

それにしても、状況的に仕方ないとはいえ、露骨に困った顔をされるのは、少し残念なんだけどなぁ……。



「あ、家の人に確認とかいるもんね。でも、また引き留められると困るのよね……。

 家まで一緒に付いて行っちゃダメかな?」


「いい……、ですけど……」


「やった! あ! 自己紹介してなかったね。

 私、二年のミー。よろしくね」


「私は、マ……。セイラです……」


「ふふっ。嬉しいな、特待生の平民の生徒の知り合いが増えて。

 やっぱり、ちょっと学園は場違いな感じがして、息苦しいのよね。

 愚痴れる相手が欲しいって、あなたも思わない?」


「えっと……、その……」


「あっ、ごめんね。いきなり喋りまくっちゃって」


「いえ、あの……。どうして私が平民だと……?」


「えっ……」



 しまった、うっかりしていた。

私はこの子のことをよく知っているけど、本来はなにも知らないはずなのだ。

しかもいきなりバカみたいに饒舌になるなんて、何かあると思われても仕方ない。

うまく、なんとかうまく誤魔化さないと……。



「あー……。だってほら、この商店街にさ、貴族が来るはずないなって!

 それにね! 家が近くだって言ってたから、多分そうだろうなって!」


「そう……、ですか……」



 なんとか誤魔化せたようね……。

それにしても、元々そういう性格なのか、それとも私を怖がっているからなのか、声の小さい子だな。

あまり存在感がないというか、今にも消え入りそうな雰囲気がある。


 そんな風に眺めていると、すっと歩き出して行ってしまう。

そのまま人混みに呑まれれば、きっと見失うと私は手を取った。



「ひっ!?」



 びくりと身体を震わせ、信じられないといった表情で、私へと振り向く。

そんなに嫌だったのかな……。それはそれでショックだわ。



「ごっ、ごめん。迷子になりそうだから……。どこ行くの?」


「あのっ……。家……、こっちです……」


「あっ、そうだったね」


「ゆっくり歩くので……、ついてきてください……」


「うんっ!」



 静かに歩くセイラさんのあとを、トコトコとついてゆく。

短い桃色の髪は、ゆらゆらゆらめき、時々私へ振り向いた。

そして辿り着いたのは、商店街の一角にあるパン屋さん。

香ばしい匂いが店の前まで広がり、しっかりごはんをたべたのにお腹がすいてくる。



「ここ……」


「え? ここ? あなたの家って、パン屋さんだったの?」


「はい……」


「へー、そうだったんだ」



 だから家が近くと言っていたのね。

店を構えてるなら、商店街に住んでいて当然だ。

扉を開ければ、カランカランという来客を知らせるベルの音が響く。



「ただいま……」


「おう、おかえりセイラ。ん? お客さんかい?」



 店主のおじさんは、愛想よく笑いながら私を見てそう言った。

セイラさんのお父さんだと思うのだけど、こう言ってはなんだが、似ていないなって思う。

気さくで、明るい雰囲気の人だ。

そしてパン職人らしい、どっしりとした体つきの人だった。



「はじめまして! セイラさんと同じ学園に通う、ミーです!

 たまたまセイラさん見かけて、一緒になったんです」


「ほー、セイラにも友達がいたのか。

 ま、たいしたもんはねえが、ゆっくりしていってくれ」


「ありがとうございます! おじゃまします!」



 挨拶をしている私たちをよそに、セイラさんはポケットから小袋を取り出し、父親の前のカウンターへとおいた。



「父さん、これ……」


「お疲れさん。今日の配達はこれで終わりだからよ、ミーちゃんと一緒に遊びに行ってもいいぞ?」



 どうやら、セイラさんはパンの配達の帰りだったようだ。

ちゃんと店の手伝いをしているなんて、とってもいい子だなぁ……。

そんな子が、本当に公爵邸に忍び込むようなことをするのだろうか。

なんだか、彼女のことを見ていると、聞かされた事件が本当にあったのか疑問に思えてくる。


 まじまじと見られていることに気づいたのか、セイラさんも私を見返してきた。

あ、やっぱり変に思われてるのかな?

そう考えていたら、小さな声が耳に届く。



「どうする?」


「え? どうするって?」


「どこか行く?」


「あー! えーっと……。

 お邪魔じゃなければ、お店見させてもらえませんか?」


「ん? 別に構わねえが、ウチはただのパン屋だぞ?」


「セイラさんがどんなところで暮らしてるのか、知りたいなって……」


「そういうことかい。ま、散らかってるが、上がってくれや」


「ありがとうございます」



 うっかり忘れそうになっていたけど、商店街に来たのは噂の収集のためだ。

その点、この店は都合がいい。なんたって、パンは誰もが必ず買いに来るものなのだ。


 パン職人の組合が強い力を持つため、個人が家庭でパンを焼くことはまずない。

昔はパン焼きで火事が多発したとか、そういうので基本的には禁止されているからね。

なので、パン屋は多くの人が出入りする店だし、そういうところには、噂話も多く入ってくる。

ここにいれば、悪徳商人や貴族に対するボヤきってのは、効率よく集められるはずだ。

叶うならば、ここに入り浸れるほどの仲になれればいいのだけど……。


 私が打算的なことを考えているなど知るはずもなく、セイラさんはカウンター奥の扉を開け、住居スペースへと案内してくれた。

そして、水とパンのミミのラスクを差し出し、お茶会を開いたのだ。

お茶会なのにお茶はない。庶民のお茶会とは、こういった質素なものである。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これは本当に面白いです。 デュオに入ってくるサードパーティ、暗い秘密、パン屋との便利な部分、そして友情。 しかし、パン屋が村全体の一部にすぎないことに不満を述べたいと思います。薪と巨大な…
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