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4話

アイク視点

 動くものが誰一人いなくなったデッキ上で、一人静に魔術を行使する。前世でこの手の特殊能力にあこがれていた自分を思い出して、少し笑う。


 良くアニメ等で登場人物が魔法を使っている場面を見て、自分もいつか魔法を使ってみたいと夢見たのは、何も子供の頃に限った話じゃない。


 実際に魔法が使えるようになってから思うに、アニメやゲームなどの魔法行使の際にありがちなエフェクトの類は実際に魔法、魔術を発動させる際には一切生じないのが寂しい。この世界では魔力の流れを見る事の出来るものが術を行使している場面を目撃しても光の様なエフェクトを見る事は出来ないだろう。


 例外は別の世界で作られた魔道具の部類だけだな。



 一方で世界によっては魔法を行使したし魔力を運用したりするだけでエフェクトが発生する世界もある。その当たりは世界によって細かい法則が違うようで、この世界に転生してきたことに基本的に不満は無いが、この部分だけは少し残念だ。



 極小範囲の海流に干渉して、船を自分の船の方に移動させる。傍から見ていると、まるでスクリュー船が稼働しているかのように船尾の海面に押し出された海水が独特の文様を作り始める。


 この世界に転生し、前世の記憶と植え付けられた力の使い方を思い出してから早100年以上経過した。


 最初にこの身に刻み付けられた、使える魔術の数は100前後。前世では夢にまで見た魔術、魔法の類に記憶を取り戻した俺はこの技術にのめり込み、ネットワークから情報や文献を漁ってやれることを増やしていった。



 俺に刻み込まれた知識には魔術・魔法の類はその世界の法則によって使い方や発動方法、効果が変わってしまうというものがあり、事実その通りらしくネットワーク上に存在するその手の指南方法は大まかな基本からして、それぞれの世界に沿う色々な方法があった。


 簡単な判別方法がいくつか羅列されており、その判定結果からいくつかの大まかなパターンに分かれるらしいけど、初心者の俺にとっては自分に必要な部分だけを拾って身に着けるだけで精いっぱいだった。


 結果、今では使える術の数も色々なバージョン違いも含めれば数千種にも及ぶ。一方で、実験的に汲み上げた、いったいこれは何に使うんだろうというような術もかなりの数がその中に含まれている。


 ただ単に破裂音を鳴らすだけの術や、缶飲料のプルトップを開ける為だけの術などは使い道はかなり限られてくるだろう。ただ、そういう細かい術式を沢山揃えておくことでいざというときにそれらを組み合わせその場のアレンジで複雑な一つの術式を作り上げる事が出来るようになる。



 今この船を動かしている術も幾つもの、それだけでは大して役に立たない細かい術を組み合わせた結果だ。コストや視覚効果を度外視して結果的に船を動かせればそれでいいのなら、術を介せずアストラルサイドから直接干渉して念動力の様に動かしてやることも出来る。


 出来るが、傍から見て船の動きにはとても見えない不自然な動きになる。ただでさえ一人きり敵船に残った俺が皆の元に駆け付けるシチュエーションがあり得ないというのに、そのような不自然な動きでみんなの元に駆け付けるとなると、より不信を煽る結果になりかねない。


 どういう理屈かはわからないけど船がちゃんと船らしい動きで近づいてきた方が、皆に与える心理的なインパクトも少なくて済むだろうし、消費する力も少なくて済む。


 精々が即興で術を作り上げる労力と、肉体に由来する僅かな魔力の消費で済む。可能ならアストラル体の魔力を消費したくは無いしな。



 この世界の生物は生まれつき魔力を持たない、それは俺も例外ではなく、生まれついた肉体に魔力は含まれていなかった。ただ、魂に由来する力で魔法を行使する分にはどの世界でも問題は無いので、記憶を取り戻して早々に肉体に色々と手を加えて魔力を生み出せるようにしてある。


 ローズ達もネットワークに接続する際にコピーを作成したが、その影響でいつかは魔力の運用、魔術の行使能力を手に入れる事だろう。



 つらつらと考えているうちに乗っ取った敵船は大分速度を上げ、仲間達の元に迫りつつある。俺達の船には既に火が放たれ、敵船が2隻接舷しており、かなり押し込まれているようだ。


 何人もの戦友が命を落とし、一命をとりとめても重傷を負ってデッキ上に転がっているのが見える。



 俺が乗っている船の上にわずかに残っていた敵兵はどうやらデッキ上に設置してあったヨットに乗るなり、海に飛び込むなりしてとうに全員逃げ出すか、黄泉路に旅立ち躯を晒しているかのどちらかになっている。


 俺が魔術を行使している現場を見ていた奴はいない。



 このまま敵船の一隻にぶつけてやるのも良いが、まだ消火が間に合いそうだとは言え自船はそれなりに被害を受けているからな。使える船は幾つかとっておいたほうが良さそうだ。


 進路を微調整してそのまま左舷側に取り付いている船を横切るようにしてやる。敵船の奴らは頻りに連絡旗をあげて味方だと信じているこちらに指示を送っているようだが、一向に指示に従わない様子を見て騒ぎ始めている。



 それに比べ我が戦友共は俺が船をのっとったと信じて疑わないらしく、かなり押し込まれてヤバかったはずなのに士気が上がり始めたようだ。



 「「「エイリークが来たぞ!エイリークが来たぞ!」」」



 お決まりの文言をまるで呪文を唱えているかのように声をそろえて怒鳴りあげる。エイリークが来たぞ!と叫ぶたびに、最後の力を振り絞るかのように敵兵を押し返そうとする我が戦友共にマストの上から大声で俺が健在であることを告げる。



 「押し返せ!叩き切れ!容赦をするな、食らいつくせ!それ、てめえらが御望みのエイリークが今行くぞ!!


 我こそが戦場の幽鬼エイリークの生まれ変わりアイクなり!誰一人生きて帰る事は出来ないと覚悟しろ!」



 俺の怒号を受けて、爆発するかのような歓声とお決まりの文言が船上に鳴り響く。勝ちを確信していた敵兵が僅かだが動揺しているようだ。



 一昔前なら、敵味方誰一人とて生きて帰る事は出来ないと覚悟しろ、よね、なんてローズから突込みが入りそうだなと少し思ったりもしたが、流石に半年以上同じ釜の飯を食った仲間だからな。


 もう見間違えることは無い。



 雄叫びを上げてマストから自船左舷側の敵船に飛び込む。まだ距離は30メートル近く離れているし、ロープも使わない。当然自爆するだろう俺の行動を敵兵は笑おうとして顔が固まり、不自然な軌道を描いて自分の船に勢いよく飛び込んできた俺を馬鹿面のまま見つめていた。着地点は狙い通り敵船中央。特に指揮官を狙うでもなくすべてを殺し尽くすつもりで周囲を見やる。



 容赦はしない、殺しきる。心に想うものが全くないわけではないが今この時は、80年間現実から目を逸らし続けていたエイリークに戻る。心を切り離し六角崑を勢いよく真横に振り切る。


 最初に咲かせた赤い弾け花を皮切りに、テンポよく手早くしかもぬけが無いように次々と一瞬の弾け花を咲かせ続ける。ちょいと興がのって途中に三三七拍子をはさみながらパンパンパンと小気味良く、手際よく。



 敵も武装して身を守ろうと槍を、剣を構えているのだが腕も違けりゃ速度も圧倒的に違う。至近距離から矢が放たれるが見てから余裕で回避して打ち返すのも特に苦労しない。手に頭に胴体に。袈裟に喉に金的に。それぞれの隙に隙間を通すように正確に素早く六角崑を振りぬいて、何処に当てても致命傷になる威力で。


 何なら三三七拍子の合間に矢を弾く余裕もある。時間をかければかけるほど、こちらの被害は多くなるし、死にかけている奴を助ける時間も無くなる。余裕をぶっこいて手を抜くつもりは欠片もない。



 途中、相手方の将軍らしき装飾過多で彼方此方に棘が映えているゴテゴテした鎧を着こんだ腕の立ちそうな男がいたが、態々手を止めてじっくりと相手にする気にもなれない。


 何やら名乗りをあげようとしていたみたいだけど付き合うつもりは最初からないからな。拍子の何拍目かに代わってもらう事になった。悲鳴も漏らさず頭が弾けて倒れ伏す将軍らしき物体が哀れではある。


 手近の奴らを全員弾いて、次に狙いを定める為に一度動きを止めた瞬間、ようやく現実が脳に染み込んだのか、敵兵の悲鳴と怯えた雄叫び、それと味方の割れんばかりの歓声が再び船上を埋め尽くす。





 一気に敵の戦意が粉々に砕かれたようだな。見ると自船右舷に接舷していた船の指揮官らしい奴が撤退、撤退と叫んで船を固定していたフックを外すように指示を出している。


 気持ちはわかる、俺も元は怖がりだ。どれほど恐ろしく逃げたくなっても、海の上、船の中じゃ逃げようがないからな。こんな化物が乗り込んできた船なぞ、出来るだけ早く切り離したかろうよ?




 ここで奴らを逃がすものかと我が戦友、兵長のマーカスが「逃がすな、船を固定しろ!フックをかけろ!」と叫んで逃げ腰になった敵兵をここぞとばかりに攻め立てる。


 流石今まで色々と苦労を重ねているだけあって、勝負の勘所を逃がさない。




 押し込まれていた影響で俺が飛び移った船に味方が一人も乗り込んでいないのは、切り合っている最中に既に確認している。



 「それほど逃げたいのならフックを外すのを手伝ってやるよ!」



 再び船上の者すべての鼓膜を大きく震わせる怒声を浴びせて、手近にあったマストと舵輪を気を込めて叩き壊す。当然舵輪は船底を突き破るように力強く。



 間をおかずにフックで固定されている船縁を一気に走り抜けてフックロープを全て六角崑で切り離すと、数十分ぶりに母船へと帰還を果たした。




 少し力を入れ過ぎたか、船底に深刻なダメージを受けたらしい左舷の船は、腹に水兵や物資やらを積み込んだままあっという間に角度を変えて沈んて行く。


 此方の船に切り込んでいた兵は戻るに戻れなくなり、右舷側の船に一斉に駆け寄ろうとするが、ドーベル達が思う通りにはさせない。



 その合間に、離脱に手間取っている右舷側の船に手早く乗り込んだ俺が、必死に船を守ろうとする奴らを全員弾け花に変えた後、同じ要領で船に致命傷を与えて、フックを切り離して奴らの最後の希望を絶ってやる。


 取り残された連中は全てを諦めたような顔になり力なく傾き始めた船を呆然と眺め、腰から砕けて座り込む。化物だ……と呟きを残して。


 沈みゆく船の上で慌ててこちらの船に再度乗り込もうと足掻くやつもいたけど、頼りになる我が戦友たちが槍で突くか剣で払って追い返すうちにとても飛び移れる距離ではなくなり、全員が哀れ船と運命を共にする事になった。



 「俺たちの勝利だ!」



 精神が極大に高揚した俺は魔力を注入して淡く輝く六角崑を天に掲げ勝鬨を挙げる。


 「エイリークの生まれ変わり、アイク!万歳!」


 「アイクの大将!我らが大将!無敵の鬼神、船上の鬼神、アイク!」



 マーカスとドーベルが俺を称えて声を張り上げると、皆口々に彼らの後に続き、無敵の鬼神、戦場の鬼神アイク!と連呼してくれる。


 興奮が少し冷めて色々恥ずかしくなった俺は皆を止めるわけにもいかず、光らせ天に掲げた六角崑を今更引っ込ませるわけにもいかず内心動揺していたが、なるようになれと開き直る。

 


 我に返って消火を叫ぶ船長が止めるまでの少しの間、戦場には新しい俺の呼称が響き渡っていた。


いつも読んでくれてありがとうございます。


アイクの新しい呼称が誕生しました。

厨二テイストはそこそこですかね?


海上限定ですが、容易に変更できるのでなかなか便利な厨二ネームです。

後述しますが、もう一隻は既に逃げてしまっています。


気が向きましたら評価、感想をお願いします。



暫く、今後の展開について、練り直しとストックを貯める為に暫く更新をお休みしますね。

初めての作品で練習の心算で書いておりましたので、1日数人に読んでいただければいいかなと思っておりました。


こんな作品を評価してくれた方、ブックマークをしてくれた方に感謝を!

この後書きを更新している時点で数話ストックはあるのですが、もう少し貯めてから再度更新を開始します。

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