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貴方が抱えているものは

ローズ視点です。

 三週間ぶりにアイクと会って、色々と話をした。アイクが船に乗ってからの三週間、ダニエルと協力して相場を荒らしまくった事。屋敷に2度襲撃があった事。一度目の襲撃の際の捕虜が死にかけているからそのケアが必要な事と2度目の襲撃はレイモンドが指揮官だったのと200人近くの兵力で攻められた事も。



 ここで寂しかったって言えない当りが私も素直じゃないわね。本当なら公爵家を継ぐことにした事やアイクにそれでも側に居てほしいと、そんな話をするべきなのかもしれないけど、公爵家の後継の問題はレイモンドが行方不明になっているから暫くは何も進まないと思う。


 大体、レイモンドの暴走の件とその結果については今だ両親の元には届いていないでしょうし。皆がいるこの場ではなんだし、もう少し経ってから場を整えて打ち明けるべきよね。



 レイモンドの名前を聞いて一瞬、誰だそれ?みたいな顔をしたからつい笑ってしまった。既に彼の心の中にはレイモンドは存在していなかったのね。



 今後、同じような事があった時の為に、時間が確保出来次第、医療用の設備を屋敷に設置する事と緊急時の治療用の魔法のポーションをストレージに入れておいてくれる事になったけど、射撃武器については少し渋い顔をされたわ。



 アイクの説明だと、銃弾にも気は乗るらしくて、威力も手足を狙ったところで当たった部分を吹き飛ばしてショック死させてしまう可能性が大いにあるみたい。


 使うならレーザー銃の様な光学兵器の方が無難みたいだけどね。ただ、そこまでやる位なら自分たちで戦うのではなくて代わりに戦うアンドロイドなんかを数体導入したほうが効率がいいんじゃないかと言われたわ。



 思いっきり目をキラッキラにさせて。ついでにマリアも目を輝かせていたから、以前三人で話し合った時の話をもう一度したのだけどね。アイクが言うには作られる人格に関して気になるなら色々と方法があるみたいで、後で時間が出来たら相談に乗ってくれるって言ってくれた。



 ……いいタイミングかも知れないわね。



 いつになく乗り気でグイグイ来るから、なんとなく乗せられてしまったわ。まぁ、実際必要性に関しては否定できないのよね。



 現在ストレージ内に捕獲している捕虜については、ストレージの存在を必要以上に広めるような真似はするべじゃないという事で話がまとまった。


 実際に収容されている彼らは時間が止まった空間に滞在している期間、記憶があるわけではないけど一瞬で時間がたったことは解放された時点で気が付くだろうし、開放する時期によっては浦島太郎が200人近く出来上がってしまう。


 これでは本人が此方を恐れて口をつぐんだとしても、家族やその他から情報が漏れないとも限らない。


 雇われた人たちには哀れとは思うけど、こちらが情報を統制する必要が無くなるまではストレージの中にいてもらう他ないかもね。


 因みに認識誤認や齟齬の術は200人近くに懸けるのは面倒だと最初に言われてしまったからどうしようもないわね。




 因みに、重傷を負った味方については既にストレージの外に解放されてアイクの治療魔法で回復して、隊長の元へ報告に行っているわね。認識齟齬の魔術の影響で今頃は気を失っている間に治療してもらった位にしか思っていないと思うけど。



 ムルドとその他約一名はどうしよう。治療自体はストレージの中に置いたまま最低限はアイクが終わらせてくれたから、外に出したら直ぐに死んじゃうという事は無いけど。


 出血を止めて外傷を最低限ふさいだだけだから、骨は粉砕されたままだし、暴れればまた折れた骨が血管を傷つけて出血しちゃうかも知れない。


 外への血の出口は無くなっているからそうなったとしても情報を得るくらいの時間は生きていてくれると思うのよね。


 ちょっとかわいそうだし、出来れば家族のもとに返してあげたいと思わないでもないけど、今のタイミングで帰すのは難しいかな。



 アイクも開放に関しては気が進まないとは言っていたけど、ご家族の話をしたら顔を顰めていたわ。



 結局、私達に任せるよと一言告げた後はその話には触れなかったから、私達も空気を読んでその場では話を変える事にした。



 「ねぇ、アイクさんが船でどう過ごしていたのか教えてよ。」



 マリアがいいタイミングで話の流れを変えてくれて、その後はいつものようにアイクにお酒を出してもらって飲みながらお喋りをしていた。


 今の私達なら、自由に自分が飲みたいお酒をストレージから出して勝手に飲み始めることも出来るけど、アイクがいるときには自然とアイクにお酒を出してもらって呑み始めるっていう流れがいつものようになっているわね。


 だから、私は無言で右手を出してアイクは少しだけ苦笑いをしてエビ的な500缶を手渡してくれる。


 マリアは今回はカルーアミルクからスタートするみたいね。甘いカクテル系列が好きみたい。


 エリスは大体麦か芋から始まって、その後気分次第で変わっていくパターンが多いけど今回は珍しくエリスの以前の地元の酒蔵の日本酒をリクエストしていたわね。


 大吟醸って言っていたから、多分良いお酒よね?まぁ、大吟醸と名がついていてもピンからキリまで色々とあるみたいだけどね。


アイクは私と同じくビール党みたいで、いつもの銀色の缶を出してさっさと呑み始めているし、そんな光景を見てなんとなくホッとしている自分に苦笑が漏れる。



 アイクが語る船の上での生活は、正直経験したいとは思えないような内容だった。お風呂に入れるわけじゃないし、貴重な水で身体を洗うようなことはしないから、基本船乗りは臭いらしくて、そんな中汗だくで訓練をしたりオールを漕いだりする生活は、ちょっと遠慮したいわね。



 ただ、そんな制限された生活を送るせいか、同じ境遇の仲間とは絆が強くなっていくようで、まだ共に実戦を潜り抜けたわけじゃないけど、久しぶりに戦友が出来たような気分だって話していた。


 声は嬉しそうなんだけど、顔は辛そうなんだよね。



 話している内容は楽しそうだし、良い奴らだと言っている。あいつらと共に戦うのが楽しみだって言っていたから、今回は顔の見分けがつかなくて同士討ちは起きないでしょうけど。


 ただ、表情だけが暗いのよね。



 多分、これもアイクの地雷に関係する事なんだと思う。こんなに楽しそうな声で、こんなに色々と話してくれて、でもどういうわけか表情だけは苦みと暗みがある。



 少し強いお酒に変えてもらって一息にコップ一杯呷ってしまう。皆、少しだけ吃驚しているけど、アイクが笑いながらもう一杯コップに注いでくれる。



 「いつもながら良い呑みっぷりだよな。呑む量はエリスには及ばないけど、勢いはローズが見ていて一番だな。」



 さっきまでの暗い表情が消えて、苦笑を浮かべて自分も私と同じお酒を呑み始める。エリスが私はそんなに呑めませんよと言いながら、三本目の芋を開け始めている。なんかいつもよりペース早くない?




 アイクは……一体、何を背負っているんだろう。


 この世界に生まれてきて既に121年経っているらしいし、それなりに別れを経験してきているのだろう事は想像できる。



 ご両親や兄弟とは当然死に別れているはずよね。


 生きる時間が人とは違う為にただ一人残されていく孤独感。もしくは80年前にあった嘆きの城関係の一連の動乱でもしかしたら親しい人を失ったのかもしれない。



 考えたくないけど、アイクだってこの世界に生まれてきて最初からここまで色々と拗らせていたとは思えない。男女の関係にまではいかなかったけど、良い人がいたとしてもおかしくないわよね。


 顔をごまかしたのがいつの頃からなのかどうやっているのか分からないけど、多分幻影の魔術の類よね。生まれたころから顔をごまかしているとは思えない。


 2重の顔のその奥が彼の生まれつきの顔だとしたら、顔も甲斐性もある男を周りがほおっておかないでしょうね。アイクの良い人、どんな人だったんだろう。



 ……戦争でそういう人を失ったとしたら?目の前で無惨に甚振られた姿を見てしまったら?友人すら作る事に戸惑いを覚えるほどにトラウマを抱えるだろうか。


 もしそうだとしたら人間不信になっても可笑しくない。



 アイクの行動は何処か自罰的なのよね。自分のせいで親しい人を失ったとしたら?



 人間不信にならないで自己嫌悪に陥る。なんとなくしっくりこない。



 本当に作るつもりもないのにハーレムを作るとか公言する理由。その為に英雄になるというあたり、英雄になるという言葉も本気ではないと、既にマリアもエリスも、そして私も理解している。



 理解している上で、彼を本気で英雄にしようとしている。


 何でだろう。自分でもよくわかっていない心理だけど、条件を満たせば天岩戸が開く理由の一つになるかもしれない、そんな考えが私達の中にあるんでしょうね。



 たったそれだけの為に一体これからどれだけの人が血を流すのか、自分が怖いわね。……、基本的には派手に商売をしているだけなんだけどね。



 アイクと何回目か分からない乾杯をして、コップを傾ける。


 強化された影響で、記憶をなくすほどに呑んで潰れたくなっても、ほろ酔いの一歩先くらいまででストッパーがかかったかのようにそれ以上酔わなくなる。けど、酔っているように見せて騒ぐことはできる。



 マリアはグダグダになってエリスに抱き着き始めたわ。エリスは酔ったようには見えないけど、マリアの頭をなでなでしながら次の麦を開けようとしている。


 片手でいったわね、ワイルドに。アルミのキャップが勢いよく回ってどこかに飛んで行ってしまった。未開封のアルミキャップを軽々と片手の親指で回して開栓する。軽く人間業じゃない。


 いや、もしかしたらできる人もいるのかもしれないけど、少なくとも私の周りにはそんな人はいなかったわね。



 いやさ……本当に今日はペース早いわね。


 アイクは半舷上陸で明日の早いうちには船に戻らなくちゃいけないし、今日はそんなに遅くまで騒いでいられないから、余計にペースが速いのかもね。



 これは抜け駆けじゃないわよ?



 二人がじゃれている間に私はアイクの側にそっと寄ってから左側に軽く寄りかかる。こんなことをしたら前なら顔が2重に重なっていたけど、最近は本当に2重現象が出る事は無くなったわね。


 ちょっと残念。慌てた雰囲気がお気に入りだったのに。



 ただ、そのおかげだと思うけど今の所、同じ船の連中にアイクがエイリークだとはばれていないようね。本人はエイリークだとバレる理由に気が付いていないから、バレない理由もわかっていないようだけど。



 いい具合に思考が乱れていくけど、ギリギリのところで崩壊せずに思考を維持できている。



 アイクが他罰的ではなく自罰的な理由。自己嫌悪に陥る理由。自己嫌悪になるという事はその原因を愧じるわよね。愧じる事ならそれを私達に話したくはないはず。



 前から思っていたんだけど、アイクは自分の事を神様の端末だって言っていたわよね。自称はカトラリーとか死神とかだって言ってたけど、その神様の端末が何をするのかは詳しくは教えてくれなかった。



 今の所わかっているのは縁を巡らせることがカトラリーにとって重要な事の一つだということくらいかな。



 そもそも何でカトラリーとか死神なんて自称しているんだろう。死神は、まぁわからなくはないわよね。一般的なイメージは人に死をもたらす神だけど、本来は寿命が来た魂を神様の元に届ける農夫だとも言われているわ、たしか。


 人間の魂を刈り取る農夫か。


 カトラリーは食事をする際に必要なナイフとかフォークの事をさす言葉よね。なんか嫌な予感しかしないんだけど。


 神様は一体何を食べるの?


 死神は神様に刈り取った魂を納める。


 カトラリーは一体何をするの?



 カトラリーも死神も自称よね。基本的には同じ役割を持った神様の端末。



 ねぇ、アイク。貴方は一体何をしたの?何をするためにこの世界に来たの?



 強化されて酔いつぶれるはずの無い身体が、お酒に物理的なプレッシャーを受けているような気がして潰されそうに感じる。



 ほんの少し、チラッとだけ彼が抱えている地雷の本当の姿を見てしまったような気がした。これが正解なのかはわからないけど。



 これが正解なら彼が英雄に成ろうとする理由も、実際に英雄に成れなくても何の問題もない事も理解できてしまう。




 ……これはアイクには問いただせないわね。マリアにもエリスにも言えるはずがない。誰にも相談できない。出来るわけがない。



 だから、彼は私達と心を通わせることも女として抱く事も出来なかった。だから彼は心を通わせてしまった私達を決して死なないようにナノマシンによる強化を施すことにした。万が一、億が一にも死ぬことの無いように。



 心の中で全てのピースがつながっていくような気がした。



 これが正しいとしたら、彼は自分の親しい人を……。



 いや、もう少しだけ何か足りない気がする。そうだとしたら彼は自分が仕えるべき神に対してもっと憎しみを持っていても可笑しくない。もっと他罰的な傾向が出ても可笑しくないはず。


 あと少し何かある。そしてその少しが彼を自己嫌悪に陥らせ、ほんの少し自罰的な行動に走らせているように思える。



 その答えを知るのが怖いわね。



 アイクに寄り掛かりながら彼にお代わりを注いでもらう。少なくとも今の彼の表情からは暗さも悲哀も動揺も感じない。この場所に自分がいる事による安心感に満たされているように見える。



 「ん、どうした?」



 少し顔を見つめ過ぎたわね。



 「んー、どうやって押し倒そうか考えていただけよ。」



 そんな風に揶揄うと、流石に動揺したのか僅かに顔が二重になった。



 「冗談よ、ただ三週間ぶりにやっと会えたんだし、明日にはまた船の上でしょ?今のうちにしっかりとアイクを感じておきたかっただけ。」



 そんなことを言ったら、更に顔が二重になって久しぶりに彼の素顔を拝む事が出来た。今度は冗談だとは言わないで、軽く腕に抱き着いて頬を腕に寄せる。



 「ずっと寂しかったんだから、少しくらいいいでしょ?アイクが困るようなことはしないからさ、こうやって少しだけ温もりを頂戴。」



 酔って初めて伝えられた言葉に自分で照れる。


 私達の様子に気が付いたマリアとエリスがアイクの温もり奪取作戦に参戦してくるのに、それほど時間は必要なかったわ。



 あぁ、マリアが後ろから抱き着いている!あぁ……、そのポジションも良いわね……。急いては事を仕損じる、ね。肝に銘じておかないとね。


いつも読んでくれてありがとうございます!


章を分けたりはしていませんが今回で2章が終わったあたりになります。

続きを書き溜めするべきか、このままストックを消費しながら書き続けるか、少し考える時間を取るべきか。


迷っています。


それと、ブックマークしてくれた方々、本当にありがとうございます。


今回、少し重い内容になっていますが、基本的にはハッピーエンドが好きですし、アイクはローズが思う程思い詰めても追い詰められてもいませんので、まぁ、呑気なものです。


気が向きましたら評価、感想を宜しくお願いします。

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