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5話

ローズ視点です。


 ナノマシンの強化を受けてよかったと思える身近な例としては、二日酔いにならない身体になったという点があるわね。


 アイクが船に乗ってから初めての女子会で痛飲したにも関わらず、泥酔することもなく翌日に味わうはずの地獄を経験せずにいられることに目覚めた時に感謝したわ。


 飲んで騒いでいる最中に、あぁこれ絶対明日二日酔いよねって思っていた。今までの経験だと確実に朝起きたら地獄だったはずなんだけどね、起きてびっくり爽やか爽快、昨日のストレスどこへやら。


 昨日の予定からずれ込んだ商談を午前中の内に片付けなくちゃいけなかったから都合がいいけど、癖になりそうで怖いわね。



 市中では既にムルド商会の会頭が行方不明になったことが話題になっていたみたいで、ダニエルからもこちらの方に知らせが来ていたわね。その後ラーゼント商会との商談の際にマリアが直接ダニエルと会ったみたいだけど、ダニエルからはムルドに関してこちらを探る様な仕草は一切なかったみたい。


 マリア自身はダニエルが交渉事で自分より何段も上手だと言っていたから、匂わせなかっただけかもしれないと言っていたけど。


 マリアの数段上なら私なんか手玉に取られておしまいよね。ただ、そのままではいられないから、私自身も自分を磨かなくちゃならない。




 ムルド商会の家人は奥さんが10歳くらいの子供を抱えているらしく、途方に暮れていると噂なのよね。こちらとしては身を狙われた立場なわけで、同情する立場じゃないけど奥さんと子供には何の罪もないはずで哀れではあるわ。


 彼に限らず先日の襲撃の際に命を失った人たちにも当然彼らの帰りを待っている家族がいるかもしれない。待っている家人には大抵何の罪もないだろうに、哀れだと思わなくもないけど、だからと言って唯々諾々と彼らの横暴を受け入れるわけにもいかないし、彼らの家人が哀れな立場になったのは彼ら自身の責任によるものなのだから、私達が気にすることは無い。



 だけど、話を聞いてしまえば、簡単に割り切れるほど私はドライになり切れない。都合のいい事にムルド商会は表向きは私たちの取引先だし、基本は現金と現物の取引だけど幾つかの取引で清算が済んでいない品もあったりする。


 会頭が行方不明の時点で直ぐに見舞金もないだろうけど、未精算の商談の件を利用してルーフェス側の商人の纏め役をお願いしているダニエルに、ムルド会頭が戻るか行方が分かるまで面倒を見てやってほしいとマリア経由で伝えてもらう。



 マリアも何か言いたげではあったけど、何も言わずにメッセンジャーを引き受けてくれた。多分、甘いと言いたかったのかもしれない。


 少なくとも表面上は急に連絡の取れなくなった取引先の商人という関係性ではあるから、ここで親切をすることに不自然は無いし、逆に何もしなければ不審に思われる場面よね。そう自分を納得させる。



 ダニエルに面倒を見てくれと頼むのは少しやり過ぎかもしれないけど。おそらく彼には私とマリアの対応をからムルドの運命を悟られるかもしれない。


 ただ、そこを追及してしまうとダニエルの都合も悪くなるだろうから、彼から追及されることはないと思う。



 どのみち賽は振ってしまったのだから、これ以上気にしても仕方ないか。



 それからしばらくは何事もなく、今まで通りに商談を終わらせて、軽く戦闘訓練に参加してシャワーを浴びてたまに?女子会を開くという生活を続けていたら、ダニエルからいよいよ東のエンデリング方面への物流が活発になり始めた旨連絡が入ってきた。



 ただ、物資調達の内容から判断するに、軍事行動を起こすというよりももっと別の行動に見えるらしい。


 今までだとルーフェスから海経由で物資が流通する際には軍事行動に移る為に必要な食料や馬の飼料などの品物やお酒、布や鉄、一部の薬品などが大量にエンデリングに流れるけど、今回は食料やその他の流れは通常の物流とさほど変化はない。



 ただ、大量に鉄の発注量が多いらしく、家から出ていく鉄量もかなりの量になる。思いがけない発注で、現在家から出ていく鉄の9割近くがエンデリング行きになっていたりしてちょっと怖い。



 エリスも首を傾げていたけど、これはランシスがどの程度までエンデリングの鉄の需要に応える事が出来るのかを実地で試している可能性があるとの事。

今まで周辺国で出回っていた鉄よりもかなり品質が良いので、輸入元を切り替える算段をしているのかもしれない。



 後はもしかしたらこの鉄を使って何かを企んでいるのかもね。可能性を広げてしまえば結論は無限大に拡散する。でも考えざるを得ない、第4の転生者の可能性。



 私達は現代科学の知識など常識程度しか持ち合わせないでこの世界に来た。その為この世界の産業を根本から変えられるほどの行動は起こせない。今私達がこの世界に起こしている影響は全てアイクの力があってこそだから。



 だけどエンデリングに私達と同じような世界か、それ以上に科学が進んだ世界から転生した人がいた場合、もしくはジャスト中世時代の鍛冶職人なんかが転生してきた場合、この世界の冶金術が大幅に発展する可能性もあるわけで、その人物が質の良い鉄を大量に求めているなんて事も考えられる。



 正直考えすぎだって自分でも思うから、妄想はその辺でやめておくけど全く可能性が無いわけでもないから頭の片隅にでも入れておくことにする。



 兎も角、このエンデリングの反応も私達が欲しかった世界の混乱のきっかけになるかもしれないし、私たちはただ商売をしているだけだと割り切る。



 それを聞いてちょっとだけエリスが切ない顔をした。



 「やっぱりエリスは優しいからね。辛いなら取引関係の詳細は知らせないようにするよ。これは私が決めて私が引き起こしている事だからエリスは気にしないで。


 知らないふりして、別の事で私たちを助けてくれると嬉しいな。」



 そう言うと彼女はさらに悲しい顔をして答えた。



 「ローズ、私達が決めて私達が引き起こしている事ですよ。大丈夫。こういう事を人に押し付けてのんびりと平和に生きていくつもりは無いわ。


 私にとっても重要な事だから。


 ただね、同時に2方面の出来事を今の私達に処理しきれるのかなって少し不安になっただけ。」



 確かに。正確に言うと現在ランシス王国内のおそらく2派とアイルグリスの合わせて3つの敵を抱えていることになっているから、そこにエンデリングが加われば4つの敵を抱える事になるかもしれない。



 「確かにね。少し荷が重いけど、既に退き口は確保されているから。最悪は私達が助けたい人たちだけを助けて逃げる事もできるわ。


 それにエンデリングが敵に回る可能性はやっぱり低いわよ。今のままエンデリングの2方向に敵が構えているうちはこちらにちょっかいをかける余裕はないもの。


 普通に考えれば良質な鉄の提供元を自分から潰そうとはしない。簡単に手に入れる事が出来ないと判断すれば、少なくとも短期的には敵に回る事は無いと思う。」



 そういうとエリスはやっと安心したような笑顔を見せて笑ってくれた。



 「長期的には?」



 「それまでにはアイルグリスとのいざこざを片付けちゃいましょう。その上でアイクとどうしようか考えればいいわよ。


 敵を増やすのか、味方にするのか、ね。」



 「解りましたわ。ではそのようにしましょう。」



 とりあえずは相手が望むままに鉄の供給量を増やすことでエリスと合意して、同時に鉄の相場が上がり過ぎないように周辺への鉄の供給を増やすことにする。


 そうなると当然、今まで行ってきたランシス王国産の鉄塊の買取量も増える事になるけど、これって益々どこが鉄の供給元かわかりやすくなるわよね。



 ま、開き直ってしまえば気にする事もないわ。日本の無責任なフルアーマー政治家の言葉だっけ、「直ちに影響は無い」って。


 後がちょっと大変な事になりそうだけど、その言葉に肖らせてもらいましょう。



 そんなこんなで細々とした問題から大きな問題の種まで3人で四苦八苦しながら処理して、ついでに体を動かしてお酒を飲んでを繰り返してたら、エリスが懸念していた「次」がきた。


 その日はアイクが海に出てから16日目の深夜。時間にして1時頃。


 ただ前回と違うのが今回は襲撃される前に相手の動きを掴めていた事だった。彼らは思いもよらなかっただろう。


 自分たちが今から襲撃しようとした屋敷の女主人から下っ端の警備兵に至るまで手ぐすね引いて待ち構えていた事を。


 そして今から自分たちが味わう恐怖がどれ程のものなのかを。




 正直、私ならこんなお化け屋敷に忍び込むのは御免だわ。


もう1~数話挟んでアイク視点に移る予定です。


いつも読んでくれてありがとうございます。

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