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8話

アイク視点です。


今回も設定の説明がメインになっていますが、アイクの心の傷が前回に引き続き少しだけ出てきます。

 作業に手間取り、トイレ事情に我慢できなくなったお嬢様方の強い要望により、結局宿の各部屋にオーバーテクノロジートイレを設置することになったり、余分に一部屋を借りてそこにオーバーテクノロジーバスを設置する羽目になったりと、細々(こまごま)としたトラブルはあったが、特筆すべきことではないだろう。



 何故最初から屋敷の方にオーバーテクノロジーな一品を設置しないのかというと、維持にそれなりにコストがかかるのが一点。後は基本的に手元にあるのはその機能、使用目的からポータブルタイプしかない為、屋敷に設置するにはあんまり向かないのだ。


 トイレとバスが部屋にデンと置いてあるイメージ。周囲になじまず浮いてしまうといったらわかるかな。


 因みに設置できるタイプの物は、それなりにグレードの高い物が主流であるために、簡易的な機能しかないポータブルタイプの物よりもお値段が張るのだ。主にトイレ単体の値段よりも設置の為の周囲の設備込みでの値段の話だけどな。




 ともあれ、屋敷全体を魔法で重力を軽くして全体的に構造にかかる負担を軽くしてから補強工事や柱で支える構造を取り入れたりして、どうにか屋敷全体の基礎工事を終わらせて、最低限のトイレやお風呂、水回りの設置が終わったのがルーフェスについてから一か月後の事だった。



 その時点ではまだ電気系統や空調、各部屋の内装を含めた細々とした処理は全然手を入れていなかったが、これ以上宿に宿泊するのは勘弁願いたいという意見が俺も含めて満場一致で採用され、工事を続けながらの暮らしでも文句はないとの事だったので早々に新居に移る事になった。



 そして、ルーフェスの門を潜って三か月。あの日の朝の事を意識することも少なくなってきた頃にようやくほぼすべての工事を終え、本日3人のお嬢様方が待ちに待ったPCの設置と色々と面倒な設定をする日がやってきたのである。




 「ねぇ、アイクさん。PCの設置とか設定ってそんなに難しいものだったっけ。私の記憶だと買ってきて線をつなげば直ぐにネットに繋がって使えた記憶があるんだけど。」



 「マリアの質問ももっともだけどな。これは各自の年代に外見と操作法を合わせてあるから皆それぞれに見慣れたPCに見えるけど中身はカトラリーの謎の技術集団が組み上げた、地球製のPCとは全く別物の装置なんだよ。



 このPC擬きの基本的な機能は通常のPCの機能に加え、その世界のカトラリーのアストラルにラインをつなぎ、その権能の一部を使えるようにすることがメインの機能になる。



 その為には使用者のアストラルパターンを読み取って簡単に言えば使用者の魂のコピーをそのPCにインストールする必要があるんだ。」




 と、まぁその為に色々と面倒な設定が必要になるわけで、彼女たちが自分で簡単に設定できるものではない。俺の方から霊体を動かしてアストラルリンクをつなげる作業も必要だしな。


 つまるところ、このPCの本質は使用者のアストラル体とカトラリーのアストラル体をラインでつないで能力使用を補助する装置であるということだな。



 魂のコピーという言葉に少々顔がこわばる三人だが、安全性については問題ない旨請け負うと、元々ずっと楽しみにしていたPCを使う誘惑には勝てなかったのか、無理やり自分を納得させたみたいだ。ローズだけは「最初にその辺も説明してほしかったわ」と一言あったけど。



 このPCを利用することの利点はいくつかある。俺を通じてネットワークを利用できるというのは当然だとしても、それ以外に魔力、魔術、魔法などの適正の取得の可能性。


 色々と世界毎に細かく定義や法則が違ったりするので、カトラリーの間でも明確な魔術と魔法の定義はないのだが、それらの素養の無い魂がアストラルコピーの作成とPCの習熟によって、直接魂が鍛えられて能力開眼の可能性が高まるといった利点があるのだ。




 そのあたりの事を作業の都度に説明して3人分のPCの設定を終える。後は自分の部屋の好きな場所に設置してもらうとして、各々にPC一式を引き渡す。


 ちなみにローズとマリアはノート型。エリスは本体とキーボードを分離できるセパレート型を希望したので自分の部屋への持ち運びは苦労しないだろう。




 「使い方は自分のコピーと同期すれば勝手に頭に入ってくる。自分の部屋に設置して起動ボタンを押せば勝手に同期が始まるから心配するな。電源は必要ないタイプで動作に必要なエネルギーは基本的には俺から供給されている。


 定期的にコピーと同期すれば、自分とコピーの情報に齟齬が生まれないし、人格の誤差も発生しないから使い勝手が良くなるぞ。


 同期はPCからあまり離れすぎるとできないから注意な。大体屋敷の敷地内位なら問題なく同期はできるから慣れてくるとキーボードやマウスを使わなくてもコピーと同期するだけでPC操作もできるようになってくる。


 PCの習熟が進めば、色々と出来る事も増えてくる。


 習熟が進めば、そのうち簡易に持ち運びできる端末、スマホ型でもブレスレッド型でもネックレス型、指輪型なんかもあるけど、そういう端末を身に着けて、外出先でもストレージの使用やネットワークの使用も出来るようになる。コピーとの同期もな。



 まぁ、そこまでできるようになるにはそれなりに時間がかかると思うけどな。


 でも夢が広がるだろう?


 後の細かい所は自分のコピーに聞いた方が早いな。」



 俺の言葉に居ても立っても居られない様で、各々自分のpcを大事そうに胸に抱え早速自室に戻りたそうな仕草をする。そんな三人をみて思わず笑みが漏れる。まるで親に初めてパソコンを買ってもらった子供の様な顔をしているな。



 「ありがとう!でも、アイクからエネルギーが供給されているって事はPCを使い過ぎるとアイクが疲れちゃったりするのかな。」



 「だとするとあんまりアイク様にご迷惑をおかけするわけにもいきませんし、使用をある程度控えないといけませんね。」



 「あぁ、そこは心配しなくていい。動作に必要なエネルギーは微々たるものだし、ローズ達が習熟していけば、その内自分の魔力を使用して端末を使えるようにもなる。例え一日中パワーオンにしていても問題はないよ。



 というか、ずっとつけっぱなしにしておいた方が便利だし、それが原因でPCが壊れたりはしないから、基本つけっぱなしを推奨するかな。



 どうせ自分以外は許可が無ければ画面を見ることも出来ない代物だしな。」



 「便利なのは良いんだけど、どういう原理になっているのかすごく気になるわね。でも、じゃぁアイクさんの負担になるって事はないのね?」



 目を輝かせながらマリアが聞いてくる。体は既に自分の部屋の方向に向いているので、早くPCをいじりたくてたまらないのだろう。


 気持ちは大いにわかる。



 「負担にはならないよ。PC三台の動作に必要なエネルギーは精々俺の身体から自然放射される魔力量の百分の一、位だからな。


 ネットワークでの取引で消費するエネルギーも問題にはならない。元々そのPCで一度で取引できる品の大きさや質量は限度が決まっているから、消費エネルギーも多寡が知れているんだよ。


 何か問題が起きた時はコピーを通じて俺から連絡することも出来るから、コピーが騒ぎ出さない内は心配せずに好きに使えばいい。


 取引に必要なネットワーク内通貨も既に入金してあるからな。さっさと自分の部屋に戻って設置して来いよ。」



 その言葉をきっかけにして三人はもう一度俺に礼を言ってから、いそいそと自分の部屋に戻っていく。


 これから久しぶりのPCを思う存分楽しむのかなと思っていたのだが。



 「当初の予定通り、まずはリストの確認を。特に「情報の取得に関して」の欄をメインに。」



 「了解。認識のすり合わせはPCを通じてでいいのかな。」



 「それが可能だとしてもリストをチェックし終わったら一度集まった方がよろしいかと思いますわ。各々、やれることが違う可能性もありますし。」



 「そうね、少なくともネットワークで取引できる品物に関しては各々の世代と常識で変わってくるって話だから、そのあたりのすり合わせも必要だけど、重要度は低いわよ。」



 「わかっていますわ。まずは情報の取得とすり合わせ、ですわね。」



 「リスト通り、手分けして手早くね。」




 ……。


 どうも俺の予想とは全く違う会話を交わして、手早く自室に急ぐ三人。一体何が起きているのか。少し怖くなった俺はとりあえず考えるのをやめて侍女さんが入れてくれた珈琲の香りを楽しむことにした。インスタントじゃないからかな。美味い。



 「うちのお嬢様方は元気だなぁ。」



 無意識にため息が漏れた。


 だけど、再び笑みが漏れる。



 先達の言う通り、いつかは乗り切れるものなのかもしれない。だけどそれはずっと先の事だと思っていた。ずっと。


 何回も転生して、人間性が擦り切れて、全てを無感動に受け入れていくようになったらいずれ。



 だけどそうじゃない道もあるのかもしれない。


 意外とその時期はすぐそこまで来ているのかもしれないな。



 そう思ったら素直に今が楽しいと思える。そんな自分に驚いた。



 ここ81年で一番濃厚な3か月だった。これから先もずっとこんな感じだとしたら、疲れるだろうけど、楽しみでもある。気が付いたらまだ昼過ぎだというのに銀色の缶を一本開けていた。


 少し早いけど、作業終了の祝杯を挙げる。



 その日のビールの味は、多分100年位は忘れないだろうな。

もし気が向きましたら評価お願いします。

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