【タナベ・バトラーズ】酒場にて
大通りから少しばかり外れた路地にある一軒の酒場。知る人ぞ知る、というような、隠れ家的存在の店である。そんな店の個室に、ラレスティアとスイミンシアは向かい合うようにして入っていた。ちなみに、この店のことを知っていたのはスイミンシアで、彼女がラレスティアを誘ったのである。
「あーもー、面倒事ホント多過ぎ!」
スイミンシアは酒を飲む前から酔っ払いのようなテンションだ。
ただし、酒の注文は既に済んでいる。
「そうなのですか?」
ラレスティアは先に出された一品を少し口にしつつ淡々とした調子で返す。
「そーよ! ほんっと腹立つことばっかり。うんざりするわー!」
スイミンシアはとにかく怒っていた。いや、怒っているという表現は相応しくないかもしれないが。ただ、ひたすら愚痴を聞いてほしいと思っていて、既に愚痴を言い始めていたのだ。
「そうですか」
「ちょっとちょっと、何よその反応は。興味なさそーね」
「興味……。事実、それほどありません」
「何それ! ひーどーいー!」
そのうちに注文していた酒が運ばれてくる。大きめのグラスに入っているのは金色の液体で、泡の粒が目立つ。だがそれも当然のこと。そういう種類の酒なのである。
届くや否や、スイミンシアはそのグラスを豪快に持ち上げる。そして、そのまま、一気に飲む行動に出た。液体が喉へ勢いよく流れ込む音がしていた。
「アナタは面倒とか思うことないわけー?」
「ありますよ」
「へー。どういうこと? 聞きたい聞きたーい」
「まず襲撃ですね」
ラレスティアの国から出てきた意外な言葉に、スイミンシアは戸惑った顔をする。
「それと、やたらと毒を盛られるのも面倒です。そのたびに国家間の問題に発展しますので」
「え……思ってたのと違う……」
想定外のことを話され、ただただ引くことしかできないスイミンシア。
「ただ、幸い毒物の影響を受けづらい体質なので、いちいち健康被害を受けないところは幸運だと思います。毎回死にかかっていてはやってられません」
「へ、へー……アナタも結構苦労してるねー……」
愚痴を言おうとしたが予想以上に深刻な話を聞かされ、何も言えなくなってしまったスイミンシアであった。
◆終わり◆