[ブラック童話]スノーのさがしものと存在感消失病(そんざいかんしょうしつびょう)
この作品は「冬の童話祭2021」の参加作品です。
作品の最後に挿し絵が入ります。
この『おはなし』はすこし『こわい』かもしれないよ。
『こわいおはなし』がにがてな子はひとりで読まないでね。
1
あるところに、スノーという、とてもかわいらしい女の子がいました。
ある日、スノーは、かがみにうつっているじぶんのすがたを見て、とても『存在』がうすいことに気づきました。
「これって、前にテレビでやっていた『存在感消失病』だったりして……」
『存在感消失病』というのは、だんだんと存在感がうすれていき、さいごにはなくなってしまうという、とてもとてもおそろしい病気です。
スノーは、これからじぶんの身におこることをかんがえたらおそろしくなり、体がガタガタとふるえだしました。
するととつぜん、スノーは、かつて『お兄さん』がじぶんの2つ上にいたことを思い出しました。
お兄さんも、スノーと同じ『存在感消失病』で亡くなっていたはずです。
顔も声も思い出せないけど、たしかに、いたはずです。
どうして、今まで思い出さなかったのでしょう。
これが、『存在感消失病』という病気のおそろしいところで、家族であっても、きおくからも消えてしまうのです。
スノーは、お父さんとお母さんに、お兄さんの名前を聞いてみました。
お父さんとお母さんは名前どころか、お兄さんのことを完全にわすれていました。
「ウチの子はスノーだけよ。あら、スノー。『あなた少し地味じゃない』」
2
それからというもの、スノーは『存在感消失病』について、ひっしでしらべました。
その結果、たすかる方法をひとつだけ見つけます。
その方法とは――。
だれかから、存在感をいしょくしてもらうことです。
さいきん、国のナンバー1の『アイドル』のノエルという女の子が、ドナー(いしょくする人)から存在感をいしょくしてもらい、助かったという事が分かりました。
『アイドル』とは、『ファン』のまえで歌ったりおどったりして『ファンクラブ』のみんなをたのしませるおしごとをする職業です。
ただし、ドナーとなった人はさいご、存在感をうしなって、ノエルの身代わりになるかのように消えてしまったんですって。
そして、ノエルのドナーになった人の名は、だれも覚えていないそうです。
ドナーにふさわしい人は、存在感をなくしてもこまらない人。
そんな人、はたしてこの世に存在しているのでしょうか。
「あきらめたらダメ。ひとりくらいきっといるわ」
スノーはひっしに、じぶんに言い聞かせました。
3
スノーは国じゅうの国民に呼びかけました。
でも、王様をふくむ370014105人の中で、だれひとりとしてスノーのドナーになりたいというしんせつな人は見つかりませんでした。
「まだ、あきらめちゃダメ。この広い世界のどこかに、存在感がいらない人は、きっときっといるわ!」
そう自分に言い聞かせるスノーの姿は、もう、とてもうすくなっていて、かがみにもうつらなくなっています。
早くしないと、この世界からきえちゃうよ!
いそいでスノー!
4
でも、けっきょく、スノーはドナーを見つけることは出来なかったのです。
「ノエルは国のナンバー1の『アイドル』だからドナーが見つかった。じぶんをぎせいにして、ふつうの女の子のドナーになりたい人なんて、いるわけないんだわ……」
スノーの目になみだがあふれます。
「こんなことになるなら、わたしも、人気の『アイドル』みたいな、だれかに必要とされる人になっておけば良かった……」
スノーの目からつぎつぎと、なみだがこぼれ落ちました。
「わたし、消えたくないよ……だれかたすけてよ」
5
それからすぐに、スノーのすがたは完全に消えてしまい、声も聞こえなくなってしまいました。
だからもう、スノーの名前をおぼえているのは、このおはなしを読んでいるきみだけなんです。
スノーは、きみだけがたよりなんです。
どうか、きみの存在感をスノーにゆずってもらえませんか。
そういえば、この前きみ、「もうなにもかもいやになった」って言ってなかった?
ほら。
「もう、野菜たべたくない」とか「宿題したくない」って言ってなかった?
そういうイヤなこと、かわりにスノーが全部やってくれるって。
ほら。
きみの存在感をほんとうにひつようとしているスノーに早くいしょく手術してください。
ほら。
きみのすぐうしろに、見えなくなったスノーがおねがいに来ていますよ。
きみに向かって、おねがいしているよ。
ねえ。
おねがい。
はやく。
お わ り
最後までお読みくださりありがとうございます。
もしよければご指摘、ご感想など頂けますと成長に繋がります。
挿し絵(スノー):
塩谷文庫歌さま
めっちゃありがとうございます!(><*)ノ
同シリーズ前作、まだ未読でしたら、こちらもどうぞ。
↓
「[ブラック童話]ノエルとウランと存在感消失病(そんざいかんしょうしつびょう)」
https://ncode.syosetu.com/n9175gn/
※紹介作品のリンク、感想欄の下辺りに用意してます。