モブらしからぬ行動?
よろしくお願いします!
……し、視線が痛い。
パーティー会場に着いてからというものの、チラチラとこちらを見ている人がたくさん居る。
おそらく、私の姿を見て誰かわからなくて驚いている人と、グレンに目を奪われている女の子達だろう。
さすが攻略対象。
居づらいだけなんで全く嬉しく無いけど!
そして入る時に思い出したのだが、文化祭でのパーティーは仮面舞踏会様式らしい。
仮面を付け、名前を聞かず、身分を気にせずに楽しもう!という生徒会からの申し出で決まったことだそうだ。
紬が生徒会に入っているので、提案したらしい。
顔隠して隅の方で男子の仲睦まじい姿を拝めるためとかなんとか……。
そのおかげで、顔は隠せるし、カイ・マーフィーさんには気づかれないだろうし……今回は紬の趣味に感謝しよう。
ありがとう!
そんなことを考えていると、グレンに手を差し出された。
ん?
「では……俺と踊ってくれますか? お嬢様」
……名前呼んだら駄目だからだろうけど、いつも通りお前って言っ下さい。
気持ち悪いから!
って……ダンス?
「あの……踊らないと駄目でしょうか?」
体力無いので遠慮したいんだけど……。
「おま……お嬢様。
最初のダンスはパートナーと、と決まっているのです」
「はあ……」
つまり、私と踊れないとソフィーを誘えないから困るってことか。
てかお前って言いかけたなこいつ。
「……わかりました」
そんな文句……心の中の言葉を飲み込んで、私は笑顔でグレンの手をとった。
曲に合わせて、ステップを踏んでいく。
体を使うゲームだと思えば、意外にいけるかも。
……こんな時でもゲームが出てくるのは仕方ないことだと思う。
だってダンスとかオタクに似合う単語じゃないし。
──ああ、そういえば、前世でもフォークダンスとかあったな。
文化祭の最終日の最後にそんな行事があった気がする。
まぁ、私はやりたくなくて保健室に逃げたから踊ってないけど。
「…………」
ふと、前世の記憶がフラッシュバックした。
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『体調悪いの? 大丈夫?』
『……大丈夫だけど。何でここに?』
『あ、じゃあ仮病か』
『仮病じゃない。
ダンスをすることによって精神にダメージくるから仮病じゃない』
『ものは言い様だな』
『……で、なんで』
『あー……。あ、空見てみろよ。星綺麗だぞー』
『はぐらかさないでくれる?』
『あはは。……だってさ』
『……』
『文化祭の最後に一人って、なんか寂しいじゃん』
『……は?』
『それだけ』
──そういえば、“あいつ”は寿命全うして生きれたのだろうか。
だと……良いな。
私が死んだ後のことを、私は知らない。
ただ……友達や、家族や、それなりの顔見知りには、幸せに生きてほしいと、そう思う。
……でも……。
「……ありがとう。お嬢様」
考え事をしている内にダンスは終わったらしい。
「いいえ。こちらこそ」
そう返した後、呟いた。
「どうぞソフィーさんのところへ行ってください」
グレンも小声で返す。
「ああ。……本当に、ありがとう」
グレンが向かっていった方向には、ソフィーがいた。
青ざめて訴えるような顔をしたソフィーに、苦笑いをしがら周りに気づかれない程度に手を振る。
そんな風にソフィーを……紬を見ていると、思うのだ。
……紬は、幸せに生きれたのかな?
恋愛する気はないと言っていた。
どこか諦めたように笑っていた。
私が死んだ後に、きっと何かあったんだと思う。
……今度こそ、聞いてみようか。
紬には、幸せになってほしいから。
そんなことを考えながら、グレンがソフィーに話しかけるのを遠くから眺めていると、人にぶつかられた。
「すみません!」
「い、いえ……」
って、この人……カイ・マーフィー!?
よくよく見ると……に、似ている。てか本人だよね……?
水色の少し癖毛入った髪の毛はカイ・マーフィーのトレンドマークみたいなものだし……。
すると、カイ・マーフィーは私をじっと見つめた後、何かに気づいたように尋ねた。
「……貴女、どこかでお会いしたことありますか?」
その瞬間、背筋が凍りそうになった。
こ、このままじゃバレる!!
どうにか騙さないと……こういう時は……。
モブらしかぬ言動をとれば良いのでは?
……説明しよう。人は、テンパると変なことをしてしまうのである。
この時の私は気づかなかったけど。
私は意を決して、口元に笑みを浮かべた。
「……さあ、どうでしょう」
「……名前をお尋ねしても?」
「あら。それはタブーではありませんか?
それに……女性は、秘密があるからこそ、美しいものですよ」
「……」
多分!
なんかの漫画か小説でそんなこと書いてた気がする。
「では……これで」
そう言い残し、出来る限り堂々と見えるように去っていった。
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……あ、危なかった!!
人目をつかない場所を探し、バルコニーに出たところで一息つく。
「……でも、少し様子が変だったような……?」
カイ・マーフィーはチャラ男属性。
そのわりには、なんだかいつもより無言だった気がする。
……変なの。
まあ、私だとバレてないならどうでも良っか。
そんなことを考えていると、足音が聞こえた。
振り向くと、そこには────。
「アイラ嬢……?」
攻略者の、ルイス・ウィルソンが立っていた。
遅くなりましたが、ダンスパーティー始まりました!
次回は王子様属性登場です!