ダンスパーティーのパートナー
よろしくお願いします!
「俺と、文化祭のダンスパーティーに参加してくれ」
そう言われて、更に私はグレンを睨んだ。
「だから、なんで私なんですか」
「……て」
「はい?」
「俺だって……誘ったんだ! ソフィー嬢を!」
泣きそうになりながら言うグレンを見て、予想がついた。
断られたんだろうな……。
でも、じゃあなぜ。
「断られたのはわかりましたけど、それでなんで私を誘う必要があるんですか?」
「それはっ……って、待て。
なんで断られたってわかるんだ?」
「それは……見てたら……はい」
「ぐっ。
……ま、まぁそうだがな!?」
「ですよね」
「…………。
ま、まぁ良い。
そこからが問題なんだ」
「問題?」
「ソフィー嬢は……ルイス・ウィルソンと参加するらしい」
死にそうになりながらそういうグレンを見て、なるほど、と思う。
「だから私を誘うんですか?
ウィルソンさんを見張るついでにソフィーさんのドレス姿を見るために?」
「……だ、だいたい合ってる」
「……」
「その軽蔑の目はやめてくれ……」
「では試しに他のご令嬢に言ってみて下さい。
罵られてもおかしくありませんよ」
「……それはそうだろうが……。
だがお前、俺に興味無いだろ」
……え。
これ、どう答えるのが正解なんだろう?
モブだったら取り巻きとかになってるのが普通?
だったら興味あるって言った方が良い……?
「ありますよ」
意を決してそう言うと、グレンは真顔で返した。
「今更取り繕わなくて良いぞ。
見てればわかるし」
「……」
……なんかごめんなさい。
「つまり、お前が俺に興味を持つことは無いし、俺はソフィー嬢が好きだ。
だから、パーティーに参加するならお前とが良いと思って」
「他のご令嬢を誘って好かれると困るからってことですよねそれ。
私、利用されてるだけじゃないですか」
「否定はしない」
「してください」
こいつは……。
「それに、お前だってソフィー嬢のことが心配だろ?」
「それは……そうですけど」
「なら」
「でも駄目です」
グレンは意味がわからないといった顔をしながらこう言った。
「なぜだ?」
そう、駄目なのだ。
だって……私は。
「カイ・マーフィーさんのお誘いをその……断ってしまったので」
「……あー。まぁお前なら断るだろうな」
「え?」
「男に興味無さそうというか、ダンスパーティー自体に興味無さそうというか」
「否定出来ませんけど失礼すぎません?」
あれ? グレンの中での私のイメージが前世寄りだ。
不味いかもしれない。
……本当に否定出来ないけど。
「でもじゃあ……俺と行くのは別に良いってことで良いんだな?」
「え、はい」
「なら大丈夫だ。参加しよう」
「……はい? 話聞いてました?」
「ああ。なんとかなるから心配するな」
「……?」
よくわからないまま、私はグレンとダンスパーティーへの参加が決まってしまった。
───────────────────────
そして、グレンから呼び出された日の翌日。
私はいつも通り、昼休みに紬ことソフィーとお昼を食べていた。
ダンスパーティーについて質問をしながら。
「紬。
ダンスパーティ、ウィルソンさんと参加するんだって……?」
正直、ダンスパーティーに参加したくない。
しないよ!と言われることを期待しながら質問すると、紬は秒で期待を裏切った。
「え? うん。そうだけど」
……マジですかー。
グレンが言ってたことは本当だったんだ。
ということは、やっぱり私はグレンとパーティーに参加しないといけない?
休日だと思ってたのに……お菓子食べて、本読んでって……楽しむ気満々だったのに……?
さようなら、私のエンジョイタイム。
心の中で嘆いていると、紬が不思議そうな顔をする。
「でもそれ、私、千夜に言ってないよね?
誰から聞いたの?」
「……ウォードさんから」
苦笑いしながらそう言うと、紬はあー……と呟きながら、そうなった経緯を話してくれた。
なんでも、グレンに文化祭のダンスパーティーに誘われて、断ったのだそうだ。
だがグレンはそこからなんでダメなんだっ!?と言い、紬は、勢いで違う人に誘われていると言ってしまった。
で、グレンは誰と一緒に行くんだ!?と更に聞いてきて、紬は嘘をついているわけだからどうしようかと焦っているのを、たまたま見ていたのであろうルイス・ウィルソンが機転をきかして……つまりは、彼女は僕と参加するんですよ的なことを言い、話は終わったらしい。
本当に、有りがちな展開だと思う。
ていうかグレン、本当にいつか嫌われるって。
なんでそんなド直球に迫るんだ……。
そして紬もなんで他の人と行くなんていうヒロイン的な断り方するの?
そんなことを思った。
二人には言わないけどね。
ちなみに、ルイス・ウィルソンも、攻略対象の一人……定番の王子様属性である。
優しい。成績が良い。品行方正。
歪んだ性格でも無く、正に完璧。
善良な人間の鏡。
本当に、物語に出てくる王子様みたいな性格をしている。
でも、そんなルイス・ウィルソンのルートは面倒で、彼の性格上、好感度は下がらないのだが、中々上がりもしないのだ。
誰に対しても良い所を見つけて優しく接することが出来るからこそ、一人の人を好きになることが難しいのだろう。
(※全部設定と自分の解釈です)
だから、自分を助けたのも彼の性格故だと紬は言っていた。
これには私も賛成だ。
でもこのパーティーがきっかけで紬のことを気になるとかはありそうだなとは思う。
でも、それも紬は否定した。
そして、笑ってこう言ったのだ。
「そんなことあり得ないって。
あの人は他に好きな人いるから。
本気で誰かのことを好きでいる人って、見てたらなんとなくわかるもんだよ」
その時の私は、その言葉を不思議に思っていただけだった。
紬の隠された気持ちに気づかずに。
グレンはまだ話を勝手に進めるような俺様気質は残っているようです。
主人公は完全にツッコミ役になってますね(笑)