私はモブなので
連載始めました!
よろしくお願いしますm(__)m
昼休み。
私は、授業が終わるとランチボックスを持ち、目立たないようにそっと教室を出ていき、要注意人物達がいないか確認しながら中庭へ向かう。
すると、いつものようにベンチに女の子が座っているのが見えた。
その女の子はこちらに気づいて、笑顔を向ける。
私も少し笑って手をふって、その子が座っているベンチに近づき、隣に腰かけた。
少し苦笑いをしながら、話しかける。
「お待たせしてしまい申し訳ありません、ソフィーさん」
「私は大丈夫ですからお気になさらないで。アイラさん」
「……」
「……」
「……ていうか二人だけなんだし、このしゃべり方やめない?
寒気するんだけど」
「あ、そう? じゃあ、“昔”通りに話すよ」
「うん!」
寒気がすると言われたので、敬語を外すことにする。
そして、ランチボックスを開け、サンドイッチを取り出しながら、いつもと同じことをきいた。
「今日は“あの人達”と何かあった?」
「んー」
ソフィーは先に食べていたようで、もう食べ終わっている。
手だけを上にあげて体を伸ばしていた。
「別に何もー?
何も起きないように頑張ってるしね!」
「大変だね、主人公も。
お疲れ」
「本当にね。……なんでこんな目に」
げっそりとした顔でソフィーはそう言った。
……大変そう。
「そっちは何かあった?」
「まさか。私モブだし?
大人しく平和に生きてるよ」
「羨ましいっ……!」
「これは運だから……はは」
「どうしようも無いやつじゃん。
あ、そういえば私、昔もガチャ運悪かった……」
「それは私も……ていうかだいたいそうじゃない?
ゲームのガチャとかトレーディングキーホルダーとか、中々自分の推しは出ないっていう……」
「それな!?」
こんな会話は、二人だけの時にしか出来ない。
だって、ここにいる人達は“主人公”だとか“モブ”だとかの単語は意味不明だろうし、“ゲーム”とか“トレーディングキーホルダー”なんて言われてもわからないはずだから。
そう、今しているこの会話は、私、アイラと、友達のソフィーの、転生前の世界の話だ。
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私が自分が転生したと自覚したのは、生まれてすぐだった。
小さい頃から転生前の記憶があったから、あ、これが転生ってやつか、とすぐに気づいた。
そして、この世界がどこか……というのに気づいたのは、学園に入学した日。
学園の名前を見てどこかで見た記憶があるな……と予感はしていたのだが、学園の建物を見てやっと思い出した。
「……これ、乙女ゲームの世界だ」
乙女ゲーム。
当時流行っていたジャンルで、このゲームはその中の一つだった。
そのゲームの名は……『リアトリティ_』。
何の変哲も無いごく普通の乙女ゲームだ。
正直に言うと、在り来たりな設定や話を集めたようなゲームで、内容はあまり記憶に残るものでは無かったと思う。
……ただ、その代わりなのか、一個選択肢を間違えた瞬間にハッピーエンドでは無くなり、すぐにバットエンドになるようなゲームだった。
私はネットに載っている攻略方法などは読まずに自力でやりたい人間だったから、最後はもう精神的な面での格闘ゲームになっていた。
失敗するたび何十回と繰り返されるバットエンド。
最初は可哀想だな、とか、切ないな、とか思ったけど、何回も何回も見てると普通に苦痛だし、それが全キャラ分あるって……意味がわからない。
制作者はSですか?
……まぁ、そんな乙女ゲームに私は転生したわけだ。
主人公とか悪役令嬢ではなく、ゲーム内には一切出てこない、いわゆるモブキャラに。
そして、この世界は魔法とかは出てこない、普通に貴族の女の子が主人公で、学園で恋愛するという趣旨の恋愛メインのゲームだったため、「異世界に転生してチートで無双」とかは一切無い。
それは多分別ゲームに転生した人がやっているだろう。
まぁ何が言いたいかというと、この世界には魔法の概念も無いし、転生したところで特別なことは何も無い……転生前の現実とあまり変わらないということだ。
ちなみに良いところは、転生前の世界よりは勉強のレベルが低いのであまり勉強しなくてもそこそこの成績はとれるところと、西洋と東洋の良いとこどりしていて学園の建物は綺麗なところ、一応ゲームのキャラクターなため顔は普通に整っているところ、など。
普通に生きる分には快適な世界だと言って良いと思う。
……それは私が、“モブ”だから、だけど。
主人公……ソフィーも転生者だと気づいたのは、入学して一ヶ月くらい経った頃だった。
貴族らしく笑って敬語で対応するのにも疲れてきて、休める場所を求めて中庭を見つけた時だ。
そこには、ベンチに座っているソフィーがいた。
ゲームの主人公だ、と思った。
中庭のイベントなんてあったっけ……と不思議に思ったが、先客が居るなら仕方ないということで去ろうとすると、大きな声が聞こえたのだ。
「あーっ!! つっかれるっ!!」
…………え? 主人公ってこんなキャラだっけ?
「なんでよりによって主人公!?
無理! 最悪! やめたい元の世界に帰りたいゲームしたいーっ!!」
“主人公”、“元の世界”、“ゲーム”。
……その言葉を使うってことは──。
その時、転生前も含めて人生で一番と言って良いくらい鼓動が高鳴った。
近づいて行く。
青ざめているソフィーが慌てて何か言おうとしたのを遮って、声をかけた。
「……あなたも、転生者ですか?」
「……え?
“も”ってことは……あなたもですか?」
お互い固まり……数秒後、ソフィーが涙を流した。
それを見てわけがわからなくて焦ったが、ソフィーが泣きながらこう言い放った。
「た、助けてください……っ!」
「……は?」
そこから、私はソフィーから話を聞いた。
主に今までの苦労を。
冒頭で私が言っていた要注意人物……つまりは攻略対象達が迫ってくるのが、男子に免疫が無いせいで恐怖を感じるだとか。
周りの女子……悪役令嬢のセレリアさんの視線が怖いだとか。
悲惨だな……と思った。
特に女子からの棘のある視線は怖いだろう。
私は嫌いな人に何思われてもどうでも良い派だけど、主人公というだけで冷たい目で見られるのはさすがに嫌だ。
理不尽過ぎる。
主人公。
それだけで攻略対象達は好きになってしまうという魔法でもかかっているのか、というくらい、好意を寄せられるらしい。
ちなみに本人曰く何もしていないらしいが、主人公に転生する人間の「何もしてない」ほど信用出来ないものは無いと思うので、これから見極めていこうと思った。
まぁ、つまりソフィーは、攻略対象達の気持ちはゲームの強制力、というものだろうから信用出来ない、と思っているのだ。
あと、恋愛をする気は無いらしい。
ちなみに好意を寄せてこない攻略対象もいるから、そこは安心しているようだ。
……そして、何週間かソフィーと一緒に居て、あることが判明した。
ソフィーは私の転生前……天野千夜の友達、昼沢紬だったのだ。
それからは昔話が出来るようになり、攻略対象達への対策を考えたりしながら更に楽しく話が出来るようになった。
そして、私が千夜だと気づいた紬は、攻略対象達に好かれたく無い本当の理由を話してくれた。
……実は紬は…………腐女子なのだ。
男子同士の恋愛話を好む人間なのだ。
だから本当の理由というのは。
「あんなスペックもとい顔面偏差値高い男子同士の絡みとか目の保養じゃん?
そこに私がいたら邪魔だと思うんだよね!」
ということだそうで。
ナニソレ。
……ま、まぁまぁまぁまぁ?
不純な理由な気もするけど……うん。
友達だし、私は紬に協力している。
ただ、気になっていることはあって……。
紬が言った、“恋愛をする気は無い”という言葉。
でも紬は転生前では、付き合っている人がいた。
だから……些細なことかもしれないけど、気になってしまった。
私が死んだ後に、何かあった?
……でも、その話を私は、中々切り出せずにいる。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
ほぼほぼ主人公の回想で終わってしまった……!?Σ(゜Д゜)