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秋の桜子エッセイ

花は人の手により植えられ、魂魄は蝶になると聞く

作者: 秋の桜子

遥彼方様主催

『イラストから物語企画』参加作品

 秋のお彼岸の時期に、天に真っ直ぐ茎を伸ばし、花は篝火の様にシベを弾かせ、花弁の艷やかな赤。彼岸の中日に、合わせた様に花が咲くことから、和名「彼岸花」として、日本で親しまれている赤いお花ですね。ちなみに学名は、リコリス・ラジアータ。


 田んぼの畦にズラーと並ぶのは壮観です。美しい野の風景でございます。ところでこの花には毒があると、有名なせいか、死人花やら、しびれ花、触ればかぶれるぞと脅すような腐れ花、ざっと調べてみますと、1000を超すお名前を持つお花でございます。


 それもどれもこれも怖いの多し!タイトルひとつで何かしら書けそうなものばかり……、『嫁の簪』って!どんなの!陰険な姑の息の根を止めるために使うとか……、ひー!な名前がずらりとあります。


 摘んで家に持ち帰れば火事になるとも、私の地方では言われております。子供は触ったらあかん!と脅されている様な別名がたくさんの彼岸花。


 しかし食べ物に困らない現代日本で、すっかり秋の風物詩となったこの赤い花は、帰化植物です。原産は中国なのです。日本古来からの植物ではありません。どうやって日本に来たか、人の手によって運ばれたか、荷物の中に紛れ込んでいたのか、はたまた漂流したのか……、そのあたりは謎なのですが、存在は現時点では室町以後となっております。


 万葉集や枕草子やら、源氏物語、今昔物語の頃には姿を出してませんね。私ならきっとこの花を見て何かしら物語書く妖しさがあるのに、有名処の作家さんや、歌人さん達が書かれてないところを拝読すると、存在してなかったのでしょう。


 しかも日本の彼岸花は種はつけませんから、球根でしか増えて行きません。そして……、人の手が入らぬ山奥深くには咲いておりません。自然豊かで野生動物が闊歩する山の中に嫁に来たら、彼岸花って、ちょろーとしかないのですよ!


 なぜかというと植えられてないのです。我が家の辺りは昔は牛、馬の為に田畑の畦草を刈って餌にしていたからです。彼岸花を植えたら、一大事です。


 篝火の様なこの花は、里花です。過去に人の手により、コツコツ植えられ育てられたお花なのでございます。ええ!毒があるのに!そうです。毒があるからこそ、植えられたのです。


 葉も茎も花もポキンと手折ったら、じっとり濡れる様な透明な液体にも、球根にも含まれております。中でも球根にはたんまりと有るそうで、これをすりおろし糊に混ぜて、襖や屏風の糊と合わせれば、虫が来ないとか、薬効成分があるので、湿布等の消炎剤に使われたとか諸説があります。


 田んぼの畦もそうだけど、お墓にもズラーとあるよ!


 おお!そうです!モグラやネズミ避けに植えられたのです。田んぼの畦は穴を空けられない様に、水がジャジャ漏れだと大変な事になります。


 畑もそうですね、野ねずみが入り込み作物を食べぬ様に、野ねずみって穴掘ってチューリップやら百合の球根食べるのですよ。じゃがいもやさつま芋もガリガリと……。


 そして墓地。昔は土葬でしたからね、土葬でしたのよ。そういう事です。死人を荒らされぬ様に植えられたのです。


 しかも彼岸花には、桜の木と同じ成分が有りますので、余分な雑草が生えにくくなるのです。桜の木の下って草茫々にならないのです。植物フェロモンの一種を放ってるからです。だからその下には穴が掘りやすく、なにかと曰く有りげな物語のネタが、埋められ易いのですねぇ。


 実は黄色や白い花咲く水仙も、その効果があるのですが、水仙は人も食べられません。ここがポイント。昔人里に植えられ増やされた彼岸花は、実は食用になるのですね。




挿絵(By みてみん)

 ©︎遥彼方様 




 赤い彼岸花は、飢饉の為に植えられていた救済植物なのです。球根に含まれるアルカロイド成分は水溶性。なのですりおろし、手間暇をかけて幾度も幾度も水に晒し繰り返し、天日に晒してま白な粉にし、デンプンを取り出す事で、食べ物に変わったのです。真似はしてはいけません。有毒植物です。


 でもこれを食すのは最後の砦。大切な米を育てる、田んぼの畦を掘り返してしまうのですから、そして毒抜きをするのですから……。


 彼岸に咲くから彼岸花と言われますが、それを食べねばあの世に逝く、彼岸とはあの世とこの世を繋ぐ道の名とも聞いたことがあります。


 赤い彼岸花の花言葉は、


 情熱・独立・再会・あきらめ・悲しい思い出・転生・ あなた一人を想う。


 別名である曼珠沙華は、サンスクリット語で、天界に咲きお釈迦様が降りられる降臨の時には、蓮と共にハラヒラ舞うとも……。そして。



 お隣韓国ではガラリと変わり「想思華サンシチョ」という名前があるそうです。


「想い思う花」 これは、葉がある時は花が咲かず、花が咲くときには葉が無い。その姿を現しているとか。


 緑の葉は赤い花を想い、赤の花は緑の葉を恋しく思う。お互い側で見ることは決してないけど、愛しく想っている。なんともお国が違えば、ロマンティックになるのでしょうか。



 小さい時に聞いた事がある。家の中にフラリと戯れに入ってくる蝶は、追いかけてはいけない。


 そろりと逃してやる様に、


 それはこの家に縁のある魂魄が、蝶に姿を借りて帰ってきてるからと、


 おかえりなさいと声をかけなさいと。


 日本の秋空を見上げる様に、背を伸ばし(かんばせ)を向けて咲く彼岸花は、天に逝った愛しい人から見える様に鮮やかな色をしているのか。


 私は大丈夫と言う様に凛と立ち、咲き誇っている。


 真紅の色は心に焼きつき思い出に残る。妖しさと美しさと強さ秘めている様に私は思うのです。




挿絵(By みてみん)

 ©︎遥彼方様




お読み頂きありがとうございました。当地にその昔飢饉はなかったのか、聞いた話がないのですよー。文献にもなし、おそらくたたら場があったせいかと思います(^o^)/

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「彼岸に咲くから彼岸花と言われますが、それを食べねばあの世に逝く」の文章に、背筋がヒヤッとしました。飢饉は食べるものが無いのだから、危険を伴ってでも苦心して食べたのでしょうね。漫画「黒執事…
[良い点] 勉強になりました。 食い意地が張っている私が一番食いついたのは食べられるってところですね。 私が彼岸花をよく見るのはお墓の近く、そのせいで彼岸花を見かけると近くに墓があるのかと条件反…
[一言] 大変勉強になりました(`・ω・´)ゞ 近場に曼珠沙華が少ないなと思ったら、そういうことだったのですね。
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