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異世界転生で期待したのに乙女ゲーじゃなかった件

異世界転生したら、乙女ゲーな世界を期待するよね?

違ってたんですよーー・・・  @短編その56

ちょっと追加。8/13

死んだーーーー・・・



痛いと言う間も無く、私は死んだ。



と思ったら、痛くなかった。

あれ?さっき、トラックが後ろから突っ込んできて、自転車もろとも吹っ飛んだ筈だよね?


でも、なにこれ。

目の前には・・・天蓋ってやつ?西洋のいいとこのお嬢様が寝るベッドについてる、屋根っぽいやつ。

それが見えるよ?

病院じゃない・・・

そして、私の部屋でもない。こんなベッドじゃないもん。

妹と使ってる二段ベッド、しかも2階だからね。馴染みの天井でもない。


・・・・・。

おやぁあ?

これって・・・もしや!

よくあるノベルとか、ゲームとかで・・・知ってるわよ。

異世界転生、でしょでしょ?

はぁーーー!!やったぁ!

死んでお終いにはならなかった!!やったーーー!!


で、私の知っているノベルやゲームの設定でお願いします!

悪役令嬢でもいいです!頑張って回避しますから!!

さあ、文字は読めるか?読めないと、結構大変だから!!


本棚の本、背表紙を見る・・・読めたぁ!!やったーーー!!

で、で!

私の顔は?誰の顔かな?

鏡を覗くと、可愛い顔がこちらを見ている。

やだ、かわいぃーーー。まるでアメジストのような光沢ーー。艶々ヘアーーー。

さて、こんな顔のキャラ、いたかしら。

思い出せ、私ーーー!!


鏡に映る顔をじっと見つめ、脳内にある記憶のページをぱらぱらと捲る・・・


知らん顔だ、知らんキャラだ。

ゲームやノベルの世界ではなさそうだ・・・ただ普通に転生しただけかもしれない。

格好は金持ちっぽい。貴族かは分からないけどね。

困ったわね。

私、自分の名前、わかんないわ。年齢も。

見た感じ、15歳から18歳くらいかな?

私のプロフィール、何処かに無いかしら。とりあえず、目の前にある机の引き出しを漁ってみた。


あら、日記帳。真面目さんかな?

しおりが挟んであるページを開いてみて、仰天した!


『死ね死ね死ね死ね・・・・アルサモア、死ね死ね・・・

消えろ消えろ消えろ消えろ・・・キュレオ、消えろ消えろ・・・

もう誰も信じない。もういやだ。消えてしまいたい。

誰も私を愛さない。どうして私だけが苦しまなくてはいけないの。

この世から消えて無くなってしまいたい。

いや、どうして私が消えなくてはいけないの。

私は何も悪いことなどしていない。

どうして、していない罪を認めなくてはいけないの。

私はやっていない。濡れ衣だ。

明日、使者が迎えに来る。逃げなければ殺される。

いや、わざと逃がして、追って来て殺す気だ。

このまま家にいた方がいいけど、家族・・・あんな人達、家族なものですか。

私を見殺しにする気だ。

そうしないと家が大変な事になる。罪をきせられてしまう。

メイドのエレン、乳母のケリー。この二人だけでも助けたい。

私と一緒に来ると言う。

来なくていいのに。巻き添えになってしまう。

・・大人しく死ねば、二人は助かる。

このふたりだけが、私の家族だから』


恐っ!字面も怖けりゃ内容も怖い。ガリガリと削るような筆跡なんだよ。

なんてことだ・・・

明日、いやあと数時間で、夜明けだ。今は夜中の2時。全く地理が分からない私では、逃げてもすぐ見つかる。

そして有無を言わさずに殺されるわけね。

全く、酷い娘の所に転生しちゃった・・・

事故で死んで、すぐ死ぬのか・・・

えっと・・日記に名が書いてある。ご丁寧に誕生日と年齢も書いてあった。


カッシーネ・ランドルフ伯爵令嬢、だってさ。歳は16歳。

日記ってのは、本当のことを書いてあるのかは分からないもんです。

うそ日記といって、悪口や嘘の内容を書いてストレス発散する人もいるから、まるっと内容を信じてはいけない。勿論、本当の事を書いている当たり前な日記が圧倒的に多いけど、この日記は信じてもいいだろうか?


さあ、どうにかしないと。

これが本当の事、いや半分は本当だったとして、『使者が迎えに来る』この文が本当の事だとしたら・・・

逃げる一択。

でもどうやって?

外を見ると、バルコニーから景色が一望出来る。今は夜中、月明かりのおかげで辺りも少しは見渡せる。

スカート・・・ドレスでは絶対に逃げられない。よし、男装をしよう。

動きやすいように、ズボンを手に入れなくては。

使用人のズボンと上着、そして靴。帽子もいる。

この体・・・胸が大きい。さらしか何か布で固定しなければ。男装するのに困るもんね。

カツラもあればいい・・・

あれ?机にチラシが乗っている。なになに・・・サーカス団・・・


「よし、行こう。どうせ殺されるなら、冒険して見るのも手だよね」


そっと廊下を見渡すが、誰もいない。もしも私を逃さないようにするなら、警備くらいしそうなものだけど。

あの日記はストレス発散するだけの代物のウソ日記?

とにかく、逃げる事に専念しよう。

着ているネグリジェを裂いて、胸に巻いた。そして、きれいな髪も切った。

切った髪は、ぼろぼろのネグリジェで包み、外に出てから捨てる事にした。

おっと。サーカス団のチラシなんか置いてたら、手掛かりにされてしまう。

ネグリジェに一緒に包んで捨てるのがいいね。なんか私、冴えてない?


私は廊下を出て、階段を降り・・・勘で右側の通路に進んだ。

そこには水場があって、洗濯物が山積みされていた。

室内は月明かりでよく見えるので、履けそうなズボンと上着と靴下を見つけるのが容易かった。

洗濯前の服だから、臭いが仕方がない。臭うしべたっとしている衣服を頑張って身に付けた。

小汚い靴もあったので、それを履く。

バンダナサイズの布もあったので、頭に巻いて、水場の扉を開けて外に出た。

少し歩いた所の草むらに、ネグリジェの包みを投げ捨て、先を行く。


暗いけど月明かりが明るいので、足元もほぼほぼ見えるから歩きやすい。

この世界はやはり盗賊とか、野犬とか出るのかしら・・・

遠くで遠吠えが聞こえて、ちょっとビクッとしてしまう。

ああ、怖いなぁ・・・もしも殺されるなら、気付かないうちにさくっと殺して欲しいな。



などと思っているうちに、街の広場まで辿り着いた。

時間が経つと、私の魂と元の彼女の魂が融合?したのか、彼女の記憶も頭に入って来た。


あの日記は・・・どうやら本当のようだ。

だけど彼女はすでに気が狂いだしていて、思い込んで頑なに信じている部分もあるようだ。

どこが本当で、どこが嘘か。

私は彼女の日記を持ち出した。これからじっくりと中を読んで、頭の中の記憶と照らし合わせていかなくては。



さて、サーカス団のテントまで来たけど・・どうしよう。

雇って欲しいけど、サーカス向けの特技は無いし・・困ったな・・

ああ、眠い・・ちょっと気が緩んできたのか、眠気が襲う。

ちょっとだけ寝よう・・ちょっとだけ・・・


サーカステントをめくって中に入り、物陰に隠れて眠った。




がた、がたがた・・


物音で慌てて目を覚ますと、ランプの明かりがテント内を照らしている。

団員であろう声が聞こえた。


「さあ、荷物をまとめるぞ」

「夜明けにはここを出ないと、次の街までに着かないからな」

「テントは一番最後に畳むんだぞ」

「はーい」


サーカス団の団員達が、手分けをして荷造りし始めたようだ。

そっと抜け出し、外で見守る事にした。あの馬車のどこかに身を隠し、ここから逃げ出せればいいんだけど・・

二人の男がクローゼットを荷馬車に乗せている。よし、あの中に隠れよう。

そっと、そーっと・・・

荷馬車に乗り込み、クローゼットの扉を開け、身を潜めた。

がた、がたんと音がする。どんどん荷物を詰め込んでいるのだろう。

そうだ、次の街に行くって言っていた・・・そこまで行ったら、なんとかなるはず。

なんたって、私は異世界ではただの平民?だもんね!

ちょっと金目の物や、小銭も持って来たし、お金に苦労はしないはず。

・・やっぱり物陰で丸まって寝たから疲れてる。もう少し寝よう・・・




がたがたと音と振動に気付き、荷馬車が走りだしたのだと分かった。

「次の街は程々大きな街だった・・」

元の彼女の記憶では、きれいな街並みを覚えていた。

何か仕事を見つけて・・・と、ぼんやりと考えていたら、突然ガタンと音がして、クローゼットの扉が開いた。


「お前・・何をしている」


真っ暗だったのが、いきなりドアが開いて眩しい光が差し込んで、私の目は眩んだ。

声の主の顔も、影に見えた。


「す、すみません、隣の街まで行きたくて・・運賃を払います」

「ばれなかったら、無賃で逃げる気だったんだな」

「まあ・・はい」


ようやく目が慣れ、目の前の男の顔が分かる。

おやおや、イケメンですねー。まあ、怒っているけど。そりゃ怒るわな、あはは。


「・・・すみません。あのー・・」

「・・・さっさと降りろ。警備兵に突き出すのは勘弁してやる」


ぎゃー、それ困る!!あ、そうだ!!


「や、雇ってもらえませんか!読み書き、暗算も出来ます!」

「・・・2311+3945+8788+9021+5943+3339+5022+1733+6467は?」

「46569です!」

「・・・62344×987は?」

「はい!61533528、です!」


私は暗算検定が3段なのだ。自慢ですよ。フラッシュ暗算も得意なんです。


「セブライ王国語は出来るか?あと、アライヤ公語は?」

「出来ます」


前の彼女、お勉強はみっちりしていて助かったわ。


「ふん、まあ雇ってやろう。帳簿を頼むかな」

「お任せください!」


こうしてなんとか雇ってもらえて、私ラッキー!


今私と話をしていたのが、サーカス団の団長の息子でレクシーさん。

ここでの私の名は、偽名?・・元の私の名前真衣子から取って、マイコォにした。



計算したり、広告の文を作ったり、手紙の翻訳をしたりと意外に重宝されている。


休憩時間や休日に、例の日記を読んで考える。

普通のウソ日記は、現状が辛くて厳しいとき、空想の幸せ世界を書くのがセオリーなんだけど、この日記は不幸な状態を書き綴っているようだ。

多分、誰かに読んで欲しくて、SOSを発信しているのかもしれない。

言いたいけど言えない、それか聞いてもらえない?


でも日記に書くだけで、分かってもらえるわけはない。


つまり。

死んだ後、自分が苦しい立場だった事を知ってもらうため・・つまりは遺書であり、告発書なのか?


私はその結論に、背中がゾワッとした。


前の彼女は、死ぬ事前提で書いたのだ。

錯乱状態まで追い込まれた、彼女の日記。


もしかして私がこの世界に呼ばれたのは・・・彼女の無念を晴らすため?

そうなの?

まだ状況が分からない。勝手な憶測かもしれない。

アルサモアとキュレオという人物が、どんな人なのかも分かっていないのだ。

なんとかして調べなければ。カッシーネの無念・・死んでいないけど、彼女の魂はこの肉体の奥底に沈んでしまったのだ。やはり死んだ事になるかな。あたしが殺した事になるのかな。

でも、もう悩まなくてもいい。安らかに眠るといい。ずっと辛かっただろうから。



日記は16歳の誕生日から書かれていて、後3ヶ月で17歳だったのに。

誕生日から9ヶ月間に起こった出来事が綴られてあった。


16歳になりたて、日記の最初の方は、幸せいっぱいな少女の日々が綴られていて、こっちまで幸せな気分になった。婚約者のアルサモアの愛情を噛み締めているのが、本当に微笑ましい。


だが、3ヶ月ごろからアルサモアとキュレオ、二人の事が綴られるようになり、二人を良くない感情で見ているのが分かった。二人の仲を怪しんでいるようだ。キュレオは女の子で、彼女より一つ下だそうだ。

自分より明るく可愛らしい仕草のキュレオとアルサモアがどんどん心惹かれていくのを、彼女は苦しみつつ見守っていた。なぜ文句の一つも言わないかと言えば、『それはレディとしてはしたない、逆に婚約者に不快な思いをさせる、婚約者が周りから悪い印象を持たれないか心配』と、堪えているのが分かる。


半年ぐらいから、婚約者は堂々とキュレオと出歩くようになって、エスコートも彼女ではなくキュレオを引き連れて行くようになっていた。流石にそれはあんまりだと言えば、『見苦しい。私はそんな浅はかな男ではない』と、一蹴されてしまったのだ。そして、カッシーネはどんどん病んでいく。

日記の文章も、『辛い』『悲しい』『苦しい』『泣いてばかりだ』・・・あまりにも哀れで、私はついもらい泣きしてしまった。


その後ここ3ヶ月、彼女はすっかり気を病んで、外にも出ない日々を過ごしていた。

婚約者は見舞いにも来ないばかりか、手紙すら送ってこない。


そして・・私と入れ替わる当日。

『死ね・・・・』のページを書いたわけだ。


でもしていない罪ってなんだろう?日記にはそれらしい流れは書かれていなかった。

そして殺されるという内容も。

どうして無罪なのに罪をきせられて、殺されるのか。


予測だが・・日記は夜に書くことが多い。多分、寝る前に書くのではないか。

彼女は私と入れ替わる当日に、何かを聞いたのだ。

多分、家族が話をしているのを聞いてしまったのだろう。

その内容は彼女を混乱させ、悩ませて苦しめたのだ。

だから、気が狂ったような書き殴りな文になった。


婚約者とキュレオに嵌められて、何かの罪を着せられたに違いない。

家族はその事を相談していて、彼女の犠牲をもって、伯爵家の存続を決めたのだろう。

翌朝、使者が来たら娘を引き渡す話をしていたのだろう。


ああ、可哀想に・・・

この罪を、婚約者とキュレオに絶対に償わせてやる。カッシーネ、仇うちをしてあげるわね。


『お願い・・』


弱々しい声が聞こえた、気がした。

カッシーネ、生きてるの?死んではいなかったんだ!


『疲れたの・・今は・・この闇に身を委ねていたい・・・』


うん!分かったわ。ゆっくりと心を癒すといいわ。守ってあげるからね。

私は強い決意でひとり頷いた。



ようやくサーカス団は講演地である大都市に着き、テントの設営を始めた。

キメラやオーガも飼い慣らされ、戯けた仕草で街の通りで宣伝する。


「さあ、ジェラルドサーカス団、明後日から公演開始だよーー!!チケットは大人銅貨5枚、子供は2枚だ!」


イケメンのレクシーさんが、イケボの大声でアナウンス。

可愛い妖精の服を着たデリラが、道行く人にチラシを渡している。私も参加してチラシ配りだ。

ポスターを貼っていいと許可された掲示板に、シグロさんが貼りに行くので、そっちを手伝えと言われてついて行く。

いよいよサーカスが始まるよ〜〜!


私が家を抜け出して、1ヶ月が過ぎた。

さあて、ポスターを貼ろう・・・あ!

『この顔を見たものは警護団へ連絡を カッシーネ・ランドルフ伯爵令嬢(16)』

私の指名手配ポスターが貼られてあった。

犯罪者か!

でも今は、髪も切って男の格好をしているからね。

最近はウィグも被って金髪にしている。言葉使いも、男の子っぽく話しているし!

まあバレることはないでしょう!・・・ドキドキ。



そしてサーカスが始まった!

チケットの売り上げの計算や管理は、私が請け負った。

うわー、お客さんがたくさん来た!!

キメラのキーちゃん、オーガのオーちゃんが張り切って技を魅せます!

荒技のジャンプも、ぴょーーーん!そして回転もぐるんぐるんです!

この世界は魔法も使えるけど、サーカスの技で魔法はほとんど使わないのがプロ。

生身で技を繰り出すから、みんなが驚き、歓声を上げるのだ。


オーガのオーちゃんは、体重が200キロを超えているはずなのに、ホリードさん持ち上げたよ!

これには、お客さんも大歓声だ!!



あっという間の1時間半、お客さんも退場してテント内ではお片付け、私もホウキを持ってお掃除のお手伝いだ。

うふふ、楽しいなぁ。

この街では5日間公演をする事になっている。

みんなは飲み屋に出かけて行ったが、私はテントに残った。オーちゃんとキーちゃんが側にいてくれるから安心!

売上金があるからね。

それに、すぐに盗られないように何か仕掛けをしてあるらしい。

さすがレクシーさんです!



「おい、いないようだぞ」

「これはチャンスだな」


あ。売り上げ泥棒さんが来ました。一応言ってあげるか。


「すみませーーん!泥棒さーーん!勝手にテント内に入ると、オーガとキメラが襲いますよ!!」


私はサーカステントの中央にある見張り台から下を見下ろして、忠告します。


「なんだ、女か・・」

「金庫はどこにあるんだ。教えてくれないと、いじめるぞ」


ニヤニヤ笑っています。・・・後ろに気付いていませんね・・・


「オーちゃん、キーちゃん、やっておしまい」


ぎゃあああおおお・・・

雄叫びを上げ、キーちゃんが飛びかかり、オーちゃんが腕を振るいます。

泥棒さん、気絶してしまいました。だから言ったのにーー。

良く慣れているので、殺すほどのことはしません。手加減が分かる良い子達です。



団員さん達が帰って来て、泥棒さんを警護団に引き渡しました。

オーちゃんキーちゃんお手柄です!


「坊主、お手柄だな!」


警護団のお兄さんが褒めてくれましたよ!やった!

レクシーさんやみんなも、よかったよかったと言っています。

楽しいなぁ・・・

このまま敵討ちなんて、馬鹿馬鹿しい事に首を突っ込まないで逃げて良いんじゃないかな・・

そんな薄情な事も思っちゃいます。



公演も終了、片付けは夜明け前。今夜は早く休んでおけと、レクシーさんが団員に指示しました。

次の公演は、セブライ王国です。超大国です!お客さんもいっぱいくると、みんな期待でいっぱいです!



途中の村で、食料や水を補充するために立ち寄ると・・掲示板に、私の指名手配ポスターが貼られてあった。

こんな田舎の村にまで・・・

なんで探すのだろう。殺さなくてはいけない事を、知ってしまったのだろうか?

肝心なことが書かれていないから・・・



移動中の暇な時間に、私は日記を久しぶりに読み返してみた。


もう正常でない頭で書かれた日記。

もしかして、殺されると思い込んだのではないか?


『していない罪を認めなくてはいけないの。

私はやっていない。濡れ衣だ』


ああ、もどかしい。

親が信用できないというのも、日記ではこの日しか出てこない。

『いつもお母様はやさしく』とか、『お父様に心配かけて』とか、『兄上はいつも私を思って』とか。

家族に対して信用出来ないと書かれていないのに、なにがあったのだろう。

多分家族の話を聞いてしまって、それを勘違いしているのでは?

いったいどんな話だったのだろ、う・・・?


あれ、目が回る・・・・




居間のソファに誰かが腰掛け、話をしているのが見えた。


「王子様と婚約を続けたくないと言っているぞ」

「確かに、王子様は最近娘に対して・・・可哀想に」


ああ、父親と母親ね、きっと。優しそうに見えるけど?


「明日、使者がやってくるそうだ」

「何をいう気でしょう、今更」

「まさか、婚約を解消と、向こうが言ってくるのでは?」

「・・・そうかもしれない。全く、身勝手にも程がある」


左の椅子には、兄上が座っていて、怒りを顕にしている。


「あんなに元気だったあの子が部屋にこもって・・死んでしまえば良いのよ、王子など」

「滅多な事を言うものではない。聞かれたら困る」

「なんでカッシーネを呼び出すんだろう?うちにきて謝罪が先だろうに!」

「あの平民上がりの娘を側に置いて、私の可愛いカッシーネを疎かにするなんて・・・」


母親は泣き出してしまいました。


「王が決めた婚約だというのに・・・本当に、殺されれば良いのだ。そして死んでカッシーネに懺悔すれば良い」



おや?別に変な会話ではないよ?

家族はカッシーネの境遇に腹を立てて、怒っているだけ。ちゃんと愛されている。


カッシーネはどうして変な勘違いをしたんだろう・・


突然、ざ、ざざざと雑音がして・・・


再び家族が話している場面にリプレイ。



「王子様と婚約・・・・・・・いと言って・・・」

「確かに、王子様は最近娘に対し・・・・・」


聞き取りにくい。なんか、声が小さいから・・・途切れ途切れに聞こえる。


「明日、使者がや・・くるそ・だ」

「何をいう気で・・・・・」

「まさか、婚約を解消と、・・・・・・・では?」

「・・・そうかも・・ない。全く、身勝手に・・・る」

「あん・・・・だったあの・・・部屋・・・・・死んで・・ば良いのよ・・・・」

「・・・事を言う・・・聞かれたら困る」

「・・・カッシーネを呼び出す・・・・・・罪・・・だろうに!」

「あの平民上がりの・・側に置い・・・可愛いカッシーネ・・・にする・・て・・・」

「王が・・・・だというのに・・・・・殺されれば良いのだ。・・死んでカッシーネ・・・・」


うぎょ!!

こ、これは・・勘違いするね、うん。カッシーネが聞いたのは、この雑音入りの会話なのね。


カッシーネはすでにまともな頭でなかったのだ、こんな途切れ途切れの内容では、勘違いもするだろう。

可哀想なカッシーネ。

馬鹿な王子とクソなキュレオのせいで、すっかりおかしくなってしまって・・・

でも家族を信じられなくなったのは、誤解だった。

ねえ、心の中にいる?カッシーネ。家族は皆あなたを愛していて、すごく心配しているわよ

あなたが家出をしたから、心配しているに違いないわ。


私が体に入った所為で、貴方はいなくなってしまった。

本当にごめんなさい・・・


許してあげられるなら、私の手を動かしてみて。


・・・・・・・あ。

人差し指が、ピクンと動いて少し持ち上がった。

よかったね。

ねえ、カッシーネ。

私はもう死んだ身だから・・・いつかあなたは、あなたの体に戻るべきよ。

あなたの心が癒えたら、私と替わりましょうね。

あなたは幸せになるべき、ね?


また人差し指が、ピクンと動いた。




目的地セブライ王国に、1ヶ月旅をしてようやく到着した。

なんと騎士団の練習場にサーカステントを張らせてくれるそうだ。


「囲いがあるから、こちらも警備がしやすいからな」

「よろしくお願いします」


レクシーさんは。騎士団団長と警護団団長に握手を交わします。

早速ポスターの貼り付け許可を得て、またシグロさんと二人で貼りに出かけた。


ああ、あるわー。私の指名手配ポスター。

でも陰気な表情ねぇ・・やり直しを希望する!!



「よう、マイコォ。なんか食いに行くか」


レクシーさんが誘ってくれたので、早速引っ付いて行きます!!

王城側の城下町は、飲食店がずらっと並んでいてグルメ街道とも呼ばれているのです。

美味しそうな匂いがして、わーー!

ここには10日間も滞在させてもらえるので、ガンガン稼ぐぞ!とレクシーさん達は息を巻いています。

前の彼女が憧れだった、セブライの城下町。どう?楽しんでる?

私はそっと、心の中にいる彼女に問いかけました。


ぴこん、と人差し指が動きました。うふふ、よかった!



次の日は、テントの設営と、空いた人はチラシ配りです。

私はお金の計算と帳簿の仕事で、騎士団の建物の一部屋を借りて作業中。

チラシやパンフレットのガリ版も、私の仕事です。

がしゃんがしゃんと動かしてー。色付けもしちゃうんだよー。

私が作業をしているのが気になるのか、一人の騎士が部屋を覗いた。


「おや、()()()()()()()、頑張っているね」


私はヒェッ、と息を吸った。

な、な・・・女ってバレた?うそっ!!

レクシーさんにさえ、バレていないのに?私は頑張って演技をした。


「僕、男の子だよ!酷いなぁ〜」

「・・・・理由がありそうだね。うん、了解」


指をわきわきと動かして、騎士は出ていった。


・・・・何あの人。マズい・・・・

何者かなぁ・・・この国の騎士さんだよね?



なんと食事だけど、騎士団の食堂を使って良いそうだ。まあ、外のレストランや飲み屋に行くのも良いんだけどね。

いろいろ優遇してくれるお礼として、王族や騎士団の騎士達にサーカスを無料で楽しんでいただく事にした。

さすがレクシーさんである。


私は外に行くのが面倒で、食堂で夕食を取る事にした。

大きなテーブルの端に座り、パンとシチューを食べていると、来た。


「やあ、さっきの。おじょ・・君の名は?」


さっきの騎士さんだ。


「・・・・・マイコォ」

「俺はサトクラ。マイコォ、よろしくね」

「・・はい」


うわぁ、困った・・・誤魔化し切れるかな?


「君はどこの出身だい?」

「えっと」

「・・・カッシーネ・ランドルフ伯爵令嬢、だよね?」

「   」


声が出なかった。息が、数秒止まった。心臓ももしかしたら、一瞬止まったかもしれない。


「君の事は、『アラームさん』が調べた。ああ、異世界転生者なんだね。俺と同じだ」

「同じなの?」

「だから、少しは安心してくれると良いんだけど」

「・・・・」


私は指名手配されている。連れ戻されるのかな。


「分かってるだろうけど、君のご家族がそれはもう、必死で探しているよ。君の兄上は、この国に留学したこともあるからね、殿下とも懇意にしていたから。普通の令嬢では逃げる事も出来ない筈だ。なるほど、転生者なら知恵も回るからね。君の事を調べさせてもらった。そして、君の婚約者である、王子のことも調べたよ」

「私・・・連れ戻されますか?」

「うーーーん。君のご家族に、無事である事を伝えるだけにして、このまま旅を続けたいかい?でも俺の話を聞いて欲しいんだけど」


話ってなんだろう。


「ある国のおとぎ話を聞いてもらおうか・・・その国にはとても志が高い王子様がいた。彼の国は、程々豊かで程々治安も良かった。だが、近くの森奥深くに、ある組織が住み着いてね。

その森で、麻薬を栽培して世界中に売って莫大な利益と、膨大な人数の麻薬中毒被害者を排出させたのだ。組織を倒そうとするが、敵もさるもので逃げ足が早い。

王子は組織を追い、ついに組織のドンの娘を見つけるんだ。王子は組織壊滅の為、『色仕掛け』で組織の情報を手に入れる事にした。

彼にはそれはそれは美しい婚約者がいたが、芝居がバレてはいけないので、心を鬼にしてその女を誑かした。もちろん、組織を壊滅させた暁には、婚約者に全てを明かし、苦しめた償いに一生涯を捧げるつもりだった。

病気で屋敷から出てこないと聞いて、本当は見舞いにも行きたかった、花くらい贈りたかった。

だが少しでも令嬢に気持ちがある事を知られるわけにはいかなかった。そんな事をしたら、組織に彼女は命を狙われる。だから王子は気持ちを抑え、麻薬組織を壊滅する事だけに専念したそうだ。

2〜3ヶ月で終わると思った捜査は、結局9ヶ月近く費やす事となった。ようやく組織を壊滅、組織員もほぼ全滅させて、やっと婚約者に真実を語ることが出来る、やっと会える、そう思っていた王子に、使者は『彼女は行方不明』という知らせを告げたのだ。

王子はまだ組織員がいて、彼女を拐ったのかと思ったそうだ。もしかしたら、彼女は殺されてしまっているかもと。

真相を知った伯爵家は、大事な娘を、たとえ麻薬組織壊滅という大きな作戦があろうとも、虐げた王子に家族は怒号で罵った。不敬罪だろうが、構わなかった。王子は・・・今も婚約者を探している」


長い長いおとぎ話だった。


ねえ、カッシーネ。あなたはどうしたい?

このまま旅を続けるも良し。

王子に復讐をするも良し。


旅を続けるなら、指を動かさないで。王子、


言い切る前に、指はピコンと動いた。


ああ、やっぱり。あなたは王子が大好きなのよね。


『大義のために、私を捨て置いて、貫いた意志。麻薬は恐ろしいものです。王子の成した事は、世界中から称賛されるべき事です。苦しんだのは、ひとり()だけ。なんという成果でしょう。王子は、私の誉です。私の王子様です。まあ、お会いしたら、頬を打つかもしれませんが。それくらい良いですよね?マイコォ』


ああ、私の中に埋もれていた、カッシーネが()に現れる。

そして、わたしは奥に沈んで、埋もれていく・・・


『ありがとう、マイコォ。あなたがいてくれたから、私は心を癒せた。あのままいたら、きっと自死していたでしょう」


『うん。よかったね。あ・・・レクシーさんや、団員のみんなに・・お別れ言ってなかった・・・・


ああ、楽しかった。ちょっと寿命延長しちゃった。

イケボでイケメンの、レクシーさん・・・さようなら・・・








今私はカッシーネの心の奥底に沈んで、そっと世界を眺めている。


カッシーネと入れ替わり、彼女が私の代わりにサーカス団のみんなに事情を説明してくれて。

レクシーさんは寂しそうな顔で、カッシーネにさようならを言って。



そして国に戻って。

家族みんなに謝ったら、


「お前は謝らなくて良い。王子のところなんかに行かなくて良い」


と言ってくれて。

やっぱりカッシーネが誤解していただけで、家族は彼女を心配し、愛してくれていたのだ。



翌日、城に登城し、王子様と会う。

どれくらい会っていなかっただろうか。

痩せて、髪の艶が無くて、辛うじて立っているように見えた。


ああ、こんなにも彼は疲弊しているのだ。

こんなにも、世界の麻薬で苦しむ人々のために、尽力を尽くしたのだ。

麻薬撲滅は、世界的大事業だ!!


「殿下・・サモア様・・!!」


カッシーネが彼に抱きついた。おお、弱々しくなってる。体がぐらっと傾いたが、なんとか倒れないように踏ん張ったね。

よし!私、マイコォも赦してやろう。

でも一生涯かけて、カッシーネを大事にしろよ。

もしもまた苦しめたら、私を入れ替わって、ぶん殴ってやる!!


「すまなかった・・・カッシー・・・」


その後は、彼の懺悔が語られて、それをカッシーネは心に刻むように聞いて。


「やはり、サモア様は素晴らしい方です。あなたの成し遂げた全てが、世界にとって・・いいえ、私にとっても喜ばしい・・・あなたは私の誉でありますわ」


王子はカッシーネの言葉に、ぽとぽとと涙を零して、彼女を抱きしめるのでした。


うん、よかったね。

もう私はいなくても大丈夫だね・・・



私は彼女の心の奥へ、さらに奥へと沈んで、闇に溶けて消え・・・







「ん」


目覚めた。まさか、どこかにまた転生?

見覚えがあるよね?これ、サーカス団の荷馬車の中だよね?

幌を捲って、中に誰かが入って来た。


「ん?あ」

「あ。レク、し


言葉が最後まで言えなかった。

だってレクシーさんが抱きしめ・・いや、絞め技かけてき、たったたたあ!!




今の私の姿ですが、カッシーネのまんまです。

どうしてこうなった?



転生の女神様が言うには、カッシーネが祈ってくれたんだそうな。

マイコォに肉体を与えてくれって。

大サービス、いや気まぐれで再び転生。


そして、私は再びサーカス団と共に旅をするのでした。



レクシーさんは私が女だと分かっていたそうです。

ついでに言えば、団員みんなにバレていて、指名手配書を見て、みんなで私を守ってくれていたそうです。

あれまー。そうだったんですか?




あれから1年が過ぎました。

私は、カッシーネに時々手紙を書いて、『旅の徒然』を知らせています。


もうすぐ王子と結婚するそうなので、お祝いも兼ねて、サーカス団みんなでお邪魔するつもりです。


うふふ、私も一緒に結婚しちゃおうかな、なんて思っています。

カッシーネもご存知、イケボの旦那様ですよ。


そう言えば、この呪われし日記帳。これ、どうしましょうね?サーカス団の荷馬車に置きっぱなしでした。


どこかの神殿で、お焚き上げしちゃいましょうか、ね!



タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。

4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。

ほぼ毎日短編を1つ書いてますが、そろそろ忙しくなるかな。随時加筆修正もします。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり報・連・相ですよね! 王子が目的をしっかり話していればあんなに追い詰められなかったし自死寸前まで行かなかった。 話していれば表情をとりつくろったり人前であからさまに怒ったり泣く振りが…
[一言] ご都合主事、でも万歳ですね 二人が幸せに過ごせますように。
[良い点] この更新頻度で、毎回違う話の短編を誤字脱字もほとんど無く、クオリティの高い面白い作品ばかり。 神かな? [一言] まぁ、あくまで個人的な感想ですが(;´д`)
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