チー牛、beef(ビーフ)になる2
今日のバイトは暇だったおかげでじっくりアンサーを考える事ができた。
俺は昼の休憩に入り、社割り価格でトリプルチーズ牛丼を食べながらアンサーを書き、送信前に誤字などがないかを確認した。
「―――――――――――――――――――――
2、チー牛
百発百中?若干かする程度の腕前MC丼
ガンマン不向き、チー牛が直々にエイム指導
ガンガン踏む気質の俺は勝利の女神が微笑む神童
パッとラップ?詐欺事件に光るパトランプ
マシンガン手放し掴んだジャックナイフか……
慢心が生んだ弱体化
仲間いなきゃよちよち歩き
ビビってんならよしときなウチ
よろしくお願いします
―――――――――――――――――――――」
「百発百中」「若干かする」
「MC丼 」「エイム指導」「(微)笑む神童」
「ガンマン不向き」「ガンガン踏む気」
「パッとラップ」「パトランプ」
「マシンガン」「慢心が」
「ジャックナイフか」「弱体化」
「よちよち歩き」「よしときなウチ」
うーん。我ながら「MC丼 」「エイム指導」「(微)笑む神童」ここの子音踏みは見事だな。相手の銃のネタをdisりつつこちらの優位性をアピールしている
このMC丼は群れないとイキがれないという、俺が一番嫌いな人種だ。会話の節々からウザさがにじみ出ている。
面と向かって話す事はできないがここはネット上、しかもネットライムだ。
MC丼自体に恨みは無いが俺の土俵でボッコボコにしてやんよ!
俺は薄ら笑いを浮かべながら食べ終わった割り箸を片手で握りしめて親指でへし折ろうとした……が、思いの外割り箸は頑丈で、仕方ないので両手で掴みへし折った。
俺は一段落したので休憩が終わるまで韻乱闘城の他のバトルのスレの観戦をしていた。
掲示板を更新すると「MC丼 vs チー牛」が更新されていた。
やけに早いな……
ある程度の力量差を見せつけたし、こいつも韻を踏めるんならこの力量差を埋めるために何かしら対策を練る時間が必要だと思うんだが、こんな短時間でアンサーして大丈夫なんだろうか?
「―――――――――――――――――――――
3、MC丼
ビビってんのはてめぇだろチー牛
俺はいつでもやれんぜ?お前とbeef
かかってこいよ、ワンパンで殺す
街歩けねーようにしっかりと脅す
これがストリートスタイル、かちこみ上等
お前のhiphopなんか認めねぇ毛頭
MC丼レペゼン渋谷
小便ちびっていっぺん死ぬか?
―――――――――――――――――――――」
なるほど、早いわけだ。
「チー牛」「beef」
「殺す」「脅す」
「上等」「毛頭」
「渋谷」「死ぬか」
『beef=喧嘩』って意味だっけか?確かアメリカのハンバーガーのCMで肉が少ないと他社をdisったのがこの言葉のきっかけと師匠が言っていたような。
きっと師匠ならチー牛とビーフと、もう少しうまく絡めたリリックを書くだろう。前に俺のトランプの手札は「豚」と言っていたっけなぁ。
『レペゼン(レプリゼントrepresentの略)=代表』って意味だな。渋谷の代表は「渋谷のドン」がいるだろうに、残念ながら「丼」違いだ。勘違いならぬ丼違い……フヒヒ。
うーーーん。本当にフリースタイルじゃないのか?と思えるクオリティだ。
別にフリースタイルを否定しているわけじゃない。むしろリタルタイムでどんどん言葉を考えつつ韻も踏み続けるなんて難しいだろう。俺はできない。
か、ここはネトラだ。
人それぞれではあるけど、ここでは即興性をあまり求められていないし、ここの掲示板の住人達はみんな韻のクオリティやアンサーの上手さを求めている。
もしかして俺が気づかないような複雑な踏み方をしているのか?それともこのスカスカのリリックの中に実は深いメッセージが隠れているのか?
俺は何度も読み返すがやはりそうではないらしい。
勝ちたいわけではないのか?ライム出来ればそれでいいのか?
となるとMC丼はどこに基準をおいてバトルをしているんだろう?
とりあえずこちらはいつも通りのクオリティでMC丼をdisる事だけを考えよう。
そうだな……
まずはワンパンでやると言っているが、マシンガン→ジャックナイフ→ワンパンとどんどん攻撃力が下がっていく、という事をアンサーの威力が下がっていることに絡めよう。
あとはこいつのストリートスタイルやらhiphopやらがイマイチわからないがダサいからそこをdisろう。
あとは……レペゼン渋谷か。大きく出たな。余裕があればこれについてもdisってみるか。
構成を考えたところでそろそろ休憩が終わりそうだ。
あとは暇な時に書いたりして次の休憩までに書き上げよう。
今日のバイトはラストまでだし、雨のおかげで客もいないから最高の暇つぶしになりそうだ。
「―――――――――――――――――――――
4、チー牛
道具使いこなせぬガキの食事風景
手掴みがお得意プレイの動物かい?
リリックもたどたどしいお猿さん
昔は進化の過程辿った同志
愛護の観点からこのバトルはノーカンでいいよ?
IN-ONのフードコートで土下座強要
MC丼を調理する俺のライムはどデカ包丁
バトルありがとうございました!
―――――――――――――――――――――」
かなり手抜きなリリックになってしまったが、まぁこいつ相手ならこの程度で十分だろう。
「道具使い」「動物かい」
「の食事風景」「お得意プレイ」
「たどたどしい」「辿った同士」
「の観点」「ノーカンで」
「土下座強要」「どデカ包丁」
俺の1バを「上の中」とすると、2バは「中の中」もしくは良くて「中の上」だろう。韻の踏み方は弱いがdisにキレがあった。
というのが俺の自己評価だ。
MC丼は攻撃が直線的という印象だ。殺す殺すの一点張り。せめてリリックの内容が直線的なら韻の踏み方で面白さがあれば良かったものの、韻の踏み方も意外性もなく光るものが感じられなかった。
MC丼のバトル前の態度や、バトル前後で挨拶も無い不作法さはかなり不愉快だったが、これでやっとバトルも終了した。
こいつは今後わざわざ関わる必要は無いだろう。
早くギャラリーからの判定をいただいて「バトルありがとうございました!」と言って終わらせたい。
俺は判定がもらえるまでスマホをいじっていた。
それにしても今日は本当に暇だな。
お客さんが来なさすぎて社員は別店舗の欠勤の応援として出て行ってしまった。休憩は先程とってしまったから良いが、最後の短い休憩とトイレに行くのは社員が戻ってくるまでとれないな。開店休業状態の店内は楽園に思えた。
俺のワンオペは社員が戻るまでのあと2時間もある。
Duxiの更新ボタンを連打しているとやっと新しい書き込みがあった。
「さぁて、俺を褒め称える評価をしてくれよぉぉ~」
俺はニチャニチャと笑いながらスレを開いた。