チー牛、「how to 韻踏み(スラング)」を学ぶ3
前半簡単な用語集、後半韻踏み応用編です。
俺はアイジェン師匠により一からネットライムを学ばせていただく事となった。
元々全く興味が無かったはずのネットライムだったが、最初にアイジェン師匠と出会ったおかげで一から学べたのが俺がネットライムに関心を持つきっかけになった気がする。
そんなアイジェン師匠から毎日色んな事を教えてもらっている。
まず用語からだ。これがわからないと会話にならない。
まずアイジェン師匠が管理人を勤める「韻乱闘城」という掲示板上で相手と戦う事を『バトルする』と言うようだ。
1バース表、裏という野球で言う1回表のような表現があるが、このバース(Verse)は歌で言うところのサビじゃない部分、という意味だ。
みんなスレの中でレスを書いているが、レスの事を『歌詞=リリック(lyric)』と呼ぶ。
つまり1バース表でリリックを書き、それに対して1バース裏でリリックを書いて『アンサー(返答)』をする。
リリックは基本的に8小節か16小節が一般的で、4小節や32小節の事もある。
これは音楽がそういうものだから!だそうだ。
これがネットライムをやる上で知っておきたいおおまかな知識だった。
「ちなみに初めて俺とアイジェン師匠がバトルをした時、アイジェン師匠は1バース表に5小節しか書いてませんでしたよね?」
と俺が訪ねると
「お前ごときならルールを破ってでも勝てると思っていたんだ。普通なら必ず8小節は書くぞ。書かないと足りなくて気持ち悪くなる」
と言って俺を軽くdisった。
アイジェン師匠はこのメッセージ内だけで俺にこの内容を教える間に俺を5回ほどdisったが全然問題はない。それは師匠の「愛あるdis」というやつだ。
ちなみに、
『バトルの時はdis、バトルが終わればPeace』
が原則らしい。
だからみんな、二重人格みたいな感じだったのか。
これは、hiphopの文化の考え方で、彼らは抗争で血を流さないようにダンスやラップなどで勝敗を決めたかららしい。
か、カッコいいぜ。
少しずつ俺の感覚がhiphopに傾倒している気がした。
バトル以外でも師匠からdisられているがそこは「流石は師匠!」と言う言葉で片付ける事にしている。
何が流石なのか……それは師匠だからだ。理由なんて考えたらダメなのだ。
俺の予想だが、きっと師匠はヤの付くご職業の人で、カタギの俺には特別に優しくご指導してくれているのかもしれない。ただ、時々本職の一面がポロリしてしまうせいでdis成分が多めなんだろう。
うっかり刺激してしまうといけないのでそういうプライベートな部分は一切触れないでいる。
自分も背が低いし見た目も陰キャそのものだ。ネットライム内でおっかない事を言っているくせに見た目がダサい事がバレたらもうネットライムができなくなるかもしれない。
それがネットと言うものだろう。
師匠からは他にも色んなhiphopのスラング(=その界隈で使われる言葉)を教えてもらった。
まず日頃から使っている『dis』だ。
「disrespect=けなす」の略だ。
「respect=尊敬する」の対義語になる。
「disる」というように使う。
続いて『ill』だ。
「ill=病的な、ヤバい」って意味だ。
hiphopスラングでは「カッコいい、ものすごい」みたいなほめ言葉として使われる。
「ill過ぎるスキルでぶった斬る」
という脚韻をパッと思いつく。
illの対義語として『chill』がある。
「chill=まったり」って意味だ。
「彼女の家でchill」
のように使う。
が、彼女の家にお邪魔してchillでいられるのか?
そわそわし過ぎるだろうし心臓バクバクで死ぬんじゃね?
彼女いねーけど。いたこともねーけど。は?殺すぞ?
次だ次。
あと、よく見るのが『ライカ(like a )~』だ。
「ライカ=まるで~」って意味だ。
「俺のライムはライカ日本刀
切れ味バツグンの匠の仕事」
という使い方だ。
他にもたくさんスラングを習ったが、とりあえず普段バトルで使えるものはここらへんだろう。
「大麻=マリファナ=ガンジャ」なども一般教養という名目で教えてもらいはしたが、そもそもタバコすら吸わない俺は無煙で無縁だ。そもそもこの一般教養はどこで使うものなんだ……
韻についてもっとレベルの高い踏み方を教えてもらった。
と、その前に「ん」や「ー」の使い方を習った。
今さっきパッと考えた
「俺のライムはライカ日本刀
切れ味バツグンの匠の仕事」
という押韻。
日本刀=(nI hO N tO-)
仕事=(shI gO tO)
「ん」や「ー」は無いものと考えても良いのだ。
このおかげでかなり自由度が高くなる。
「弁当」→べんとう→べんとー→べーとー→「デート」
弁当とデートで韻を踏んだ事になるのだ。
あと教えてもらったテクニックとして『子音(韻)踏み』というものがあった。
「韻を踏む=母音を合わせる」という制限にさらに『子音も合わせる』という制限を設けた韻踏みだ。
つまり、簡単に言うとダジャレだ。
「布団が吹っ飛んだ」(ふとんで子音踏み)
以前の師匠の2バース表のリリックを引用すると
マジの「素人」は己の実力を「知ろう『と」もせず』
命のロウソクに「火を『灯」せず』
【実力差】俺はエースのフォーカード
チー牛は名ばかりでテーブルには【いつもブタ】
俺の〖ボキャブラリー〗〖拝むなり〗学ばせて〖もらうなり〗しねぇと伸びない人生《辿ってく》
何《度テイク》出してでも頑張れないからお前はいつまでたってでも《童○君》ww
「素人」=「知ろうと」
「ともせず」=「灯せず」
「辿ってく」=「度テイク」=「童○君」
が子音踏みだ。
1バース表には
「書いてんだ」=「回転だ」
もあった。
「どうしてそんな子音を思いつくんですか?」
と、師匠に聞くいたところ
『頭のテッペンに神
が、降りてきて掴んだペンに紙』
というアンサーをいただいた。
「ペンにかみ」サラッと子音踏みしつつ、意味も繋がっていて美しいと言わざるをえなかった。
もう一つの技術は『全踏み』だった。
これは言葉通り、小節内の全ての文字で韻を踏むのだ。
『a i u e o 《エーアイユーイーオー》 を注目
警戒注意報 五十音順』
と言うものだ。
これまた意味まで通った完成系の全踏みと言える。
自分のリリックの「あいうえお」の母音と五十音順の子音を組み合わせた俺のリリックの日本語に注意しろ、という凄さを表現している。
もはやこうなると言葉のパズルゲームといった気分になる。
師匠からネトラで遊ぶ際の思想について学んだ。これはネトラ以外でもだが、
『ルールの中で遊ぶ事の面白さ』
って事だ。
「ルールという制約に縛られながら、その中で足掻く楽しさがある。ルールが無いとすぐに飽きてしまう」
と言っていた。
最後に師匠はこの話を韻を踏みながらこう締めくくった。
『自由なんざいらねぇぜ、韻に縛られても
頭にぶっかけろ柔軟剤』
頭を柔らかくして乗り切れという事らしい。
流石は師匠!