チー牛、「how to 韻踏み」を学ぶ
スマホの画面にDuxiから
『アイジェンさんからメッセージが届いています』
と通知があった。
なんだ?ただでさえ今は見たくない名前なのに、煽ってんのか?あ?
俺は心の中でファイティングポーズをとりながらDMを開いた。
「―――――――――――――――――――――
先ほどはバトルありがとうございました。
私は韻乱闘城の管理人をさせていただいているアイジェンと申します。
私の掲示板では「参加者全員の実力を向上させてみんなで切磋琢磨したい」という目的があります。
チー牛さんはバトル初心者と言う事でしたが、もし良ければここの管理人としてチー牛さんに「韻踏み」についてお教えしましょうか?
―――――――――――――――――――――」
なんだ?どいつもこいつも二重人格なのか?
さっきまでボロクソdisってきたくせに突然物腰が低くなったぞ?
そうだ、最初っからそういう態度をとっておけばいいんだよ。
俺のラップで泣いたんだろう?え?どうなんだ?
「―――――――――――――――――――――
メッセージありがとうございます。
こちらこそありがとうございました。
よければ色々と教えてください!
―――――――――――――――――――――」
ふん。いいだろう。
お前の言う「韻踏み」とやらを俺様に教えてみるがよい。聞いてやろうじゃねぇか。
それから30分ほど経った頃にアイジェンからメッセージが届いた。
「―――――――――――――――――――――
長文失礼します。
何度かに分けてメッセージさせていただこうかと思います。
≪レッスン①≫
チー牛さんはまず「韻を踏む」と言うのが具体的にどのような事を言うのがご存知ですか?
「韻を踏む=母音を合わせる」
という意味です。
母音とは「a i u e o」です。
逆に子音とは「kstnhmyrw」です。
五十音順の表をイメージしてください。
縦が母音、横が子音です。
言葉というのは子音と母音の組み合わせになります。
≪レッスン②≫
では、いくつか例を見てみましょう。
先ほどの私の1バースのどこで韻を踏んでいた(=母音を合わせていた)のか見てみましょう。
俺が「相手んな」る、名前は「アイジェンだ」
格の違いを「書いてんだ」それは頭の「回転だ」
お前を狙う「サイレンサー」『の銃口』
寿【命途切】れるまで『50秒』の【秒読み】
【証拠隠】滅して票の【総取り】
実は分かりやすいように「」『』【】で韻をグループ分けしていました。
「相手んな」→「A I tE N nA」
「アイジェンだ」→「A I jyE N dA」
「書いてんだ」「回転だ」→「kA I tE N dA」
「サイレンサー」→「sA I rE N sA」
お気づきですか?
「AIENA」で5文字の母音を合わせる事で韻が完成しています。
私達はこういう時『5文字踏んだ』と呼びます。
同じように
『の銃口』『50秒』→「o u u o u」
【(寿)命途切】【秒読み】【証拠隠】【総取り】
→「o u o i」
と、韻を踏んでいます。
これが韻踏みです。
一概には言えませんが、この韻踏みの文字数を増やしたり複雑にする事が評価基準の一つとなります。
ここまででもしわからない事などあればお答えいたしますのでご連絡ください。
今から続きを書こうと思います。
―――――――――――――――――――――」
ほーーーー。
敵ながら分かりやすいじゃねーか。
てめぇ、国語の先生かぁ?
いいだろう、続きのメッセージを待ってやろう。
と、ただ鎮座して待っていても仕方ないので俺が書いたレスを分析してみるか。どれどれ……
俺はチー牛だyo 「だyo」
戦闘開始だぞ 「だぞ」
俺がお前を殺しにきたぜ 「きたぜ」
勝利は俺がいただいたぜ 「いたぜ」
これは「2文字踏み」と「3文字踏み」と言う事だな。
さすが俺、最初から無意識に韻を踏んでいたなんて、センスに足が生えたようなもんじゃねーか。
自分に感心しているとまたアイジェンからDMがきた。
「―――――――――――――――――――――
追伸ーー
ちなみに「だよ」「だぞ」等のなんの捻りも無いものは私達の界隈では「韻を踏んだ」とカウントされません。
あと、クオリティも求められます。
―――――――――――――――――――――」
イラッ!!
こいつ、さりげなく俺をdisってきやがるな!しかもタイミングが絶妙過ぎてどこかから監視でもしてんじゃないかと疑うレベルだ。
我初心者ぞ?もう少し褒めよ!讃えよ!崇めよ!
時間も少し遅くなってきたし、レッスン③以降は明日見よう。
俺は部屋の電気を消し、ベッドに横になった。
目を瞑り今日1日について思い出してみよう、と思ったタイミングでまたDMが届いた。
ちょうど眠くなってきたところだったが、いざ送られてきてしまうと早く続きが読みたいという気持ちがこみ上げてくる。しかし、明日も仕事なので早めに寝ようという気持ちもある。
散々悩んだ結果、やはり続きが読みたい!
俺はアイジェンからのDMを開いた。
「―――――――――――――――――――――
続きを書こうと思いましたが、気づくともうこんな時間ですね。
続きは明日お送りします。
おやすみなさい。
―――――――――――――――――――――」
おい!アイジェン!!出てこい!いるんだろ!どこかにいて俺の事を監視してんだろ!?さっきからなんでこんなにも絶妙なタイミングでメッセージ送ってきやがるんだ!もはや見てる以外に考えてられねぇよ!!出てきやがれ!!チキショーー!!
それから俺は自分の枕を数発ボコボコにした後、寝ようとしたが興奮してしまったせいでしばらく寝れなかった。
もし韻踏みについて興味を持っていただいてわからないコトがあれば感想かTwitterの方でご質問ください。
ただ、万年国語3の理系の自分の説明では限界があるかもしれません。