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裏切り

社交界に、波乱が……

「ローラン様よ」

 一人の声を皮切りに、周囲が俄かにざわついた。

 勇者ジュベーが平民の希望であるならば、貴族の誇りとも言える男が、ローラン卿である。

 オスカー・ドゥ・ローラン、フロン王国内でも屈指の旧家の出である。

 父親である、ローラン侯爵は王の側近として政権において絶大な権力を握っている。

 オスカーは、その次男として生まれた。その結果、のびのびと騎士として活躍することができたのである。

 そして、それが彼の才能を開かせる結果となった。

 内乱時は、その獅子奮迅の活躍で王を支え、また、その女性と見まごう程の美しい容姿から、「百合の騎士」と呼ばれた。

 白い肌にわずかに赤みがさした顔に、女性たちが歓喜の声を上げる。艶やかな黒髪が、光に照らされて濡れた様に流れる。

 長身ではあるが、歴戦の騎士には似つかわしくない一見、華奢な体をしている。

 しかし、それは裏を返せば、その体で戦場を朱に染めるだけの技術を持っていることの現われでもあるのである。

「ローラン卿は、魔法剣の遣い手らしいぜ」

 モーレットが言う。魔法剣とは、魔力を剣に宿らせる忠興と同じタイプの戦闘スタイルである。

「ほう……」

 むらがる女性陣の間をローラン卿が進む。

「此度の活躍で、オスカーは別家を許されるかな」

「いつまでも、救国の英雄を部屋住みにはしておられんからな」

 忠興の後ろで、貴族たちが噂話を囁きあう。

 ローラン卿の登場で、一気に活気が出たパーティーであるが、そのローラン卿は、真打であるジュリアン王子のお付きの騎士であった。

 ローラン卿に促されて王子が、会場に入る。

 王子は、来賓に笑顔で応えると会場の中央に立った。

 柔和な顔の若者である。このパーティーの表向きの名目は、王子の二十五歳の誕生日パーティーということである。

 「英雄の後での入場は、あまり注目されないので、引っ込み思案の私には丁度いい」

 そんな冗談を王子が飛ばす。

 しかし、皮肉という訳でもなさそうなのは、王子とローラン卿が互いににこやかな笑みを交わしているところからも伺える。

 その上で、王子が軽い挨拶を述べ、乾杯へと続いた。

「それじゃあ、わらわは忙しい故、これで」

 乾杯が終わると、ベアトリスは忠興を残し、一人で慌ただしく歩いて行った。

 良い男を探しに行ったのである。

 王子や、ローラン卿もそれぞれ女性の手をとり、ダンスを踊る。

 忠興は、ワインを片手に、魚料理に舌鼓を打っている。

 そうして、しばらくは優雅なパーティーの雰囲気を楽しんでいた。

 しかし、異変が起こった。

「旦那も踊ればよいのに、ほら綺麗な娘さんが一杯いますぜ」

 モーレットが囁く。

「ほら、あの青いドレスの娘なんて……えっ……?」

 軽口を叩くモーレットが、驚いた声を上げた。忠興も何事かと、モーレットの視線の先を追う。

 そこには、青いドレスを着た美しい女性の姿があった。

 ベアトリスの美しさを華やかなバラとするならば、彼女の美しさは可憐な百合とでもいうべきだろう。

 しかし、忠興が驚愕したのは、その女性が別室で控えているはずのソフィアだったからである。

「ソフィア」

 ソフィアは、衣装を替えていた。ベアトリスの予備の物である。

 いや、そもそもがギャスター家所蔵のパーティードレスであれば、元々はソフィアの物である。

 ベアトリスの豊満な体躯に対し、ソフィアの線は細いが、二人の背格好は違わない。

 そのまま、ゆっくりと会場を真っすぐに進んだ、その先にはローラン卿の姿があった。

 ローラン卿の相手はベアトリスであった。しかし、ソフィアに気付いたローラン卿の動きが止まった。

 その輝くような青い瞳は、ソフィアに注がれていた。

「ソフィア……」

 ローラン卿が、驚いた声を上げた。ベアトリスも突然現れたソフィアに驚きを隠せない。

「誰よ、あの娘」

「何なの……ローラン様の知り合い」

 ざわつく女性陣には気にも留めず、そして、主人であるはずのベアトリスを完全に無視し、ソフィアがローラン卿に挨拶をする。

 ローラン卿は、ソフィアの手をとると、その腰に手を回した。

 踊り始めた二人に、周囲の目は完全に奪われた。

 優雅でいて、激しく、勇壮でいて、可憐な二人の動きは、まるで騎士と淑女の物語を紡ぐようであった。

 それは古き良き、貴族の伝統を思い起こさせるものであったのである。

「おおー、怖えな……女ってやつは」

「従順なメイドのふりして……最初っから、これを狙ってやがったのか」

 モーレットが言う。

 踊り終えたというのに、ローラン卿はソフィアの手を離さない。その瞳に燃える炎が、恋の強熱であることは、その場にいる誰もが感じ取っていた。

 そして、ソフィアの柔らかな唇は、そんなローランの愛を受け入れるのを待つかのように僅かに開かれているのである。

「おぉ、あれはギュスター男爵のご令嬢ではないか」

 ソフィアの正体に気付いた貴族が声を上げた。

「何、ギュスター男爵の?男爵は確か……」

 それを皮切りに周囲が俄かにざわめき出した。

 その喧噪を避けるかのように、ローラン卿がソフィアを伴って会場から出て行った。

「おっと、こんな面白そうな話はないぜ」

 そう言うと、モーレットが忠興のもとを離れ、ローラン卿の後を追って行った。

「あの女!」

 そして、もう一人ベアトリスが、怒りを露わに二人を追う。ローラン卿との間を、召使いであるソフィアに邪魔されたばかりか、公衆の面前で恥をかかされたのである。ベアトリスの怒りはもっともである。

 その後を、忠興もついて行く。


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