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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第四章 宿命の吸血鬼編
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第93話 これで最期だからね

「おぉーっし! おめーら、行くぞー!」


 双剣を振り回し、天使フォレスが他の天兵達に呼びかける。


 ツンツンと跳ねた白髪に混じって一本緑の毛が伸びた髪型の彼は、白金の鎧に身を包み、茶色のツルの双剣を武器としている天使である。


「フォレス、剣振り回すと危ないよ」


 フォレスの振り回した剣に当たりそうになった天使ウォルは、怖がりながら身をよじって兄に注意喚起。


 マッシュルームのように丸まった白髪に混じって一本青の毛が伸びた髪型の彼は、白銀の鎧に身を包み、固められた水で出来た弓矢を武器としている天使である。


 二人とも、前に一度吸血鬼界に奇襲に来たことがあり、鬼衛隊とも剣を交えた強者である。


 同時に、つい最近まで天界が隠していた死角でもある双子の天使なのだ。


「んな細けーこと気にすんなって」


「それに天兵長に内緒で吸血鬼界に降りてきちゃって……」


 辺りをキョロキョロと見回しながら、不安そうに肩を竦めるウォル。


「細けーこと気にすんなって! ボスだって吸血鬼やろー達を倒したいって思ってんだから良いじゃねーか」


 弟のウォルに真実を暴露されて、兄のフォレスは声を荒げて足を強く踏み鳴らした。


「ん? フォレス」


「んだよ!」


 もう慣れているのか兄の苛立つ姿を華麗にスルーし、何かを見つけたらしいウォルが目を細めると、フォレスはいよいよ苛ついて叫ぶ。


「あれ」


 ウォルはフォレスの叫び声に顔を歪めながらも、正面を指差して教える。


「あーん? ……何だあれ」


 ウォルに言われて同じように正面を凝視したフォレスは、その先にあったものを見て眉をひそめた。


 王都を下った先、都と市場の境界線に立ちはだかる人影が二つ。


 槍を持って天兵軍を待ち受けていたまこととスピリアだった。


「何やってんだ? あいつら」


 並んでこちらを睨んでいる二人を怪訝そうに見たフォレス。


 だが、すぐに面倒くさそうにため息をついて、


「よっし、オレ達を邪魔するって言うなら受けて立ってやる!」


 適当に振り回していた双剣をしっかりと構えて腰を低くした。


「オレはあの人間を殺る! ウォル! おめーはあのチビ吸血鬼やろーを殺ってくれ!」


「わ、分かった……!」


 兄の指示に顎を引き、ウォルも水で出来た弓矢を構える。


「うぉっし! 行くぜ!」


 二人の天使は勢いをつけて一気に道を駆け降りた。


 一方、フォレスとウォルが走り降りてきたのを見た誠とスピリアも、腰を低くして身構える。


「来るぞ、スピリア。無茶はするなよ」


 迫る二人を険しい顔で見据えながら、槍を構えた誠がスピリアに忠告する。


「リ!」


 スピリアも槍を握りしめて厳しい視線で天使達を見ながら頷く。


「ここから先、市場には絶対に行かせん!」


「わたし達が守るリ!」


「おーらっ! 食らえー!」


 慣れた手つきで双剣を振り回し、フォレスは誠に襲いかかる。


「くっ!」


 振り上げられた剣を何とか槍でカバーし、誠は攻撃を逃れる。


「よ、よろしく……ねっ!!!!」


 怯えた態度から一変、ウォルは目を見開いて歯を見せながらスピリアに飛びかかった。


「リッ!」


 スピリアもウォルの急激な態度の変わりように驚いたが、すぐに神経を集中させて迫ってきた弓を避ける。


(き、急に態度が変わったリ……!)


 目の前で不吉な笑みを浮かべながら攻撃を繰り出してくるウォルに、スピリアは戸惑いを隠せなかった。


 そしてその戸惑いは彼女の行動となって顕著に現れた。


 その一瞬の隙をついて、ウォルは弓矢を引く。


「リッ!」


 咄嗟に飛び上がって飛んできた矢を避けた____と思ったスピリア。


 が、次の瞬間、彼女の頬が線状に裂けてそこから血が滴り落ちる。


「何れリ!? わたし、ちゃんと避けたらのにリ!」


 切れた頬を手で押さえつつ、スピリアは空中でウォルが持つ弓矢を見つめる。


 弓も矢も水で出来ているにも関わらず、放たれた矢はしっかりとスピリアの肌を切ってきた。


 これは油断できない。ただの水が飛んでくるものと思っていたスピリアは予想外の出来事に歯を食いしばる。


 少しでも気を抜けば、あの水矢が襲ってくる。


 スピリアは地面に着地して槍を構え直し、気を引き締める。


「ボクを楽しませてよね」


 ウォルはまるでそんなスピリアを嘲笑うように不吉な笑みを浮かべた。


 そして間髪を入れずにスピリア一直線に走り出す。


「負けないリ!」


 スピリアも槍の刃を向けて立ち向かっていった。


 ※※※※※※※※※※※※


 一方、その隣でフォレスと戦っていた誠も苦戦を強いられていた。


「速い……!」


 フォレスの予想以上の速さに、ついていくのが精一杯である。


 だが、スピリアと違う点は、誠が今まで一度もフォレスの攻撃を受けていないところである。


 慣れないながらも、スピリアから貰った槍で必死にフォレスの攻撃を受け切っている誠。


 フォレスにとってこれは予想外だったのだろう。


 最初は殺意に溢れていた彼の目も、今では戦闘欲に満ち溢れており、誠との戦いを心の底から楽しんでいるようだった。


「へぇ、人間のくせになかなかやるじゃねーか!」


「これでも戦闘訓練は積んできているのでな。見くびってもらっては困る!」


 槍を瞬時に構え直して刃を向け、地面を蹴る誠。


「おっと!」


 だがフォレスもまた、体を捻って刃を完璧に避け切る。


 それだけに飽き足らず、


「突っ込み過ぎると、足元掬われるぜ!」


 体を捻った反動で誠の背後に飛び、胸元で双剣を構える。


「うっ!」


 肉が張り裂ける音とともに発せられる誠の呻き声。


 背後からの衝撃で前に倒れ込みそうになっている彼の背中には、フォレスが手にしていた茶色い双剣が突き刺さっていた。


 そこから止め処なく溢れ出す赤黒い血。


「ふん! やりー!」


「くっ……貴様っ……」


 顔を歪めながら、目だけで背後のフォレスを見る誠。


 だがその体は立ち直ることなく地面に沈んでいく。


「マコト!」


「余所見してる場合じゃないよっと!」


 倒れる誠を見てスピリアが叫ぶ。


 当然、彼女の視線の先には崩れ落ちる誠がいて、スピリア自身の集中も途切れてしまう。


「リッ!」


 誠を助けに行こうと方向転換したスピリアの目前にウォルが滑り込み、弓矢を引く。


 至近距離での攻撃を避け切ることもできず、ウォルの放った水矢がスピリアの身体を貫通。


「スピ……リア……」


 地面に倒れこんだ誠は、うつ伏せのまま何とか顔を上げ、その視界にスピリアを捉える。


 しかし、彼女の体は攻撃を受けて放物線を描くように舞い上がる。


 気を引き締めたはずの戦いで、崩れゆく誠に気を取られた結果、その隙を突かれてしまったスピリア。


 土埃を上げて落下した彼女を見下ろしながら、ウォルがつまらなさそうに唇を尖らせた。


「えぇ~? もう終わりなの? 呆気ないなぁ」


「何言ってんだ、ウォル。さっさと終わらせるぞ」


 倒れている誠の背中から軽々と剣を抜いて、フォレスはぶっきらぼうに言う。


 そんな兄をちらりと見て口角を上げ、ウォルも弓矢を構える。


「分かったよ、フォレス。……さてと、これでキミ達の最期だからね」


 二人の天使は、一人の人間と一匹の吸血鬼を見下ろして、その顔に笑みを浮かべた。 

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