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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第四章 宿命の吸血鬼編
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第85話 暗闇の将来

 翌日の放課後、私はスピリアちゃんの容態を確認するために吸血鬼抹消組織・VEOの基地に向かった。


「あ、あの」


 門の前に立っている険しい表情の警備員に声をかけてみる。


 彼は手を後ろに回した仁王立ちの体勢で、目だけでギロリと私を見下ろした。


 そのキツい視線にたじろぎそうになるのをグッと堪えて、


「スピリ……吸血鬼の女の子のお見舞いに来たんですけど、入ってもいいですか?」


「君、誰だね? ここの関係者か?」


 警備員が尋ねてきた。


「えっと、鈴木すずきまことさんにお世話になっている村瀬むらせゆきと申します」


 何とかこれだけで伝わってほしい。


 というか、VEOの基地に入ってる子供って私くらいじゃないかな。


「……確認するからちょっと待ってなさい」


 警備員の男の人はそのまま私を見ていたけど、ズシズシと地面を踏みしめて基地の中に入っていった。


 誠さん、忙しくなかったら良いんだけど大丈夫かな。


 不安で仕方ない中、警備員の男の人を待っていると、やがて警備員の人が出てきた。


 その後ろには誠さんの姿もあったのだ。


(誠さん……!)


 この時ばかりは誠さんが神様みたいに思えた。


 不安な状況に見知った人が現れるとここまで安心するものなんだな、と私は誠さんを多分キラキラした瞳で見つめていた。


「この子なんですが……」


 門の外に居る私をチラリと見やってから警備員の人が不安そうに誠さんを仰いだ。


 警備員の人より背が高い誠さんは、私と彼を順番に見下ろして、


「あぁ。大丈夫だ。通してくれ」


「あ、はい」


 警備員の人が通り道を開けてくれた。


「ありがとうございます。お邪魔します」


 その人にもペコリと会釈をして、誠さんの後ろについて行った。


「すみません、お忙しいところをお呼び立てしてしまって」


 スピリアちゃんの療養部屋に向かいながら、誠さんに謝った。


「いや、問題ない。今ちょうど仕事が片付いたところだったからな」


「そうですか。良かったです」


「済まなかったな、雪」


「え?」


 誠さんが口角を上げながら謝ってくれた。


 どうして誠さんが謝ってるの?


 私、何か謝られるようなことしたかな……?


「さっきの事だ。多分以前の吸血鬼共の奇襲を危惧しているのだろう。確かにあれ以降警備は強化したが」


 少し笑って誠さんは続けた。


「吸血鬼共は場も見極めずに突っ込んでくる奴等だ。雪のように律儀に入口の門から入ってくるわけがないのに」


 警備員の人が私をすぐに通さずにわざわざ誠さんに確認させてから通したことか。


 でも表から入るのは初めてだったし、怪しまれて止められるのも仕方ないとは思ってたけど。


「あ、あはは……。キルちゃんなんて天井突き破ってましたもんね」


 初めてここに来た時にイアンさんとキルちゃん二人の襲撃に遭ったことを思い出す。


「もう修理は終わっているがな」


 気付けばちょうどその天井の下を通っていたようで、誠さんは今はもう舗装されている、キルちゃんが突き破った天井を見上げた。


「全く、今はもう雪も来るんだ。そろそろここを襲撃するのも止めてほしいものだ」


 誠さんはため息をついて呆れていた。


 彼によれば、ここ最近では数ヶ月前のような吸血鬼達による襲撃はめっきり無くなったそうだ。


 でもいつまた襲撃してくるかは分からない以上油断は禁物だと言っていた。


「あの時は私に用があったって言ってましたし、ここを襲撃することはないと思いますよ」


「そうか。そうだと良いが……」


 それでも誠さんは舗装された天井を恨めしそうに睨んでいた。


 ※※※※※※※※※※


「着いたぞ」


 誠さんがとある一室のドアを開けて中に通してくれた。


「ありがとうございます」


 ペコリとお辞儀をしてから中に入ると、私に気付いたスピリアちゃんがパアッと顔を輝かせた。


「ユキ!」


「スピリアちゃん!」


 ベッドで上体を起こした体勢のスピリアちゃんに駆け寄った。


「元気?」


 私が尋ねると、スピリアちゃんはコクりと頷いた。


「ユキはらいじょうぶリ?」


「うん、もう元気いっぱいだよ。ありがとう」


 スピリアちゃんの問いに答えると、嬉しそうに笑ってくれた。


「だいぶ人懐っこくなりましたね」


 首だけで後ろを振り返って誠さんに言うと、


「ああ。だが、ここまで明るくなったのは初めてだ。俺のことも味方だと認識してくれているようだが、ここまで笑ってはないからな」


 眼鏡をくいっと上げて誠さんは言った。


「助けてくれたリ。二人とも好きリ」


「スピリアちゃん……!」


 私は思わず目をウルウルさせてしまう。


 満面の笑みを浮かべるスピリアちゃんは、初めて会った時とは大違いで、感情が豊かになっていた。


「あ、あのヒトらちはどこ行ったリ? またみんな怪我したら嫌リ」


 私の制服のお腹の部分を数回引っ張って、スピリアちゃんは不安そうに尋ねた。


「え? あの人達って?」


 スピリアちゃんを見下ろして聞き返すと、


「ハイト達のことだ。実は毎日聞いてくるんだ。多分不安なんだろうな」


 誠さんが手に腰を当てて言った。


「そうなんだ……」


 一vs三でとても恐い思いをしたんだから当たり前だよね。


 いっぱい怪我したし、痛くて辛かったんだもんね。


「勿論、奴等は吸血鬼界に送り返した。それに奴等を捕獲していた檻に連れていって奴等が居ないことも彼女の目で確認させたんだけどな」


 スピリアちゃんも頭では分かっているはずだ。


 それでもあの時の恐怖がフラッシュバックして、急に不安になってしまうんだろう。


「大丈夫。もう居ないよ。誠さんが吸血鬼界に送り返してくれたから、心配ないよ」


 スピリアちゃんの肩にそっと手を置き微笑むと、スピリアちゃんは少し不安そうにしていたけど、すぐに笑顔を取り戻して安心したように頷いた。


「ありらとうリ、ユキ」


 そして私の腰に抱きついてきた。


「スピリアちゃん……」


「一応あと数日でスピリアも吸血鬼界に返す予定なんだが、なかなか引き取り先が見つからなくてな」


 誠さんがスピリアちゃんを見つめながら吐息。


「家族が居ないってことですか?」


「この子の種族は数年前に壊滅させられているんだ。だから仮に送り返してもその後自力で過ごさないといけなくなる」


 おでこに手をやって誠さんは絞り出すように言った。


「こんなに小さいのに……」


 スピリアちゃんは今も私の腰に抱きついて気持ち良さそうに顔を擦り寄せている。


 彼女の将来が心配になりながら、私はずっとスピリアちゃんの頭を撫でていた。

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