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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第四章 宿命の吸血鬼編
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第81話 知ってる

「それにしてもユキ、生身で吸血鬼達に立ち向かったなんて凄いじゃないか」


 まことさんが出て行った後で、イアンさんが顔を輝かせた。


 正面に座っているミリアさんもうんうんと頷いてくれている。


「えっ? あ、どうしてもスピリアちゃんを助けたくて……」


「勇敢で素晴らしいです」


 ミリアさんも満面の笑みでそう言ってくれた。


 ま、まさか褒めてくれるなんて……。


「あ、ありがとうございます。でも本当に助けてくれたのは誠さんなんです。私はただ向かっていってボコボコにされただけで」


 穴に埋まりたい。恥ずかし過ぎる。


 そもそも運動神経もあまり良くない私が吸血鬼相手に戦えるわけがないのだ。


 でもあの時はスピリアちゃんを助けるのに夢中で……。


 結局助けられたのか助けられなかったのか微妙な所ではあるけど。


 はぁ、もっと運動神経鍛えなきゃなぁ。


「そのスピリアってどんな子なの?」


 イアンさんが尋ねてきた。


「とても可愛くてよく懐いてくれました。ちょっと言葉遣いがたどたどしいけど、そんなに小さくはなさそうに見えました。多分キルちゃんと同じくらいか、それよりも下だと思います」


 桃髪の吸血鬼、キルちゃんは人間でいうと小学校低学年くらいの容姿をしている。


 スピリアちゃんも背丈はキルちゃんと変わらないくらいで、違う所と言えば言葉がたどたどしい所くらいだ。


「へぇ。キルと同じくらいか。だったらキルが知ってるかもね」


「はい!」


 キルちゃんが知っていれば、スピリアちゃんについても分かるはず。


「ただいまー」


 そう考えていると、ドアがガチャリと開いて、キルちゃんとレオくんが訓練から帰ってきた。


「お帰り、二人とも」


「お帰りなさいませ、キル様、レオ様」


「お帰りなさい」


 イアンさん、ミリアさん、私が順番にお出迎え。


 二人は私が来ていることに一瞬驚いたように目を丸くしたけど、すぐに表情を緩めて、


「ユキも来てたんだ! やっほー!」


「久しぶりだな」


「うん! 二人とも訓練お疲れ様」


 私が言うとキルちゃんはため息をついた。


「本当よ。だってレオ休憩しようって言ってもなかなか許してくれないんだもん」


 ベッドにドサッと腰を掛けてキルちゃんがレオくんを上目遣いで小睨みすると、


「仕方ないだろ。俺達には休んでる暇は無いんだ。実際の戦闘の時だって疲れたからって休めないんだぞ」


「そうだけど、今は練習なんだから休ませてよ。真面目過ぎ」


「確かにレオ様はいつも真面目でいらっしゃいますが、たまには肩の力を抜いてリラックスすることも大切ですよ」


 言い合う二人を微笑ましそうに見つめながら、ミリアさんがレオくんに言った。


「分かってますけど……俺達には一刻の猶予も無い。いつまた天使達が襲ってくるか分からないじゃないですか」


 レオくんはミリアさんの忠告を受け入れながらも、不満げに言う。


 この間の天使達との戦闘で、イアンさん達鬼衛隊は危うく負けるところだったのだ。


 それをブリス陛下とその秘書のテインさんに助けてもらったことや『もっと強くなろう』と言ったイアンさんの言葉を、レオくんは今でも目標としているのだろう。


「大丈夫だよ」


 俯いていたレオくんが顔を上げると、イアンさんがにっこり微笑んでいた。


「キルもレオも毎日訓練を重ねて、前より確実に強くなったはずだ。ミリアも戦闘力を磨いてくれてる。もし今度天使達が襲ってきても、今の僕達なら迎え撃てるよ」


「隊長……」


 レオくんはそれを聞いてやっと安心したように口角を上げた。


「それで改めて二人に聞きたいことがあるんだけど」


 パチンと両手を合わせて、重い空気を変えるべくイアンさんが言った。


「聞きたいこと?」


「何ですか?」


 キルちゃんとレオくんが同時に尋ねる。


 イアンさんは二人に頷いて、私がさっき話したことをもう一度話してくれた。


 私達はもう一度ダイニングテーブルに集まった。


 ※※※※※※※※※※


「すみません、隊長。俺は知らないです」


 話を聞き終えたレオくんは申し訳なさそうに言った。


「いや、良いよ。マコトくんにも調査はお願いしてるから。まぁ、後は僕達に任せてって言っちゃったけど」


 頭を掻きつつ、イアンさんは情けなく笑う。


 私もミリアさんもレオくんも、そんなイアンさんを見て思わず笑ってしまった。


 でもその場で一人だけ笑わずに顔を強ばらせているメンバーがいた。


 キルちゃんだ。


 キルちゃんは笑う私達には目もくれず、ただ自分のふくらはぎを見つめて俯いていた。


 その上で固く握りしめられた拳が小刻みに震えているのは、隣に座った私しか見えなかった。


 どうしたんだろう、キルちゃん。何かあったのかな?


「キルちゃん……?」


 私がそっとキルちゃんを呼ぶと、彼女はハッとして引きつった笑顔を見せた。


「ごめん、大丈夫よ」


 震えている肩と手、それに無理矢理の笑顔。


 どう見ても大丈夫じゃない。


「キルはどう?」


 『スピリアや三人組について知ってる?』と、イアンさんはキルちゃんを見つめた。


「うん、知ってる」


 張り付いた笑顔を作りながら、キルちゃんは言った。


「ハイトとスレイとマーダ、私の昔の仲間なの」

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