第75話 皆知らなかったの!?
「お、おい! 村瀬! もしかしてあいつらを追いかける気か⁉︎」
脇道を這い上がって、三人の吸血鬼を追いかけようとした私の肩を掴んで、風馬くんが尋ねた。
「うん、だって旅館の方に向かってるから。もしスピリアちゃんが見つかったらきっと連れて行かれる」
あの吸血鬼達が人間界に来て最初に放った言葉がスピリアちゃんの隠れ場所だったことから考えて、おそらくスピリアちゃんはあの三人から逃げて人間界に降りてきたのだろう。
あの三人からは、少なくともスピリアちゃんに対する優しさのようなものは見受けられない。
つまり、あの三人がスピリアちゃんを見つけてしまったら間違いなく彼女の命が危ない。
「待つんだ村瀬」
それでも風馬くんは私を止めようと掴んだ肩を離さない。
「何で止めるの? スピリアちゃんが危ないんだよ?」
「それは俺も分かってる。でも村瀬が今行ったら、旅館にスピリアが居るってバレるだろ」
それを聞いて私はハッとなった。
確かにそうだ。私が今旅館に向かったらスピリアちゃんが旅館に隠れていることもバレてしまうかもしれない。
三人が私達を見かけて、その私達が旅館に向かったら『もしかして』と思われてしまう可能性も無いわけじゃない。
そうなったら一環の終わりだ。
「じゃ、じゃあここでじっとしてるしかないってこと?」
「いや、それもかえって危険だ。今はあいつらに見つからないようにこっそりバーベキュー会場に向かおう。あいつらが絶対に旅館に向かってるとも限らない」
そ、そうだ。私達、まだバーベキューの途中だった!
「う、うん! 分かった!」
風馬くんに頷いて、三人にバレないように脇道を登って山道に立ち、バーベキュー会場へと足を運んだ。
「柊木! おっせーぞ!」
綺麗な焦げ色をしているお肉にかぶりつきながら、藤本くんが風馬くんに向かって手を振った。
「ごめんごめん」
風馬くんも手を挙げて謝り、空いていた席に腰を掛けた。
私もそっと風馬くんの横に座る。
「二人でデートでもしてきたわけ?」
声がして私は右を向いた。
思わず『うえっ!』と声をあげてしまいそうになるのをすんでのところで抑える。
運悪く私が座った席は逆隣が後藤さんだったのだ。
長いツインテールを指でかきあげて、お肉のタレが付かないように慎重に口へ運んでいる。
いつも通りだけどその顔には優しさの欠片もない。
私は後藤さんの顔をおそるおそる覗き込むようにして、
「で、デートなんかじゃないよ。風馬くんは私のこと迎えに来てくれただけで別にそん」
「ふーん」
すべて言い終わる前に後藤さんはフンと喉を鳴らした。
「ご、ごめんなさ――」
「別に謝ってほしいわけじゃないから」
「あ、はい。ごめんな――」
「あと、気安く話しかけないで」
「は、はい……」
やっぱり後藤さん、ものすごく怒ってる。
私に対して厳しかったり態度がキツかったりするのはいつも通りだけど、今日はやたらとご立腹の様子。
もしかして私が風馬くんの手を煩わせちゃったから、その事を怒ってるのかな。
でも気安く話しかけるなって言われたから、何で後藤さんが怒ってるのか分からない。
でもとりあえず、私にはやらなければならないことがあるんだ。
「み、皆さん!」
椅子を引いて立ち上がり、班のメンバー達を見た。
風馬くんは不思議そうに、その他は怪訝そうに私を見る。(見てない人もいるけど、耳だけは私に貸してくれていると思いたい)
「さ、さっきは、一人でここを抜け出して、皆さんに迷惑をかけてしまって本当にごめんなさい」
深々と頭を下げた。
皆からの反応はない。
怖い。もしかしたら物凄い形相で睨まれているかもしれない。
目を瞑って噛み締めた唇を震わせながら、私は頭を下げ続けた。
「良いよ」
不意に声がした。
顔を上げて横を見ると、風馬くんが優しい笑みを浮かべてくれていた。
「皆も良いよな?」
風馬くんが、班のメンバーを見回しながら確認を取ってくれる。
「良いもなにも、お前が途中からいなかった事自体、俺ら知らなかったんだけど」
藤本くんが髪を掻きながら言った。
その言葉を受けて後藤さんも、他の子達も真顔で顎を引いた。
「「えっ……?」」
予想外の返答に、私も隣の風馬くんも一言絞り出すしかない。
誰も、私がバーベキュー会場出ていったこと知らなかったの!?
気付いて追いかけてくれたの風馬くんだけ!?
私、どれだけ存在感ないの……?
「あ、そ、そうでしたか……。皆、知らなかった……。まぁ、でも、結果的に風馬くんには迷惑をかけてしまったので」
「じゃあ二人だけの時に謝れよ。いちいち俺達の食べる時間潰すな」
風馬くんの方に向き直り、改めて謝罪をしようとしたところを、鬱陶しそうに藤本くんに遮られた。
「あ、そ、そうですね。すみません」
ペコリと一礼して私はすごすごと席に座る。
何、この予想を斜め行くような展開は!?
私がひとりぼっち……というか、風馬くんしか友達がいない状況を考えたら当然の結果だったのかもしれないけど。
それにしても悲しすぎる……。
私は鼻をすすりながらお肉をパクリと食べた。
「大変だぁ! 何かいるぞぉ!」
その後、生徒のただならぬ声がバーベキュー会場に響き渡ったのは、私達が無事に昼食を終えて旅館に戻ろうとしていた時だった。




