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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第三章 夏合宿編
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第73話 迷惑

「ハァ、ハァ、ハァ……」


 どれくらい走ったんだろう。息が切れて立ち止まり、膝に手をやって息を整える。


 やっぱり坂道を走って登るのは簡単じゃない。


 流石に道の真ん中で立ち止まるのも何だか悪い気がして、私は脇道へと降りていった。


 崩れかけた岩がたくさんあって土肌がむき出しになっていたけど、幸いにも人が座れそうな窪みがいくつかあった。


 そのうちの一つに座って思わずため息をこぼす。


 バーベキューは私に与えられた試練だって分かってたから頑張ろうと思ったのに。


 またこうして逃げてきてしまった。


 何でいつも逃げてばかり、人に迷惑かけてばかりなんだろう。


 せっかくの楽しいバーベキューだったのに、私のせいで台無しにしてしまった。


 私にとっては他の人と喋るのはキツいけど、皆にとっては当たり前だ。


 何より私が越えないといけなかった壁なのに、また回れ右をして遠ざかってしまった。


 こうして勝手にバーベキュー会場を抜け出して……。


 私一人の身勝手な行動のせいで、また皆に迷惑をかけてしまった。


 頑張ろう、頑張るしかないって、そう思ったのに……。


 全然自立出来てない。まだ甘えてる。


 今までもずっと吸血鬼界に甘えてばかりで、このままじゃ駄目だ、離れようと決意しても結局また吸血鬼界に頼ってしまった。


 久しぶりに人間界の事を話した時にイアンさんが吸血鬼界からの自立を提案してくれた時のことがふと脳裏をよぎった。


 ――人間界に楽しみを見出せている今のユキなら大丈夫だと思うよ。


 ――違う。


 吸血鬼界から離れられたのは、風馬くんが優しく声をかけてくれたから。


 彼の優しさに甘えているからだ。楽しめているのは彼のおかげだ。


 運命の巡り会わせで風馬くんがこの高校に転校してくれたおかげだ。


 私は自分では何一つ努力していない。


 席が近い子に自分から挨拶したり、優しそうなグループに声をかけてみたり。


 自分から変わる手段はたくさんあった。


 でも私は何もしなかった。自分から動くことなんてこれっぽっちもしなかった。


 もし風馬くんが転校してこなかったら、私はイアンさん達との約束も破って、何とかして吸血鬼界に行っていたはずだ。


 自力では行けないからVEO(吸血鬼抹消組織)の鈴木(すずき)(まこと)さんの力を借りたに違いない。


 また誰かに頼って、甘えて、迷惑をかけていたに違いない。


 ずっと甘えて他人を頼ることしかしてこなかった私が、誰かと約束したからって急に変われるわけがないんだ。


 実際、暫くの間、人間界で頑張ろうと思えたのは、イアンさん達の言葉があったから。


 キルちゃんもレオくんもミリアさんも、皆が背中を押してくれたから。


 決して自ら『人間界で頑張ろう』と思い立ったわけではない。


 イアンさんから提案されて初めて『頑張ろう』と思ったんだ。


 夏合宿中だってそうだ。


 行く前はおじいちゃんに『行ってきなさい』って背中を押してもらって、バスに乗った直後からバーベキューまでずっと風馬くんに気にかけてもらった。


 風馬くんだって本当は私とじゃなくて、この合宿中に仲良くなった藤本くんと同じ部屋でわいわい喋りたいって思っていたかもしれない。


 風馬くんの気持ちも知らないで、勝手にスピリアちゃんを匿うための協力者になってもらって。


 それこそ大迷惑だ。


 風馬くんが異世界の、吸血鬼の事情を知っているからって、それを良いことに。


 自分が情けない。かっこ悪い。最低だ。最悪だ。


 こんな人間だから誰も私と仲良くなろうと思ってくれないんだ。


 ひとりぼっちでも自分から変わろうと努力していたら、一クラス三十人の中の誰か一人でも振り向いてくれたに違いない。


 自分から変わる努力もせずに、全部受身で、人に頼ってばっかり。


 そんな人間と誰が仲良くなりたいって思うんだろう。


 答えは簡単だ。誰もいない。私が皆の立場でも仲良くなりたいなんて思わない。


「戻らなきゃ……」


 ただえさえ迷惑かけてばかりなのに、これ以上皆に迷惑をかけるわけにはいかない。


 ゆっくりと立ち上がり、俯いたままのろのろと脇道を登る。


 急がないといけないのにゆっくりしか前に進めない。


 絶望が、暗い気持ちが、自虐が、私を押し止めようとする。


 ――もうあんな居づらい所にいなくていいじゃないか。一人の方が何倍も楽なんだから。


 そう言うもう一人の私がいる。"悪魔の村瀬雪"が。


 その声に導かれるようにして足を止める。


 でも"天使の村瀬雪"は『行かなきゃ。皆に迷惑かけるわけにはいかない』と言う。


 その声に導かれるようにして再び足を動かす。


 視界がぼやけて足がよく見えない。頬を冷たい物が一瞬伝って地面にシミを作る。


 悔しい。怠けている自分が悔しい。何で私は変われないんだ。


「村瀬ー!」


 私はハッと顔を上げた。正面から走ってくる誰かがいる。


 涙でぼやけた誰かは私の方に駆け寄ってきた。


「やっと見つけた。心配したんだぞ、村瀬」


 涙が流れてはっきりとした視界に飛び込んできたのは、風馬くんの優しい笑顔だった。

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