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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第三章 夏合宿編
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第72話 私は大丈夫

「じゃあ、下準備が終わった班から順番に焼いていってー」


 先生の号令がかかったところで、私達もお肉や野菜を焼いていくことにする。


「まずは肉からだな」


「うわぁ、美味しそう!」


 と話しているのは班の他の子達。


 不良男子改め藤本くんを筆頭に、トングでお肉を焼き始めている。


「うぇ!? まだ野菜切り終わってないよ!」


 涙を浮かべながら玉ねぎを切っていた私。


 目が痛むせいでゆっくり切っていたけど、これじゃ絶対に間に合わない。急がなきゃ!


 瞬きをして痛みを堪え、私は玉ねぎを切るスピードを速めた。


「ゆっくりで良いよ、村瀬。肉いっぱいあるし」


 そんな私を見てか、風馬くんが声をかけてくれる。


「あ、ありがとう。でもお肉が終わったらすぐ野菜焼けるようにしておかないと」


「あんまり急ぎすぎたら指切るよ。ゆっくりで大丈夫だから」


 風馬くんはもう一度そう言うと、前方でお肉を焼いていた藤本くん達に尋ねた。


「野菜急ぐか?」


「いや、まだ肉焼いてるから良いぞ」


 藤本くんは風馬くんにそう答えたけど、野菜を切っているのが彼の隣の私だと気付いて、


「おい、ボッチ。早くしろよな」


「は、はい!」


 反射的に返事してしまった。


 ていうか、風馬くんには急がなくて良いって言ってたのに私には急げって言うんだ。


 これが好かれてる人と嫌われてる人の違い。うぅ、悲しい……。


「どっちなんだよ、藤本。あ、村瀬、ゆっくりで良いよ」


 笑いながら藤本くんを見た後で、風馬くんは私にそう言ってくれた。


「あ、うん。ありがとう」


 そうは言ったものの、とりあえず急いだ方が良いと思った。


 予想以上にお肉が早く焼き上がってしまう場合もあるし、皆に迷惑をかけたくない。


 そう結論づけて、私が玉ねぎを切るスピードを速めていると、


「藤本、本当は良い奴なんだけどな。面白いしサバサバしてるし。何で村瀬にはキツく当たってるんだろう」


 風馬くんが、班の子達と楽しそうに喋りながらお肉を焼いている藤本くんを見て吐息。


「仕方ないよ。私ボッチだから嫌われてるんだ」


「でも今はボッチじゃないだろ? 俺がいるのに」


 風馬くん……。何て優しい人なの……? しかも『俺がいるのに』なんて言われたら勘違いしちゃう。


「俺も言ったんだけどな、藤本に」


「え? 何て言ったの?」


「いやぁ、『村瀬にあまりキツく当たるなよ』って。ちゃんと返事してくれたから分かったと思ってたんだけど」


 頭をかきながら困惑した様子を見せる風馬くん。


 私のいないところで庇ってくれていたのだと思うととても嬉しい。と同時にものすごく申し訳ない。


 これで風馬くんまで酷い扱いを受けてしまったら、風馬くんに合わせる顔がない。


「大丈夫だよ、風馬くん。言ってくれてありがとう。それだけですごく嬉しいよ。でも良いの。風馬くんまで酷い扱い受けちゃったら嫌だから」


「村瀬こそ俺の心配しなくて良いんだぞ? 俺だって別に冷たくされても気にしないんだから」


「でも、私が風馬くんに申し訳ないの。私のせいで風馬くんの学校生活を台無しにしたくないよ」


 私が言うと、風馬くんは笑って言った。


「本当に優しいな、村瀬は。俺の事は心配しなくて良いよ。心配してくれるのは嬉しいけど」


「で、でも」


「おーい! 肉焼き上がったぞー!」


 私が喋ろうとすると、不意に藤本くんの声がした。


 彼は笑顔で風馬くんに手招きをしていた。多分、一緒に食べようと誘っているのだろう。


「あ、肉焼けたんだ。村瀬も行こうよ」


 風馬くんは誘われたのは自分だけなのに私にまで気を遣ってくれた。


「私は大丈夫だよ。まだ玉ねぎ切り終わってないし」


 私が行くと藤本くんも他の子達も嫌な思いをしてしまう。だから私は一緒に行けない。


「あとで良いから。先に食べよう。腹減っただろ?」


 でも風馬くんは諦めずに私を誘ってくれる。本当に大丈夫なのに。


「だ、大丈夫だ」


 ぐぅぅぅぅ。


 何でお腹鳴っちゃうの……? 大丈夫じゃないって思われちゃうじゃん!


「ハハハ、やっぱり身体は正直だな」


 風馬くんが笑って言った。


 恥ずかしい。男子の前でしかも好きな子の前でお腹鳴らしちゃうなんて。女子力の欠片も無いじゃん。


 恥ずかしさのあまり顔が赤くなってしまい、そんな顔を見られたくなくて私は俯く。


「村瀬って意外と意地っ張りだな」


 歯を見せて風馬くんが言った。


「い、意地っ張り……?」


 褒められてるのか遠回しに貶されてるのか分からない。


「ほら、行こう」


「う、うわぁ!」


 いつまで経ってもグジグジしている私の手を握って、風馬くんは金網の前へと駆け出した。


 急に手を握られて私は思わず変な声を出してしまう。


「旨そう」


 風馬くんが金網の上で良い焼き色をしているお肉を見て顔を輝かせた。


 当の私はというと……。


 気まずい。居づらい。玉ねぎ切っていたい。


 心の中で何度も何度も唱えながら肩を竦めて立っていた。


 藤本くんや後藤さんを始めとした班の子達の心の声が手に取るように聞こえてくる。


 ――は? 呼んだの柊木だけなのに何でボッチまでついてくんだよ。


 ――柊木くんに良くされてるからって良い気になって……。


 そう言いたげな顔をしている。いたたまれない。ここは退散しよう。


「あ、ごめんなさい。私、ちょっとトイレに行ってきます」


 そう言って脇目も振らずに駆け出した。


「村瀬、トイレ反対――」


 風馬くんの声も無視して。

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