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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第三章 夏合宿編
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第68話 その子から離れて

「へ? なにお前」


「もしかしてこの子の友達とか?」


「何でこいつのこと庇ってんだよ」


 勇気を出して声に出した叫びは、そんな言葉で押し潰された。


 それでも負けじと言い返す。


「だ、だから、止めてって」


「何で止めるんだよ。お前こいつの仲間か」


 再び出した声は小さくて簡単に遮られた。


 とある男子の問いかけに黙って首を振る。


「ふん。じゃあ止める意味なんか無いじゃねぇか」


「邪魔しないでくれる?」


「ウザいんだけど。なに正義のヒーロー気取ってんの?」


 その場からどっと笑いが起こる。


「で、でも」


「でも、何だよ」


 男子が私に詰め寄ってきた。突然目の前に現れた顔に思わず目を瞑ってしまう。


 そんな私を男子は鼻で笑って、


「ビビってるくせに。とっとと失せろ」


 失せられるわけないじゃない。スピリアちゃん、怖がってるのに。


「その子から離れて……」


「はぁ!?」


 その男子の眉が思いっ切り吊り上がる。鋭い目で私を睨みつけて男子は言った。


「お前こそ俺らから離れろよ」


 運が悪かった。私に突っかかってきた男子は気性が荒くて性格もキツい、まるで不良のような子だったのだ。


 言葉と一緒に胸ぐらを掴まれたせいで浮遊感に襲われる。


「くっ……!」


「転校生に媚び売って調子乗ってんじゃねぇぞ」


 目と鼻の先という近さまで顔を近寄せて、その子は言った。


「邪魔なんだよ」


 そのまま突き飛ばされて尻もちをつく。


 転けた私を見て、またその場から笑いが起こった。


「私のことはどれだけ言ってもいいけど」


「ああん⁉︎」


 周りと一緒になって笑っていた男子が目だけで私を見下ろす。


 片方だけ大きく見開かれた瞳に背筋が凍るような寒さが走る。


「そ、その前にその子から離れて!」


 心からの願いだった。必死の叫びだった。


 スピリアちゃんさえこの人集りから脱出できればそれで良い。


「だーかーらぁー。お前が消えろって言ってんだろこっちは!」


 それでも突っかかってくる男子含めた野次馬は全然スピリアちゃんから離れてくれない。


 こうなったら……。


「っ!」


「いってーだろが!」


 思いっ切り男子の身体にぶつかってスピリアちゃんの方へ走る。


「どいて!」


 スピリアちゃんを囲んでいた周りの皆に向かって叫びながら、スピリアちゃんを抱きかかえて一気に旅館まで走る。


「てめぇ、あとで覚えとけよ!」


 男子の怒号が後ろから聞こえてきた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」


 息が苦しい。たった数百メートルの距離を全速力で走っただけなのに息が荒くなった。


 でも皆からは何とか抜け出せた。これでもう大丈夫だ。


 恐怖で涙目になっているスピリアちゃんを下ろして彼女の頭を撫でる。


 ふさふさの水色の髪がとても気持ち良い。


「手荒な事しちゃってごめんね。スピリアちゃんが怖がってるから助けなきゃって思っちゃって」


 おそらくスピリアちゃんは、自分に駆け寄ってくる私のことも怖かったはずだ。


 自分を連れて行こうとした張本人にいきなり抱きかかえられて、ここまで連れてこられたんだから。


 スピリアちゃんは両手を胸の前で組んだまま私を見上げていた。


「怖かったよね。でも、もう大丈夫。私も何もしないから、スピリアちゃんの好きな所に行って良いからね」


 スピリアちゃんの頭から手を離して微笑む。


 それでスピリアちゃんがどこかに逃げて行くだろうと思っていたから。


「――――」


 でもスピリアちゃんは黙ったまま俯いて立っていた。


「どうしたの? 山に戻って良いんだよ。あ、一番良いのは吸血鬼界だと思うけど。でもごめんね。私、吸血鬼界に連れて行ってあげられないん」


 小さな衝撃を受けて私は後ろに二歩ほど後ずさる。


 スピリアちゃんが私のお腹に手を回して抱きついていたのだ。


「ス、スピリアちゃん……?」


 どうしたんだろう。まさか、皆が追いかけて来た?


 そう思って辺りを見回したけど、誰もいない。


 暗闇で見えにくいから頑張って目を凝らしたけど、それでも人のいる気配は無かった。


 じゃあどうして……? あ、もしかして、暗闇が怖いのかな。


「スピリアちゃん。夜怖い?」


 スピリアちゃんは私の胸に顔を埋めたままフルフルと首を振った。


 暗闇が怖いわけでもない。じゃあ何でいきなり抱きついてきたんだろう。


「何かあるんだったら教えて。私があなたのこと守るよ」


 それでも首を振るばかりのスピリアちゃん。


 もう一度周囲を確認するけど、人やそれ以外の物の気配も感じない。


 耳を済ませても聞こえてくるのは、夜風に吹かれて揺れる山の木々の音だけ。


 一体、スピリアちゃんが何を怖がっているのか私には分からなかった。


「――リ」


「え?」


 スピリアちゃんが私の胸の中でもごもごと声を発した。


 私がスピリアちゃんを見下ろすと、彼女も私の胸から外した顔を上げて、


「ありらとうリ」


 そう、笑顔で言ってくれたのだった。

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