第66話 はじめまして
「うわぁ……! 綺麗……!」
夏の日差しを受けてキラキラと輝く青い海に、私はキラキラと目を輝かせた。
あれから何とか海水浴場まで辿り着けた私達。
予想以上の大移動で疲れ切っていたけど、目の前に広がるのは青く透き通った綺麗な海。
たちまち疲れも吹き飛んで元気になった。
「ハハッ、村瀬、可愛いな」
海を見て目を輝かせている私を見て、風馬くんが軽く笑った。
「だって、海だよ海! それに思ってたよりもすっごく綺麗なんだもん!」
毎年夏になったら海水浴場は人で溢れかえるというのはずっと聞いていたから、海といえば少し汚れているようなイメージがあったのだ。
でもここは全然違う。本当に毎年人が使っているのか疑いたくなるくらい綺麗だ。
……ん? 風馬くん、さっき私のこと『可愛い』って言ってくれた?
ふと我に返ってさっきの風馬くんの言葉を思い返してみる。
『ハハッ、村瀬可愛いな』
……言ってた。ストレートに言ってくれてた。恥ずかしい。か、顔が熱い。
思わず顔を覆ってしまう。
「え? 村瀬大丈夫か?」
驚いた風馬くんが心配してくれた。
「うん、大丈夫。大丈夫だよ、風馬くん」
ものすごく小声で早口で喋る。
だって私の頭の中では風馬くんのあの言葉がグルグルと回っていたから。
『可愛いな』
キャー‼︎‼︎‼︎ 風馬くん優しすぎる!
こんな私に『可愛い』って言ってくれるなんて!
やっぱり恥ずかしいよ……。
いや、寧ろ嬉しさの方が勝つんだけど、でもやっぱり『可愛い』なんて言葉、私には似合わない。
それに風馬くんが気を遣ってくれているだけであって、それは本心じゃないわけだから……。
「村瀬、本当に大丈夫か?」
風馬くんに肩を叩かれて私は『雪ワールド』から現実世界に戻ってきた。
そして自分が頬に両手を当てていることに気付く。その頬が火照っていて熱いことにも。
なんと、さっきの心の声である『キャー‼︎‼︎‼︎』から『それは本心じゃないわけだから……。』までをしっかりアクション付きで風馬くんに披露していたのだ。
恥ずかしい。さっきとは別の意味でものすごく恥ずかしい。
何やってるの私。
いくら海が人生初体験だからって、風馬くんに『可愛い』って言ってもらえたからって、あからさまにドン引きされるような事したら駄目に決まってるじゃない。
本当に何をやってるの私。
まだこの海水浴場が貸切だったから良かったけど、他のお客さんもいる時だったら、もっと大勢の前で恥かくことになってたんだよ。
本当に本当に本当に何をやってるの私!
あぁ、穴があったら入りたい。穴が無くても何とか掘って埋まりたい。
「と、とりあえず、ビーチバレーしようぜ」
風馬くんが持っていたビニールボールを掲げて言った。
「あ、う、うん!」
日差しを受けたせいで熱すぎる浜辺を走り、私達はバシャバシャと海の中へ。
その後は風馬くんが持って来てくれたビニールボールでバレーボールをしたり、浜辺にある小さな出店で寛いだりと、とても有意義な時間を過ごすことができた。
そして自由行動時間の終了まであと十分を切ったところで、再び旅館に帰ることにした。
「楽しかったな」
「うん。結構はしゃいで疲れたよね」
そんなたわいもない会話をしながら山道を下っていく。
行きと違って下りだから疲れている体に鞭を打たずに済んで良かった。
そんな事を考えていると、
「村瀬! あそこ」
風馬くんが山道の脇を指差して言った。
「え?」
その先を見て私は驚愕した。
なんと、そこにいたのは私達が行きに見た水色の髪の毛の女の子だった。
体操座りをしている彼女は、山道を駆けずり回っていたのか、その顔と体は泥まみれだった。
黒いマントも擦り切れていて穴が目立っている。
そんな彼女は涙目で自分の膝小僧を見ていた。
走っている途中で転けたのかは分からないけど、怪我をしていて血が滲んでいた。
「大丈夫?」
一瞬声をかけようか躊躇したけど、気付けば女の子に近付いていた。
「あ、村瀬!」
風馬くんの声が聞こえたけど、その足を止めずに女の子の元へ歩いていく。
山道を外れた所は険しい岩と小さな崖がたくさんあって、足を滑らせたらそのまま真っ逆さまのような場所だった。
女の子はそんな崖だらけの窪みの所に座っていた。
私に気づくと、その子はまるで動物の威嚇のように白い牙を見せて唸った。
「だ、大丈夫だよ。怖くないから。私、あなたを助けようと思って来たの」
足場になる窪みにしゃがみ込む。
手を差し出すと、女の子は余計に膝を抱え込んでしまった。
人間が怖いのかな。でもだからってほっとけない。
「ここにいると危ないから上に登ろう。落ちちゃうよ」
女の子はブンブンと首を振るばかり。
「私、雪っていうの。あなたは?」
服装や牙を見てもこの子が吸血鬼なのは一目瞭然だ。
ここはまず仲良くなるところから始めないと。
「……スピリア」
小声で、吸血鬼――スピリアちゃんはそう名乗ってくれた。




