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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第三章 夏合宿編
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第65話 走り去った少女

 そしてあっという間に夏合宿二日目がやってきた。


 二日目の予定と言えばお昼からの海水浴だ。


 私はとてもワクワクしていた。


 何故なら、今回が人生初海水浴だから!


 元々おじいちゃんと一緒に暮らしていたというのもあって、夏休みなどの長期休暇中にどこかに遊びに行くという事もしてこなかった私。


 だから『海水浴』という言葉こそ何度も聞いていたものの、実体験としては初めてなのだ。


 胸の高鳴りが抑えられず、ついには鼻歌となって表に出てしまう。


 部屋で海水浴のための荷物整理をしていた風馬くんが、


「村瀬、何か機嫌良いな」


「うん! 私、海水浴初めてなんだ」


「えっ⁉︎ そうなんだ」


 案の定、風馬くんも驚いている。


 そりゃあそうだよね。高校生で海水浴が人生初体験なんて人もなかなか珍しいと思う。


「じゃあ今日は思いっ切り楽しめるな」


 満面の笑みを浮かべて風馬くんが言った。


「うん!」


 風馬くんの笑顔につられて私も笑顔で頷いた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「だいぶ暑くなってきたよな」


 汗が垂れる顔を拭い、風馬くんが燦々と照りつける太陽を見上げた。


「そうだね」


 私も手をうちわ代わりにしてパタパタと扇ぎながら同意する。


 今は六月後半だけど、実際は『夏』と断言して良いほど気温が上がってきていた。


 山中だからなのか、遠くからセミの鳴き声も聞こえてくる。


 このせいで真夏は余計に暑さを感じるから私はあまり好きではないのだ。


 今、私達は旅館を出てずっと山道を上っていっている。


 この先にお目当ての海水浴場が設置されているらしい。


「山道って結構しんどいね」


 息を切らしながら、だいぶ急な坂を上っていく。


 暑さと体力不足のせいで、まだ海水浴場すら見えていないのに私はすっかりバテてしまった。


 一度立ち止まって息を整える。流石にノンストップで上っていくのは体力的に厳しかった。


「頑張れ、村瀬。人生初の海なんだから」


 風馬くんが優しく応援してくれた。


「ありがとう、風馬くん。頑張るよ」


 何て単純なんだろうと自分でも思うけど、風馬くんに応援してもらうと急に元気が湧いてきた。


 よしっ! 人生初海水浴!


 気合を入れて足を踏み出す。


「おっと!」


 再び歩き出した私はまたすぐにその足を止めた。


 目の前を何かが猛スピードで通り過ぎていったからだ。


「なに今の」


「速すぎて見えなかったけど、水色の髪の毛の女の子みたいだったぞ。あと黒マント羽織ってた」


 風馬くんが、左側――山の頂上へと続いていく険しい道を見上げながら言った。


 私はビックリしすぎて大まかな特徴すら分からなかったけど、風馬くんは冷静に見ていたらしい。


 今、私たちの目の前を通り過ぎていった物の正体を事細かに教えてくれた。


「女の子?」


「髪の毛割と長かったし、多分女の子じゃないか? 村瀬と同じくらいの長さだったと思う」


 風馬くんが私を少しだけ見下ろして言った。


 私の髪型はちょうど肩につくくらいのボブヘアー。それと同じくらいに見えたって事は多分女の子かな。


「でも、こんな山に女の子って」


「うん。俺も変だとは思うけど」


 今、この山にいるのは夏合宿に来た私達だけ。先生からは他の高校も来るなんて事は聞いていない。


 つまり考えられるのは、さっき走り去っていった女の子は高校生以下の年齢ということだ。


 しかも背丈も私の胸あたりだったような気がするから、ざっと計算しても130cmくらい。


 こんな真昼に130cmくらいの女の子が山の中を彷徨いているなんて聞いた事もない。


 それに風馬くんが言うには、その子の髪の毛は水色。明らかに普通の子ではないのは確かだ。


「その子の髪の毛、水色だったんだよね?」


 念のため、風馬くんに聞いてみる。


「うん。水色っぽい色だったぞ。間違っても黒じゃなかった」


「誰なんだろう」


 小学生くらいの女の子が髪の毛を染めているとも考えにくい。


 仮にそこまでグレていたとしても山道を駆け上がるなんて事はしないはず。


 あともう一つ、風馬くんが言っていたその子の特徴は、


「黒いマント……?」


 風馬くんは私の問いかけに頷いて、


「完全に服とは別だったから間違いない。布みたいにペラペラだったし」


 『黒いマント』と聞いて私には心当たりがあった。


 今まで散々目にしてきた姿。


 あまり言葉には出していないけど、イアンさんたち吸血鬼と同じ姿だ。


 イアンさんたちも黒いマントを羽織っている。


 もしかしたら、人間界に迷い込んでしまった吸血鬼なのかもしれない。


 私はそんな当たりをつけた。


 でもこれは風馬くんには言わない方が良い。もう巻き込みたくない。


「とりあえず海行こう。自由時間が無くなっちゃう」


「あ、あぁ、そうだな」


 こうやって立ち止まって考えていても拉致があかない。


 思いっ切り海水浴を楽しんでからでもあの子の推測は遅くない。


 私達は、思考を巡らせている間にだいぶ回復した身体を動かして山道を上っていった。


 目指すは海水浴場。私の人生初、夏イベントの地だ。

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