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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第一章 出会い編
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第7話 久しぶりの人間界

「着いたぞ」


 隣で誠さんの声がして、私はゆっくりと目を開けた。


「……あ」


 私の目の前には白い壁があって、さっきまでのイアンさんたちの姿もない。


 どうやら人間界に帰ってきたみたいだった。


 ふと足元を見てみると、吸血鬼界にあったのと同じ模様の魔法陣が床に深く刻み込まれていた。


「どこか身体に異常はないか?」


 いつのまにか、スーツに着替えた誠さんが私の方を見ていた。 


 そして、私はまだ魔法陣の上に乗って呆然と立っていたことに気づく。


「あ! す、すみません……」


 急いで降りなきゃ!


 でも急ぐあまり足がもつれ、私の身体はガクンと下がり、床がどんどん近づく。


 ……あれ?


 床に直撃するはずだった私の身体は、途中で止まっている。


 もしかして……!


 見上げると、誠さんが私を支えてくれていた。


「大丈夫か? 全く、落ち着きがないぞ」


「は、はい! すみません!」


 私は急いで飛びのいて首が折れるほど頭を下げた。


「ほら、鞄だ」


 何百回頭を下げ続けただろうか。


 ふと、誠さんが私の目の前に制カバンを差し出してくれた。


「あ、私の制カバン。ありがとうございます」


 お礼を言って、私は制カバンを受け取った。


「早く行ってこい。今はニ時半だが、間に合うか?」


 腕時計を見ながら、誠さんが尋ねてくれた。


「はい、ギリギリ五分でも六時間目は受けられそうです」


「そうか、なら良かった」


 誠さんはそう言って眼鏡をクイッと上げると、


「早く行った方がいいが……そういえばここから学校への道はわかるか?」


 誠さんの問いに、私は首を横に振った。


「そうか……。じゃあ仕方がない。俺の車に乗れ。学校の名前さえ教えてもらえれば送っていける」


 そう言うが早いか、誠さんはポケットから鍵を取り出してリモコンのボタンで操作し、出口の外に停めてあった白い車の鍵を開けた。


「え? 良いんですか!?」


 私はびっくりして、外に出ようとする誠さんを追いかけて聞いてしまう。


 だってまさか、そんなこと言われるなんて思ってなかったし……!


 何より申し訳ない。見ず知らずの私のために誠さんの貴重な時間を削らせてしまうことになると考えると、素直に頷けるわけがないのだ。


「何をしてるんだ。早く乗れ」


 私がハッと顔を上げると、誠さんはもう車の運転席に座って助手席の窓から私を見ていた。


「は、はい!」


 私は制カバンを肩にかけ、急いで誠さんの車に乗り込んだ。


 車はそのままエンジンをふかして私の学校へと急発進した。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 ピーンポーンパーン。


 最悪だ……。


 私はチャイムの音を聞きながら、下駄箱でため息をついた。


 せっかく誠さんが急いでくれたのに、私がもたもたしているせいでだいぶ時間をロスしてしまっていたようだ。


 下駄箱に着くと同時に、六時間目の授業が終わるチャイムが私の到着をあざ笑うかのごとく元気に鳴り響いた。


 それでも終礼は出席しないと流石にまずい。


 みんなからどう思われるかは置いといて、先生にちゃんと理由を説明しなければならない。なぜ、私が授業を受けられなかったかを。


 それでも、遅れて教室に入るときの気まずさが私は大の苦手だ。


 で、でも仕方ないじゃん! ちゃんと頑張らなきゃ!


 大きく深呼吸をして私は教室に向かう。


 ドアを開けると、クラスメイトと先生の視線が一斉に突き刺さった。


 うぅ……。やっぱり怖い……。


 私は肩をすくめて、すごすごと自分の席に向かった。


「村瀬さん、何でこんな時間に来たの? 今日は普通に平日でしょ?」


 先生に聞かれた。当然だ。何で終礼の時間になって来たのか謎に決まってる。


「あ、あとでちゃんと理由言います……」


 みんなの視線に足がすくみながらも、先生にそう伝える。


「そう。……わかったわ」


 先生は渋々頷いてくれた。理解力あって良かった……!


 でも問題は……。


「ねぇ、何でみんなの前で理由言わないわけ?」


 終わりの始まり……。


 私の後ろの席で、なおかつAクラスの学級委員長である後藤(ごとう)さんが尋ねてきた。


 後藤亜子(あこ)。私が最も苦手としている人。


 私が変わろうと思って声をかけようとしてた時に、それを難なく阻止してきた人だ。


「ねぇ、何でよ」


 学校行事などの案内のプリントが配られていくんだけど、私が後藤さんに手紙を渡すタイミングで、しつこくネチネチ聞いてくる。


 た、確かに私が悪かったけど……。


 よりによって後藤さんに何回も聞かれるなんてたまったものじゃない。


「え、えっと……」


 それでも無視はダメだから何か答えなきゃ!


 私が必死にまともな理由を探していると、


「へぇ〜! 言えないんだ!」


 みんなにも聞こえるような大きな声で後藤さんは言った。


 ち、違うのに! 苦手な人の前で緊張して、上手く言葉に出せないだけなのに!


 また皆の視線が私に集中する。しかも冷たい視線。怖い……。


「こら、そこ! 喋らない! 終礼中は静かにって言ってるでしょ」


 先生の怒鳴り声が響き、少しざわついていた教室が静まり返った。


 後藤さんは先生に怒られて唇を尖らせるだけだったけど。


「終礼終わったら私のとこ来て」


「はい」


 先生の言葉に私は頷き、ひとまず席に座って終礼が終わるのを待った。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「さてと、で、どうしてこんなに遅刻したの?」


 終礼が終わって、私と先生は校内の質問コーナーを借りて話を始めた。


 私がどうしてあまりにも大幅な遅刻をしたかという理由を言うためだった。


「え、えっと、朝は普通に家を出たんです。でも信号待ちしてたらイアンさ……」


 明らかに先生が怪訝そうな顔をする。


 これは信じてくれてないな……。


「え、えっと、吸血鬼たちに会って死にそうになったところを男の人に助けていただいて、巻き込んでしまったお詫びにって吸血鬼たちの国に連れて行ってもらって……」


「要はサボりね」


「え!? ち、違います!」


 出来ることならサボりたいですよ! と言いそうになるのを何とか堪える。


「だって、この世に吸血鬼の国とかないじゃない」


 確かに……! だって向こうはこの世じゃなくて()()()ですから……!


「私もそう思ってたんですけどあったんです!」


「まぁ、最後まで聞くわ。それで?」


「そ、それでその吸血鬼の世界に天使の軍隊が来て……」


 あ、先生が眉ひそめてる! 絶対『こいつ何言ってんの?』って思ってるじゃん!


 でも確かに、天使の軍隊なんて言われて信じる人なんて居ないよね。


「キルちゃ……吸血鬼たちが戦ってる時にその、男の人に助けていただいて人間界に戻ってきました」


「随分ファンタジーな理由なのね」


 理由を全て言った後、先生がドン引きしながら一言そう言った。


 そうなりますよね! わかりますよ! 私が教師でもこんな話絶対信じないですもん! でも本当なんです!


「どっちにしろ、遅刻は許されることじゃないわ。次からは気をつけるようにね」


 先生は腕時計を見て付け加えた。


「もう下校完了近いし、このまま帰りなさい」


「は、はい。さようなら」


「さようなら」


 こうして、私は先生に変人というレッテルを貼られただろうとショックに浸りながら、トボトボと学校を後にした。


「あ、雨だ」


 下駄箱を出たところで雨が降っているのに気づいた。それもそのはず、今は六月。すなわち梅雨の時期だ。


 幸い折り畳み傘を常備していたので、濡れる心配はないのだけど。


 私は傘をさして、下校完了時刻である十八時が近いのにまだ昼みたいに明るい中、家路を急いだ。


「おお! 雪! 帰りが遅いから心配してたんじゃぞ!」


 玄関のドアを開けるやいなや、おじいちゃんがものすごい勢いで玄関に駆け込んできた。


「お、おじいちゃん……どうしたの?」


 突然のことで、若干フリーズしてしまう。


 おじいちゃんは私の両肩を掴んで、心配そうに聴いてくれた。


「大丈夫じゃったか? 何か良からぬことに巻き込まれた、とかではないよな?」


「大丈夫だよ、そんなに心配しなくても。ちょっと学校の行事関係で遅くまで残ってたの」


 流石に、吸血鬼に会ってとかいう説明はおじいちゃんにはできないから、その場しのぎで誤魔化す。


 確かに帰宅部の私は、いつも授業が終わったら真っ先に家に帰ってたから、下校完了時刻ギリギリまで学校にいたのは初めてだ。


 おじいちゃんが心配してくれる気持ちもわかる。


「ありがとう」


 とりあえず笑顔でお礼を言った。


 おじいちゃんを騙すことになってしまった罪悪感を抱きながら。


「ご飯出来とるぞ。食べるか?」


「うん!」


 私は元気よく返事をしてダイニングに向かった。


 時間的にはいつもと同じだけど、人間界やおじいちゃん、そしておじいちゃんの作ってくれた夜ご飯が、すごく懐かしく感じた。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは!お疲れ様です! 遅刻して教室へ入るときが大嫌いだという感覚、メチャクチャ分かります。私だったら休みます笑 最後の、さりげなくおじいちゃんを心配させまいとする心配り、良きです!…
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