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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第三章 夏合宿編
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第61話 おじいちゃん

 夏合宿が近くなった頃からはLHR(ロングホームルーム)の時間が増えて、主に班ごとの自由行動について決めることが多くなった。


 勿論私は同じ班の風馬くんとの絡みが増えて、内心舞い上がっていた。


 そして夏合宿が一週間後に迫った日。


「バーベキューの後の自由行動どうする?」


 いつものLHRの時間に、風馬くんが配布されたしおりの予定表を指差した。


 四日目の昼ごはんはバーベキューが予定されていて、その後のスケジュールとして班ごとの自由行動が組み込まれているのだ。


 おまけにバーベキュー用のテラスは海岸に近いから約20分程度の自由行動時間で海水浴も出来る。


 迷うなぁ。出店で何か買いながら涼むのも良いし海で泳ぐのも良いし。


 でもせっかく海に行けるんだから……。


「私、海水浴したいな」


 私がそう言うと、風馬くんはにっこり笑って言った。


「村瀬って意外とアウトドア派なんだな」


「アウトドア派ってわけじゃないよ。どちらかと言えばインドア派だけど、せっかく海に行けるんだから泳いだ方が良いかなって思って」


「確かにそうだな」


「風馬くんは何かしたい事とかある? 私ばかり希望言っちゃってるから風馬くんも希望言ってほしいな」


 風馬くんは考え込む仕草をしてからこう言った。


「ただ泳ぐだけじゃなくてビーチバレーしようよ」


 ビーチバレーかぁ。面白そう!


「うん! やろう!」


「ボールは俺が用意するよ。たまにはガキっぽく遊び倒したいよな」


 無邪気な笑顔で風馬くんが言った。


 幸い、自由行動時間に使う物について携帯やゲーム機、音楽プレイヤーなどの通信機能がある電子機器以外で特に規定はなかった。


 先生に確認すると『ボールくらいだったらOK』と言ってくれた。


 と、いうわけで、自由行動時間にやる事は決まった。


 ただ、先生の脅しも冗談じゃなかったようで、五日間の合宿のうち殆どが集中授業や補習などで埋め尽くされていた。


 思いっ切り遊べるのは自由行動の時くらい。


 もう高校生だしそれは当然なんだろうけど、やっぱり厳しいなぁ。


 隣を見ると、風馬くんも苦笑いしていた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「やっぱり高校生だから勉強メインのスケジュールだったね」


 昼休み、お弁当を食べながら言うと、風馬くんも頷いて、


「復習できるのは助かるけど、結構授業のコマが多いからキツいかも」


「そうだね」


 とは言ったものの、学生の仕事は勉強。


 こうして設定されているからにはやらなければいけない。


「でも風馬くん、成績良いんでしょ? 大丈夫だと思うよ」


「えっ⁉︎ 何で村瀬が俺の成績のこと知ってるの⁉︎」


 風馬くんに驚かれて急いで弁解する。


「いや、皆が言ってたのを盗み聞き……じゃなくて、たまたま聞いちゃって」


「ああ、何で皆知ってるんだよ。やっぱり怖いな」


 風馬くんはまた苦笑いしていた。


 私が耳にした話では、風馬くんは前の学校では学年でも上位の成績を維持していたらしい。


 ちなみに私はというと中間くらい。大体平均点の上下をうろうろしている感じだ。


 多分夏合宿の集中授業と補習でみっちりしごかれることになる部類の人間。


 地獄だよぉ……。


 私が涙を流しながら頭を抱え、それを見た風馬くんが同情の笑みを浮かべてくれていた時だった。


「村瀬さん!」


 慌てるようにして教室に入ってきた先生は、走ってきたのか息切れしながら私の名前を呼んだ。


「は、はい」


 思わず箸を置いて立ち上がると、先生が私の元まで駆け寄ってきて小声で言った。


「お爺様がお職場で倒れて緊急搬送されたらしいの。私が送るから荷物全部持って正門前に来てくれる?」


「……は、はい!」


 頷き、急いで弁当を片付けて鞄に詰め込む。


「村瀬?」


 風馬くんが心配そうに尋ねてくれたけど、


「おじいちゃんが倒れたって」


 それだけ言って教室を飛び出す。


 おじいちゃんが、おじいちゃんが倒れたなんて。


 とにかく病院に行かなきゃ!


 約束の正門に走り、先生が待っていてくださった車に乗り込んで近くの病院に向かった。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「私が受付で聞いてみるから」


 先生はそう言って受付の人におじいちゃんの病室を尋ねてくださった。


「302号室だって。行きましょう」


「はい!」


 先生の後ろから早足でついていく。


「おじいちゃん!」


 病室に入ると、看護師の人がいておじいちゃんの点滴を変えているところだった。


「おお、雪。お前学校はどうした」


 弱々しい声で酸素マスク越しにおじいちゃんは話す。


 でもすぐに私の後ろにいた先生に気付いてゆっくりと会釈した。


「学校は早退扱いになります。心配しないでください」


 点滴を変えに来た看護師さんが去った後、先生がおじいちゃんに説明をしてくれた。


「おじいちゃん、大丈夫?」


 私はおじいちゃんのベッドにパイプ椅子を寄せて座った。


「あぁ、大丈夫じゃ。ちょっと足元がふらついてそのまま行ってしもうてのう」


 情けなく笑うおじいちゃんを見て私は胸をなでおろした。


 意識不明の重体とかだったらどうしようと不安だったけど、おじいちゃんの意識ははっきりしてるし会話も出来てる。


 最悪の事態は免れたみたいだった。


「ごめんね、おじいちゃん。私のせいで働いてばっかりだから」


「何を言う。雪は高校に行かんと他にどうするんじゃ。わしが体調管理しっかりしてなかっただけじゃよ」


 おじいちゃんはそう言って私の頭を撫でてくれた。


「では、私はこれで失礼します。村瀬さん、明日は学校無理して来なくて良いからね」


「心配しないでください、先生。わしは大丈夫なんで学校は行かせます」


 会釈し、去ろうとした先生におじいちゃんは言った。


「分かりました。くれぐれもお大事になさってください。……じゃあ村瀬さん、午後の授業で宿題が出るかもしれないから友達に見せてもらってね」


 そう言って先生は病室を出て行った。


「雪、宿題は――」


「大丈夫だよ。明日先生に聞くから。おじいちゃんは自分の体調の心配してて」


 おじいちゃんはそれでも心配そうな表情をしていた。

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