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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第三章 夏合宿編
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第55話 一番最悪な解決策

「ねぇ、風馬くん」


 一緒に教室に向かう途中、私は不安になってまた質問してしまう。


「私と一緒に教室に入ったらカップルか何かだって誤解されちゃうよ。大丈夫なの?」


 クラスの皆に囃し立てられて風馬くんが迷惑を被るのは死んでも避けたいところだ。


 せっかく持ち前のイケメンで人気もあるのに、それを私のせいで無くすわけにはいかない。


「うん。行き先が同じなのに別々で行く方が何かおかしくないか? 言いたい奴には言わせとけばいいし」


 風馬くんは依然として平然と言った。私と一緒でも別に何とも思っていないみたい。


 確かに風馬くんの言い分は最もだけど、クラスの皆はそんな事分かってくれないし。


 並んで教室に入った時点で『カップルだ!』とか『ボッチがイケメンに媚び売ってる』とか言われるに決まってる。


 私は悪口言われるの慣れてるけど、風馬くんは違う。


 転校したばっかりの高校で悪口言われたら、きっとすごく傷つくし悲しいはずだ。


 風馬くんから目を逸らし、私が答えを探していると、


「じゃ、じゃあ俺が前歩くよ。それで良い?」


「あ、う、うん。……ありがとう」


 お礼が小声になってしまった。


 というか、完全に気まずい雰囲気!


 私が風馬くんと並んで歩くのが嫌みたいだ。本当は違うのに。


 でも、良いや。これで良い。二人で学校の噂になるよりも、私が風馬くんに誤解されてる方が何倍もマシだから。


「じゃあね、風馬くん」


 気まずくなった私は、教室に着くと風馬くんよりも先に教室を走り出た。


「あ、うん……」


 背中で、風馬くんの返事を聞きながら。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 正面玄関で靴を履き、まるで急いでいるみたいに私は学校を飛び出す。


 これじゃ、風馬くんに申し訳ない。


 せっかくボッチじゃない普通の子と同じ生活が送れると思ってたのに、関わり方が下手すぎるよ、私。


 何で誤解を招くような言い方しか出来ないの?


 もっと上手く喋ろうよ……。


「ユキ」


 校門を出たところで私は正面から呼び止められた。


 パッと顔を上げると、


「ルーンさん……」


 そこに立っていたのは、天界の天兵長であるルーン・エンジェラさんだった。


「少し話がしたい。王宮まで来られないか?」


 彼女はそう言って私に手を差し出してきた。


 私はその手を見て少し躊躇した。


 天界に行きたくないわけじゃない。

 でも天界に行った帰りに、ひょっと甘えが生じて吸血鬼界にも寄ってしまわないか。それが心配だった。


 でも、大丈夫。心を鬼にして。自立した女性になるためには、吸血鬼界から離れなきゃ。

 そう決めたんだから。


「分かりまし――」


「村瀬?」


 私がルーンさんの手を握り返そうとしたその時だった。


 後ろにいたのは風馬くんだった。


 彼は私とルーンさんを交互に見比べて、いかにもとんでもないものを見てしまったような顔をしている。


 マズイ……! 風馬くんに見つかった! どうしよう……。


「ふ、風馬くん……」


「誰だ貴様。ユキの敵なら容赦はせんぞ」


 ルーンさんが腰に差していた剣を手に、敵対心を露わにして風馬くんを睨みつける。


「だ、駄目です! ルーンさん! 風馬くんは敵なんかじゃないです!」


 私は急いでルーンさんの剣を下ろして訴える。


「そうなのか。それは失礼した。して、そなたは何者だ」


「ふ、風馬くんは普通の人間で」


「村瀬、こいつ誰なんだよ」


 ルーンさんに説明しようと口を開いた私を遮り、明らかに動揺した表情で風馬くんが尋ねる。


「え、えっと……」


「我は天界の天使、ルーン・エンジェラ。天兵軍を治める者だ」


「天使……?」


 風馬くんがますます怪訝そうな表情で口ごもる。


 どうしよう。どうしよう。どうすればこの場を切り抜けられる?


 今更見間違いだなんて言えない。ルーンさんも名乗っちゃったし。

 散々考えを巡らせた結果、私は()()()()()()()()を思いついた。


「ルーンさん」


 そっとルーンさんに耳打ちする。


「……そうか、本当にいいのか? こいつはお前の敵ではないのだ――」


「お願いします……!」


 ルーンさんの言葉を途中で遮って頭を下げる。今この場から離れるには()()()()しかない。


「うっ!」


 鈍い音とともに風馬くんが呻き、ゆっくりとその場に崩れ落ちる。


 鈍い音を発した風馬くんのお腹には、ルーンさんの剣の鞘が当たっていた。


 ルーンさんが剣の鞘で風馬くんを気絶させたのだ。


 そう、これが私が思いついた一番最悪な解決策。


 風馬くんを気絶させ、彼の意識がないうちに天界に行くというもの。


「参るぞ、ユキ」


「……はい」


 再び差し出された手を握りると、ルーンさんの背中から真っ白い大きな羽が生える。


「いざ、参る!」


 翼をはためかせ、ルーンさんは私を抱いて天空へと飛び立った。


 地面に横たわる風馬くんの姿が徐々に小さくなっていく。


 ――ごめんね、風馬くん。許してください。


 私は遠のく風馬くんの姿を見下ろしながら、心の中で謝罪した。


「着いたぞ」


 雲を突き抜けた先に、天界の景色が広がっていた。

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