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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第一章 出会い編
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第6話 新たな仲間としばしの別れ

「分かった! 結界は解かなくて良い! だからその子を離せ!」


 誠さんがついに根負けしたように言った。


「よかった。やっぱりマコトくんは僕の話をちゃんとわかってくれる」


 私の方に向けていた爪をしまって、イアンさんはいつもの笑顔を浮かべた。


「き、貴様……!」


「あれ? 嘘だって気づかなかった? 僕がユキを殺すわけないじゃないか」


 目を見張り、歯を食いしばってイアンさんに騙された悔しさを露わにする誠さんに、イアンさんは笑って言った。


 え? そうだったの?

 よかった……。てっきり、今まで優しく接してくれたのは全部演技なのかと思っちゃった。騙された……。


 イアンさん、本当は私を殺す気なんてこれっぽっちもなかったんだ。

 でも結界を解かない為に、わざと敵のフリをしてくれてたんだね。

 まぁ、あの時は頭が真っ白になったけど。

 やっぱり優しいな、イアンさん。


「くっ……! 俺としたことがこんな嘘に騙されるなんて!」


 ニコニコと笑ってて嬉しそうなイアンさんとは裏腹に、まだ悔しそうなマコトさん。

 すると突然マコトさんたちVEOめがけて、空から黄色の花びらが飛んできた。

 突然の花びらの出現に、一斉にその場がどよめき出す。


「だ、誰だ!」


 誠さんを筆頭にVEOのメンバーが空を見上げると、そこには黒いマントを着た女の吸血鬼が浮かんでいた。


「貴様は……!」


 誠さんが声をあげると、イアンさんやキルちゃんと同じ黒マントを羽織った女の吸血鬼が、


「お久しぶりです。VEOの皆様」


 そう言いながらストンと地面に足をついた。

 着地と同時に、黒いマントが空気抵抗を受けてふわりと舞い上がる。


「ミリア! 来てくれたんだね」


 イアンさんは嬉しそうに、ミリアと呼んだ吸血鬼に近寄っていった。


「当然です。お仲間のピンチを救うのが(わたくし)の役目ですから」


 見た感じ、大人の吸血鬼だった。

 黄色いロングヘアーがお似合いの女性吸血鬼で、牙もイアンさんと同じくらいの長さ。

 おまけに頭には白い花冠をつけていて、すらっと伸びた細い手足もとても美しい。


「あら、そちらのお方は?」


 私に気づいて、ミリアさんがきょとんとする。


「あ、えっと……」


 私は突然のことでドギマギしてしまった。

 吸血鬼界には今までいなかった人間がいるんだから、誰なのか、と聞かれるのは予想がついてたけど、それでもうまく言えない。


「人間のユキだよ。訓練に巻き込んじゃったお詫びに、この辺りを案内してたんだ」


 イアンさんが、私の代わりに全部説明してくれた。

 すると、ミリアさんは笑顔を輝かせて、


「そうなのですね。(わたくし)はナース・ヴァンパイアのミリアと申します。イアン様と同じ鬼衛隊に所属しております。よろしくお願い致します」


 そして礼儀正しくお辞儀をしてくれた。


 何か、お嬢様みたい……。


 その立ち振る舞いがあまりにも綺麗で、私はまた見惚れてしまいそうになった。


「え、えっと、ご紹介に預かりました。村瀬……あ、いや、雪です。よろしくお願いします!」


 やっぱりフルネームで名乗るのはやめよう。イアンさんもすごく言いにくそうだったし。


 よろしくお願いしますって今度はちゃんと言えた! 良かった!


 お辞儀をし、そして頭を上げると、ミリアさんが女神様みたいな笑顔で私に微笑みかけてくれた。


「ユキ様ですね。よろしくお願いいたします」


 え、初対面でミリアさんの方が明らかに年上なのに、私のこと様付け⁉︎

 そんな、申し訳ない……!


「もっとお話ししたいのですが、あいにくの状況ですので、(わたくし)はこの辺りで失礼します」


 様付けなんてしないでください! と言おうとした私よりも早く、ミリアさんがそう言って礼儀正しくお辞儀をした。


「ああ、そうだったね。キルを頼むよ、ミリア」


 イアンさんがミリアさんに応えた。

 ミリアさんはコクリと頷くと、黒マントをはためかせてキルちゃんが戦っている市場の方へ飛んでいった。


「お、おい! イアン!」


 私達のやりとりを呆然と見ていた誠さんが、我に返ったように大声でイアンさんを呼んだ。


「何だい? マコトくん」


「その子はまだ子供だぞ! 人間界では学校というものがあってだな、彼女はそこに行かなくてはならんのだ! ひとまず我々に身を預けさせてくれないか?」


 誠さんはまっすぐイアンさんを見つめながら懇願してくれた。


 ……あっ、学校! ヤバイ! どうしよう! 完全に遅刻だ……!


 あまりにもこの世界が楽し過ぎてすっかり忘れていたけど、本当は学校に行く途中だったんだ!

 でも、そこでイアンさんたちの訓練を目の当たりにして、カクカクシカジカで今に至る。


 ヤバイ! どうしよう! すぐにでも学校に行かなきゃ!


「あ、あの、私からもお願いします……。私、すっかり忘れてて……」


「ユキ、顔が赤いけど、どうかしたの?」


 心配そうに聞いてくれるイアンさん。


 顔赤いの? 私! 

 で、でも、そりゃあそうだよ! こんなに恥ずかしいことなんて無いもん‼︎


「私、学校に行かなきゃいけないんでした……」


 蚊の鳴くような声しか出てこない。

 恥ずかしさで縮こまっている私の肩をポンと叩いて、イアンさんは笑顔を浮かべた。


「わかった。ひとまずお別れだね。学校っていうものがどういう所か僕にはわからないけど、大事な所なんだね、ユキ」


 イアンさん、『学校が大事』なのは少なくとも『ごく普通の学生にとっては』の話です……。

 だって私、学校嫌いだもん!

 でもそんなことをイアンさんに面と向かって言えるはずもなく、私は小さく頷くことしか出来なかった。


「よし、交渉成立だな。そこの子、名前は確か」


 誠さんが私の方に視線を移して言った。


「ゆ、雪です!」


「そうか、雪。俺達と人間界に戻ろう。君は一刻も早く学校に行かなければ」


「はい……」


「心配しなくていいよ」


 小さく返事をした私を気遣ってか、イアンさんが私の頭をポンポンと撫でてくれた。


「また会えるじゃないか」


 そう言ってニコリと笑ってくれるイアンさん。

 その笑顔につられて私の広角も自然と上がってくる。


「は、はい!」


「雪、こっちだ」


 声に振り向くと、誠さんが私を手招きしていた。

 行ってみると、地面に魔法陣のようなものが刻み込まれている所に着いた。


「こ、これって……?」


「亜人界と人間界を繋ぐ、いわばループ道具のようなものだ。我々の基地にも同じものがあるから、どうしてもまた来たければ言うといい」


「は、はい、ありがとうございます!」


 私は誠さんにお辞儀をした。


「ユキ」


 イアンさんの声に振り向くと、イアンさんがとても優しい顔をして立っていた。


「またね」


「はい!」


「では、行くぞ」


 誠さんの声と同時に視界が魔法陣の水色の光に包まれ、目の前のイアンさんの姿もだんだん霞んでくる。

 イアンさんは笑顔で私に手を振ってくれた。私もおそるおそる振り返す。

 徐々に薄れていくイアンさんの姿。


 そのイアンさんが微笑みながらも、寂しげな表情を浮かべていた気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言] おはようございます! VEOといい天兵といい、やはり種族が違ったりすると諍いことはあるもので、悲しいかな、こういう設定もまた異世界があるという世界観をリアルにさせますね。 さて、雪は一度学…
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