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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第三章 夏合宿編
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第54話 魔女の標的は転校生

 私が後藤さんや風馬くんにバレないようにこっそり後をつけていくと、やはり二人の目的地は体育館裏だった。


 誰かを呼び出す時に後藤さんが決まって連れてくる場所で、私も数回お世話になった。


「後藤。話って何だ?」


 体育館裏に着くと、早々に風馬くんが話を切り出した。


 私はバレないように、角の一角で息をひそめて二人の会話を聞くことにした。


 もし風馬くんに何かあればすぐに飛び出せるように。これで準備万端だ。


「俺が何かマズいことしたなら謝るよ。俺、何かした?」


 風馬くんの声色に不安が募る。


「心当たりあるでしょ」


「え? ……いや、無いけど」


「嘘つかないで! 転校生だからって何でもとぼければ良いって問題じゃないんだからね」


 強めの口調で後藤さんは言う。


 ひどい、風馬くんは転校生だからって理由でとぼけてるわけじゃない。


 本当に心当たりが無いだけなのにそんな言いがかりつけるなんて……。


「いや、別にそんなつもりじゃないけど」


「シラを切り続けるんだったら教えてあげるわ、柊木くん。あなたがボッチの村瀬さんと同じ班になったことよ!」


「……えっ、それが駄目なのか?」


 後藤さんの言葉に面食らったように風馬くんが聞き返す。


「当たり前でしょ! あなたね、自分が何考えてるか分かってる?」


 そんな風馬くんに後藤さんは食いつき、


「あの子はボッチなの。ボ・ッ・チ! 言葉の意味分かるでしょ?」


 少し間が開く。おそらく風馬くんが頷いたのだろう。


「クラスで友達を作れなかったひとりぼっちに優しく手を差し伸べてあげるほど優しい世界じゃないのよ、ここは。小学生じゃあるまいし。ボッチはずっとボッチなの」


「……村瀬がボッチだったら」


 あくまでも自分の主張を言い続ける後藤さんを半ば遮るようにして、風馬くんが言葉を発する。


「村瀬がボッチだったら、友達になったら駄目なのか? 手を差し伸べたら駄目なのか?」


「そ、そうよ。世の中には暗黙の了解っていうのがあるの。浮いた奴は一生浮いたまま。誰もお節介なんて焼いてあげないわよ。世の中そんなに甘くないの」


 後藤さんが少したじろぐ。風馬くんがここまで反抗してくるとは思っていなかったんだろう。


「……何だそれ」


 風馬くんが微笑を含んだ声で言った。


「え?」


 怪訝そうに後藤さんが聞き返すと、


「そんなことのために俺を呼び出したのか?」


「そうよ。一人だけ変な行動取られたら困るもの」


「お前らが勝手に変って思ってるだけだろ? 俺は別に普通だと思ってる」


 風馬くんの反抗的な態度に後藤さんが吐息。


「何その上から目線」


「そっくりそのままお前に返すよ」


「っ!」


 また後藤さんが押し黙る。これをチャンスと見たのか、さらに風馬くんは畳み掛ける。


「村瀬にもそうやって偉そうに言って苦しめてきたんだろ。学級委員長だか何だか知らないけど、そんなんじゃ誰もいなくなるよ」


「な、何よ! あんたの方が偉そ――」


「もういい?」


 風馬くんの声が後藤さんを遮る。


「俺、もう帰らなきゃ。この後用事があるんだよ」


「い、良いわよ。その代わり、覚えときなさい。あたしに歯向かったらどうなるか」


 吐き捨てるようにして、後藤さんは私が息をひそめている方へと歩いてきた。


 ま、マズい、見つかっちゃう……!


「うわっ! 何よ、盗み聞きとか、感心しないわね」


 物陰に隠れていた私に気付いた後藤さんが、目を丸くして少し飛び跳ねる。


 ご、ごめんなさい……。


 やっぱり見つかっちゃった。そりゃあそうか。来た道帰るの当然だし、その方向に隠れてたら見つかるよね。


「村瀬」


 私を見た風馬くんがたちまち笑顔になる。先程までの態度とは大違いだ。


「ふん! バーカ!」


 私たちに向かってベーっと舌を突き出すと、後藤さんは足早に走り去っていった。


「何だったんだろうな、あの子」


 腰に手を当て、風馬くんが走る後藤さんの背中を見つめて笑う。


「風馬くん、大丈夫だった? ごめんなさい。私、隠れて見てることしか出来なくて、結局何も助けにならなかった」


「ううん、そんなことないよ。助けようと思ってくれてありがとう、村瀬」


 優しい笑顔を見せてくれる風馬くん。


「あっ、ごめん、引き止めて。用事あるんだよね。また明日」


 さっき風馬くんが言っていたことを思い出して、私は挨拶も早々に手を振る。


 すると風馬くんは突然吹き出して笑った。


「ごめんごめん。あれ嘘。ああでも言わないと、あの子しつこそうだったから」


 面倒そうにウインクしつつ頭を掻く風馬くんを見て、


「な、何だ、そうだったんだ。良かったぁ〜」


 私は胸をなでおろした。


「本当、村瀬は優しいな」


 風馬くんは笑って私の頭をポンポンと叩いてくれた。


 思わず顔が赤くなる。肩を縮めて小さくなる私が面白かったのか、風馬くんはまた笑って、


「せっかくだし、一緒に教室まで帰ろうよ」


「う、うん!」


 何か、本当にカップルみたい。でもこの調子ならひとりぼっち生活から脱出できそう!


 自立できるように、頑張るぞ!


 と、私は密かに決意を固めるのだった。

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