第52話 私で良ければ
「はい、じゃあ静かに! 授業始めます!」
授業始めのチャイムが鳴って、先生が教室に入ってきた。
仲良い子同士で話していた生徒たちも、バラバラと散らばって自分の席に着く。
授業と言っても、正式にはLHR。
昨日の予告通り、夏合宿についての説明会だ。
先生はまず、皆が座ったのを確認すると、少し分厚い冊子のようなものを配り始めた。
昨日同様、前の席の子から乱暴に渡されたそれに目を通す。
表紙には大きく『夏合宿!』と書いてあって、サブタイトルのように『勉強でスキルアップ!』と先生の本音も付け加えられていた。
その下にはサブタイトルを分かりやすく強調するような、勉強に勤しむ男女のイラスト。手が込んであってなかなかお上手。
「そのしおりを見てもらえれば分かる通り、来週月曜日から金曜日まで夏合宿を行う予定です。皆知ってると思うけど、勿論勉強しに行くんだからね⁉︎」
ニヤリといやらしい笑みを浮かべながら、先生はがっかりする私たちを嘲笑うかのようだ。
「先生ー、海は行かないんですかー?」
「BBQしましょうよー!」
早速、クラスから一斉に遠回しのブーイング。
でも先生はそれをサラリとかわして優雅に笑うと、
「はい、とりあえずしおり見る! まず最初のページの予定表。何回も見るから必要な所はマーカーで線引いていってね」
予定表には月曜日から金曜日、合計五日間のスケジュールが書かれてあった。
うーんと……あ! あった!
思わず声に出してしまいそうになるのを抑えて、私は一人喜びに浸る。
二日目と四日目のお昼頃に、皆の期待が詰まっていたのだ。
二日目の昼に海水浴、そして四日目の昼ごはんはBBQ!
先生、ありがとう!
私は心の中で先生にお礼を言う。
その間にも説明は進んでいて、気付けば自由行動の時の班決めまで来ていた。
ていうか先生、『勉強勉強』言ってる割には遊びの説明しかしてないじゃん。
それにしても、班決めどうしよう……。
仲良い子いないから、どこかに入れてもらうしかないか。申し訳ない。
「じゃあ、自由に動いていいから、各自で班決めしてください!」
先生の声を合図に、一気に教室がざわめき始め、生徒達は立ち上がって仲良い子同士で集まっていた。
でも生徒のほとんどは……。
ちらりと風馬くんの方を見ると、案の定たくさんの女子達に囲まれていて困っている様子だった。
風馬くんを囲む女子達は、目をピンク色のハートの形にして、
「柊木くん! 私達と一緒の班にならない?」
「風馬くん! こっちこっち! 私達と班になって!」
名字で呼んでみたり下の名前で呼んでみたり、手を引っ張ってみたりと、色々な手段を使って風馬くんを誘惑していた。
く、くぅ~。悔しい……!
私も出来れば風馬くんを誘いたいけど、あんなに女子達に囲まれちゃ風馬くんに近付くこともままならない。
風馬くん、どうするのかな。
風馬くんがどう動くか、私は息を呑んで見守ることにした。
風馬くんは、迷惑そうに女子達の隙間からキョロキョロと顔を覗かせ、私と目が合うと顔を輝かせて手を振った。
席も隣なのに、取り巻きの女子達のせいで遠くにいるみたいに手を振る始末。
も、もしかして、風馬くん、私と一緒に……?
そんな淡い期待を抱いてしまう。
「ちょっとごめん、通して」
風馬くんは取り巻きの女子達に離れるよう笑顔で言うと、私の席までやって来た。
「俺と一緒の班にならない? 村瀬」
息を弾ませ、風馬くんが尋ねてきた。
「えっ?」
驚きの声をあげたのは、私だけじゃなく取り巻きの女子達も同じだった。
「い、いいの? 私で……。ほら、いっぱい誘われてるのに」
取り巻きたちが、恨めしそうに私を見ている。
ごめんなさい。私から誘った訳じゃないんですけどね。
心の中で言い訳しつつ、風馬くんを見上げる。
「あぁ、良いんだ」
風馬くんは言いながら、未だ風馬くんの席で風馬くんを見つめる女子達を振り返り、
「皆には申し訳ないけど、俺、村瀬と一緒の班が良いなって思ってるから」
私を見下ろし、若干不安そうな表情を覗かせる風馬くん。
「駄目、か?」
「え、えーっと……」
もう、どう答えればいいの?
風馬くんと一緒の班になりたいのは山々だけど、ここでOKすると皆からのブーイングが怖い……。
でも、風馬くんと同じ班になりたい!
でも、皆から絶対非難されるの確定だし……。
でも、でも、でも……。
「わ、私で良ければ……」
気付けばそう返事していた。
私の返事を聞いた風馬くんの笑顔が、パアッと輝いた。




