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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第三章 夏合宿編
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第49話 こ、こ、こ……恋⁉︎

「へぇ〜。新しい人間が来たんだ」


 私が吸血鬼界の家で、転校生の柊木風馬くんのことを伝えると、キルちゃんが笑顔で言った。


「うん。優しそうな子で、しかもすっごくイケメンだった」


「顔が赤いですよ。ユキ様」


 ミリアさんが、からかっているような声音で柔らかくふわりと笑う。


「えっ!? そ、そうですか?」


 ミリアさんに言われて頬を押さえる。心なしか熱い気がするけど……。


 だ、だって、あんなカッコいい顔で喋られたら、誰だってときめいちゃうよ。顔が整ってる人って本当に羨ましい。


 風馬くん……。私の脳内にキラキラと輝く星々の中、あのカッコいい微笑みを向ける風馬くんが思い浮かぶ。


 さっきよりもっと顔が赤くなり、湯気でも出てきそうな感じだったので、急いで手で覆った顔を伏せた。


「もしかして、そいつに恋したか? ユキ」


 レオくんが白い歯を見せた。


「こ、こ、こ……」


 皆が不思議そうに私を見つめる。


「恋ぃぃぃぃぃぃ⁉︎」


 今までの私には無縁だった言葉を投げかけられて、あまりの衝撃に甲高い声で叫んでしまった。


 ハァ、ハァ、と息を吐き、ハッと我に返って皆の方を見ると、その場に硬直したまま私の方を見ている。


 皆、分かりやすくドン引きしていた。


 恥ずかしくなって、さっきまでとは別の意味で顔が赤くなる。


 もう何が何だか分からなくなって、頭が爆発しちゃうよ……。


「んんんんん〜!」


 気持ちの悪い奇声を発してしまう。


 今の私はおそらく、ものすごいスピードで家の中を駆けずり回っていただろう。


 だ、だってだって、私が『恋』だよ⁉︎


 小学校でも中学校でも友達一人出来ないで、ポツンと教室に座ってた正真正銘『ひとりぼっち』の私が!!


 あり得ないあり得ないあり得ないあり得ないあり得ない……。


 『恋』っていうのは、学校生活も楽しんでて人生エンジョイしてる勝ち組の子たちがするものだよ。


 私みたいな、人生の負け組がするようなものじゃないと思うんだよね。


 決めつけはダメだけど、でも本当そういうものだと思う。


 ……ってことは私、ついに人生の勝ち組になれるってこと?


 もし風馬くんとそういう関係になれたら、今までの暗くて地味で何でも受け身な村瀬雪とはおさらば出来る。


 代わりにやってくるのは、明るくて派手で積極的な村瀬雪!


 おぉ〜! すごいすごい! 脱・ぼっち出来る!


 イアンさんたちにも迷惑かけずに済むし、吸血鬼界にはたまに遊びに行く程度になるだろうから、現実逃避も必要ない!


 良いこと尽くしだ……。えへへへ。


「ストップ!」


 不意に肩を掴まれて駆けずり回っていた私の足は、言う通りにストップ。


 でも勢い付けすぎたせいで前のめりになって……。


 ボフッと、そのまま制止させてくれた人の胸の中へ飛び込んでしまった。


「ぎゃぁぁぁぁぁ! ご、ごめ、ごめ、ごめんなさい!」


 急いで謝り、その相手の顔を見ると、


「う、うん、大丈夫だよ、ユキ」


 少し困り気味に、頭を掻くイアンさんが笑顔で立っていた。


「……イアンさん! ごめんなさい! 急に暴れて変な声出して、おまけに、その、その……」


 続きはどうしても言いづらくて、また顔を赤くしたまま俯いてしまう。


 『胸の中に飛び込んじゃってごめんなさい』なんて言えるわけないよ……。


「僕は大丈夫だから。ユキは一旦落ち着こう。ね?」


 イアンさんに『はい、深呼吸〜』と言われるがまま、息を思いっきり吸って吐いてを繰り返し、私はやっと正気を取り戻した。


「でも良かったよ」


 再び席についた私を見てキルちゃんが笑顔で言った。


「え? どういうこと?」


「だってユキ、人間界楽しくないって言ってたのに今ちょっと楽しそうだから」


 その場にいた全員が頷く。


 キルちゃんの言葉を聞いて、皆の頷きを見て私は思った。


 私、皆にものすごく心配してもらってたんだ。


 私が吸血鬼界(ここ)に来るたびに人間界(あっち)の愚痴が飛び出したら、皆熱心に聞いてくれた。


 だけど本当は皆すごく不安だったはず。


 毎日毎日、愚痴から始まる吸血鬼界での私の暮らし。


 吸血鬼界の皆を巻き込んでしまったと言っても過言ではない。


 愚痴をほぼ毎日聞かなくちゃいけない苦労も考えないで、私ってば自分の事ばかり優先してた。


 嫌な学校の愚痴をどんよりとした雰囲気で言って、その後に転校生のことをはしゃいで言って……。そんなの自己中だ。迷惑に決まってる。


「素晴らしいことですよ、ユキ様」


 そんな事を考えていると、不意にポンと肩を叩かれた。


 顔を上げると、ミリアさんの優しい笑顔が飛び込んできた。


 彼女が小首を傾げて微笑むと同時に、黄色い長髪がふわりと揺れた。


「嫌だった世界で、どんなに小さくてもユキ様はお一人で楽しみを見出しなさったのですから」


「ミリアさん……」


「ミリアの言う通りさ、ユキ」


 イアンさんが椅子から立ち上がって、


「前に言ってたじゃないか。『暫く自分の力で人間界に留まる。自分で解決できるようになるまで吸血鬼界には行かないようにする』。天兵長と約束したって」


「は、はい」


 イアンさんは、にっこり笑って言った。


「その約束、今果たすべきじゃないかい? ユキが人間界に少しでも楽しみを見出せてる今なら、僕は出来ると思うよ」

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