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私の英雄は吸血鬼  作者: 希乃
第三章 夏合宿編
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第48話 幸せな日々なんて送らせないんだから

「それにしても、昨日はすごかったなぁ」


 朝、学校に向かいながら私は一人呟いた。


 昨日吸血鬼界に行った時に見た、テインさんの汚れた牙を思い出す。


 テインさんというのは、吸血鬼界の王様ブリス陛下の秘書で、ナース・ヴァンパイアという種族の吸血鬼。とても丁寧で優しい方だ。


 そしてその彼女の黒ずんだ牙。


 最初見た時は何事かと思ったけど、一昨日の戦いで天使の毒に侵されたキルちゃんとミリアさんの毒を牙で吸い取ったようだった。


 テインさんによれば、ナース・ヴァンパイアの特性上毒や異物など身体に害を及ぼす物を自動で浄化できるとのこと。


 勿論その事を知らなかった私は、テインさんにも毒が回っちゃうと思って焦ってしまったんだけど。


 夕方になって意識が無かったキルちゃんとミリアさんの意識が戻り、私はホッとした気持ちでおじいちゃんに怪しまれないよう早めに家に帰ったのだった。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 私はいつも通り存在感を消して、そぉーっと教室に入る。


 何だか今日はいつも以上に教室が騒がしい。何かあるんだろうか。


 疑問に思っていると、先生が入ってきて教壇に立ち、クラスを見回してこう言った。


「今日は転校生を紹介するわね」


 転校生? まだ六月なのに珍しいな。


 そう思っているのは私だけではなかったようで、一気にクラスがざわめいた。


「こら、静かに!」


 先生が慌てて制止させるけど、皆の声のボリュームはさっきより下がったものの、やっぱりすぐには静かにならなかった。


 諦めたのか、先生はため息をついて、


「今から自己紹介してもらうから」


 そう言って引き戸を開けた。皆の視線が一斉にドアの方に集まる。私もドアの方を見た。


 どんな子なんだろう。仲良くできるといいな……。


 そんな淡い期待を胸に抱いていると、転校生の子が教室に入ってきた。


「おぉー!」


 教室は再びざわめき出した。


 やや緊張気味に、真新しい制服に身を包んで先生と同じように教壇に立ったのは男の子だった。


 女子たちが黄色い歓声をあげ、男子たちが悔しそうに唸る中、その子は自己紹介。


「初めまして。柊木(ひいらぎ)風馬ふうまです。よろしくお願いします」


 ペコリとお辞儀をし、名前だけ名乗ってその子の自己紹介は終わった。


 柊木風馬くんか……。


 彼は顔も整ってて親しみやすそうな感じが伝わってくるような男の子だった。


 もしかしたら私も仲良くなれちゃうかも?


 私と風馬くんがまるでカップルみたいに仲良くしているところを思い浮かべてしまい、思わず頬が赤くなる。


「よろしく」


「え!?」


 急に声をかけられて思わず上ずった声を出す私に、風馬くんは少しだけ頬を緩めて、


「席、隣みたいだから」


 風馬くんに言われて改めて見ると、漫画で転校生に与えられる席に存在している私の隣に、もう一つ机と椅子が用意されていた。


 嘘! 出会ったばかりなのに隣同士なの!?


 衝撃的過ぎてフリーズしてしまう。


 あ、でもせっかく声かけてくれたのに早く返事しないと変な人だと思われる!


「う、うん! よろしく」


 そう思って急いで返事した。


 風馬くんは安心したように頷いて席に座った。


 良かった。何とか最初で失敗せずに済んだよ……。何か気のせいか顔が熱い……。


「ということだから、皆仲良くするようにね」


 先生の声を合図に、クラス中から風馬くんに割れんばかりの拍手が送られた。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 放課後。私はウキウキした気持ちで校門を出た。


「やぁ、ユキ。行こうか」


 笑顔で待っていてくれたのは、すっかり人間界の常連になったと言っても過言ではないイアンさん。


 私を吸血鬼界に連れて行ってくれるため、毎日人間界に来ていることになるのだ。


「はい!」


 私も笑顔で頷いた。


 イアンさんの魔法で魔法陣が出現し、今日も私は吸血鬼界に向かう。


 放課後の教室でこんな会話がされているのも知らないで____。


 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「ねぇねぇ、柊木くん」


 放課後。席に座ったまま一呼吸つく風馬に、馴れ馴れしく後藤(ごとう)亜子あこが甘い声で言った。


「あたし、Aクラスの学級委員長なの。分からないことがあったらあたしに何でも聞いてね」


「うん。ありがとう」


 クールな風馬に目を輝かせつつ、亜子は人差し指を立てて、


「あと、一つだけ忠告いいかしら?」


 風馬が頷くのを見てさらに続ける。


村瀬(むらせ)ゆきには関わらない方がいいわよ」


「村瀬って……この?」


 雪が座っていた席に視線をやる風馬に、亜子は意味ありげに頷いて、


「この子、実はボッチなの。誰とも関わろうとしない暗い奴。だから関わっても何の得にもならないわ」


「そうなんだ……」


 風馬は、あくまでも純粋に亜子の言葉を受け取った。


 『ふーん』と納得の意を示す風馬に、亜子は目を細めてほくそ笑んだのだった。


 ____村瀬雪、あんたに幸せな日々なんて送らせないんだから。

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